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第4章 更なる戦い
第256話 勅使河原の挑戦12
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「・・・っ!?」
勅使河原の眼前に、一瞬にして亜里沙が詰め寄ってきた。
ー・・・速い!!ー
あまりの動きの速さに、勅使河原は対応しきれず、身動き一つとることができなかった。
「あなたが断るかどうかなんて、一切関係ないのよ。勅使河原マヤさん・・・私は命じているの、ここから立ち去りなさいって」
勅使河原の顎を掴み、自分の方へと顔を向けさせてから、厳かに告げる亜里沙。ともすれば、二人の顔は唇が接触しそうになるくらいまで接近していたのだった。
「・・・なるほど」
この女、確かに伊達や酔狂で所長をやっているわけではない。今の一瞬の動きでよくわかったが、この女の実力は、本大会でもトップクラスのものだろう。
今、まともにやり合っても勝ち目はないだろう。
ー実力的には、一条紗耶香さんと互角なのかしらねー
勅使河原は、生前に自らが羨望し、そして今目標としている、あの銀色の髪を靡かせた少女のことを思い描いた。彼女の取り巻きである天内葉月という少女にちょっかいを出していたところ、一条紗耶香と対面することになったのだ。
ーここは、おとなしく退いた方が身のためなのかしらー
勅使河原の頬を一筋の汗が伝う。表情は相変わらずの悠然さを保っているが、体の方はかなり正直なようで、それが冷汗という形で流れ出ていたのだった。
「所長と呼ばれるだけあって、かなりの腕前のようね」
それでも虚勢を張ってしまうのは、亜里沙から先ほど「特別ではない」と言われたからだろう。自分を否定されたという屈辱と赫怒が、この場から退くという理性的な判断を妨げることとなった。
「でも・・・ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかないのよ!!」
勅使河原は、自らの顎を掴んだままの亜里沙の手を振り払うと、後方へと飛び退んで亜里沙から距離を取ろうとする。
「あなたの獲物は、その金属の糸ね」
「・・・!!」
まさに、これから仕掛けようとしていた鋼線の存在を見破られ、またも勅使河原は息を呑むこととなった。
ー私の獲物をいとも簡単にー
「手ぶらで帰るつもりはないっておっしゃっていたけど、なら、この場で私と戦って、首級でも上げるおつもりなのかしら?」
ヒタヒタと、亜里沙が全く動じることもなく近づいてくる。こちらの手の内を見破ったうえで、それでもなお、大したことでもないかの如く歩み寄ってくる様に、勅使河原は更なる怒りを感じた。
その一方で、亜里沙のあまりにも悠然とした歩みと態度に畏怖も感じていた。
「ここで本格的に私と戦うというのならウケて立つけど・・・その場合、あなた自身が、あなたの言う工芸品とやらの仲間入りになるわよ」
亜里沙が口の端を釣り上げた。酷薄な笑みを浮かべつつ、勅使河原を嘲るように、高みから見下ろす感じで宣告した。
「一瞬でね」
亜里沙から距離を取ったはずなのに、いつの間にかまた距離を詰められる勅使河原。さっき、自分が夏樹を怯えさせたように、今度は自分が亜里沙の存在に恐れおののく番となっていた。
勅使河原の眼前に、一瞬にして亜里沙が詰め寄ってきた。
ー・・・速い!!ー
あまりの動きの速さに、勅使河原は対応しきれず、身動き一つとることができなかった。
「あなたが断るかどうかなんて、一切関係ないのよ。勅使河原マヤさん・・・私は命じているの、ここから立ち去りなさいって」
勅使河原の顎を掴み、自分の方へと顔を向けさせてから、厳かに告げる亜里沙。ともすれば、二人の顔は唇が接触しそうになるくらいまで接近していたのだった。
「・・・なるほど」
この女、確かに伊達や酔狂で所長をやっているわけではない。今の一瞬の動きでよくわかったが、この女の実力は、本大会でもトップクラスのものだろう。
今、まともにやり合っても勝ち目はないだろう。
ー実力的には、一条紗耶香さんと互角なのかしらねー
勅使河原は、生前に自らが羨望し、そして今目標としている、あの銀色の髪を靡かせた少女のことを思い描いた。彼女の取り巻きである天内葉月という少女にちょっかいを出していたところ、一条紗耶香と対面することになったのだ。
ーここは、おとなしく退いた方が身のためなのかしらー
勅使河原の頬を一筋の汗が伝う。表情は相変わらずの悠然さを保っているが、体の方はかなり正直なようで、それが冷汗という形で流れ出ていたのだった。
「所長と呼ばれるだけあって、かなりの腕前のようね」
それでも虚勢を張ってしまうのは、亜里沙から先ほど「特別ではない」と言われたからだろう。自分を否定されたという屈辱と赫怒が、この場から退くという理性的な判断を妨げることとなった。
「でも・・・ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかないのよ!!」
勅使河原は、自らの顎を掴んだままの亜里沙の手を振り払うと、後方へと飛び退んで亜里沙から距離を取ろうとする。
「あなたの獲物は、その金属の糸ね」
「・・・!!」
まさに、これから仕掛けようとしていた鋼線の存在を見破られ、またも勅使河原は息を呑むこととなった。
ー私の獲物をいとも簡単にー
「手ぶらで帰るつもりはないっておっしゃっていたけど、なら、この場で私と戦って、首級でも上げるおつもりなのかしら?」
ヒタヒタと、亜里沙が全く動じることもなく近づいてくる。こちらの手の内を見破ったうえで、それでもなお、大したことでもないかの如く歩み寄ってくる様に、勅使河原は更なる怒りを感じた。
その一方で、亜里沙のあまりにも悠然とした歩みと態度に畏怖も感じていた。
「ここで本格的に私と戦うというのならウケて立つけど・・・その場合、あなた自身が、あなたの言う工芸品とやらの仲間入りになるわよ」
亜里沙が口の端を釣り上げた。酷薄な笑みを浮かべつつ、勅使河原を嘲るように、高みから見下ろす感じで宣告した。
「一瞬でね」
亜里沙から距離を取ったはずなのに、いつの間にかまた距離を詰められる勅使河原。さっき、自分が夏樹を怯えさせたように、今度は自分が亜里沙の存在に恐れおののく番となっていた。
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