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第4章 更なる戦い

第249話 勅使河原の挑戦5

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「・・・見学、だと?」
 釘宮夏樹が訊き返す。
「ええ、そうよ・・・素敵な刑務官さん」
 勅使河原は穏やかな笑みを浮かべながら答えたー穏やかではあるのだが、見る者にどこか落ち着かなさを感じさせるのは、いったいなぜなのだろうかー
 夏樹は、内心の不安を相手に悟られないように、平然とした振りを装いながら、
刑務所ここを見学するというのか・・・?」
 かすかに口の端を釣り上げ、夏樹はさらに続ける。
「見学希望者とは、珍しいな・・・何だお前、囚人になりたいのか」
 目の前の女は、言い知れぬ何かを抱えているのは間違いないが、しかしその容姿は確かに抜群だ。夏樹自身も、これほどの美人にはそうそうお目にかかったことはなかった。
 ここでこのまま逃がしてしまうのは、確かに惜しいかもしれない。だがー
 ーなぜなんだろうな・・・どうしてこいつを見ていると、こんなに落ち着かなくなるんだ・・・?ー
 本能的な部分で、自分はこの女を恐れている。この女に見つめられているだけで、こうも焦燥感を駆り立てられるのは、なぜなのだろう。
「フフフ・・・」
 勅使河原マヤと名乗った女が微笑を浮かべている。本来なら、これだけ美しい容姿の持ち主に見つめられるだけでドギマギするはずなのに、湧いてくる感情は不快感を伴うものばかりだった。
「勘違いなさらないで、刑務官さん」
 勅使河原が軽く小首をかしげる仕草をした後の、ほんの一瞬だった。
「・・・っ!?」
 一瞬で、夏樹の目の前に間合いを詰めてきたのだ。夏樹は、驚愕のあまり、金縛りにあったかのように動くことができないでいた。
 勅使河原の白く細い手が、夏樹の頬に触れてくる。ひんやりとしたその手に触れられるだけで夏樹は自らの背筋が凍り付くような錯覚に陥った。
「・・・お、お前」
 夏樹の声に怒気が混じるーが、体は動かないーなぜか動いてくれないのだ。
 ー何なんだ、いったいどうなってるんだよー
「素敵な刑務官さん、私はここを見学したいのよ・・・あなたたちと同じ立場になって」
 勅使河原は、愛おしそうに夏樹の頬を撫でると、その手を彼女の喉元へと下ろした。白く細い少女の首は、ほんの少しでも力を入れれば簡単に絞め殺してしまえそうに思われるくらい脆そうだった。
「あ、ああ・・・ああ」
 先ほどまでの怒気を含んだ声が、今度は少しずつ恐怖に彩られていくー
 ーいやだー
 この女に触れられるのを、なぜか夏樹は嫌がった。彼女の本能が受け付けないみたいな感覚だったのだ。
 ーいやだいやだー
 勅使河原の両手の細い指が、彼女の首に添えられる。まるでいつでも絞め殺せるように、と勅使河原が備えているようにも見えた。
 ーいやだいやだいやだー
 勅使河原の、髪と同じくらいに黒々とした瞳が怯えた夏樹の姿を映し出していた。
 ーだれか・・・助けてー
 声を上げようとするが、今度は声すら出なくなっていたー
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