241 / 499
第4章 更なる戦い
第240話 静寂の街
しおりを挟む
「ふむ・・・」
ーやはり、私の見立て通り、あの鉄扇の女の勘は鋭かったー
少なくとも、今の段階ではまだこちらの尾行には気が付いていない様子だが、一つ間違えれば見つかっていたかもしれない。
自慢の脚力で、とっさに民家の2階のベランダ付近に隠れ、何とか見つからずに済んだ朝霞。あくまでも、看守たちから命ぜられたのは3人の尾行とアジトの確認だ。ここで見つかればそれどころの話ではなくなる。
「・・・一旦、帰って報告した方がよさそうね」
これ以上ここに留まっていても、見つかるリスクを高めるだけだ。偵察の役目は果たしたし、アジトの場所も無事に見つけることができたので、ここは一旦3人の看守の元に戻った方が無難だろう。これ以上の深追いは避けるべきだ。
3人の少女たちが旅館に入ったのを確認して、朝霞は民家の2階からこともなげに地面へと着地する。庭に降りて、改めて周囲を警戒し直すが、付近には誰もいないようだ。
ここから、3人の看守たちのいる駅方面はそれなりに離れてはいるものの、人間離れした脚力の持ち主でもある朝霞にとってはさしたる問題でもない。
朝霞は、人気のない街の中を疾走していく。街並みだけを見れば日本と全く同じはずなのだが、人がいないというだけでやはり異質感がある。それまで人がいた場所から、一瞬にして全員が姿を消したーような錯覚に陥る。
まるで、この街にただ一人だけ取り残されたような寂寥感と、その反面、誰にも自分の行動が邪魔されることはないのだという解放感。
「自分だけしかいない街、か・・・」
昔、何かの媒体でそういう題材を扱った作品を見たことがある気がする。生前の記憶がほとんどない朝霞だったが、なぜかそれだけははっきりと覚えているのだ。そのくせ、家族のことなど、本来忘れるはずもないことは全く記憶になかったりする。
自分でいうのも何だが、実に不可思議な記憶喪失だった。
なぜ、自分は他の参加者たちと違って、生前の記憶がほとんど欠落しているのかー
大会参加当初は、気になっていたことではあるが、今となっては半ばどうでもよくなってきていた。
考えてみれば、記憶がないからと言って、この島で暮らしている以上、それに困るということはなかった。むしろ、余計な記憶を抱え込んで今後のバトルに影響が出るくらいなら、いっそのことこのままない方がいいかもしれない。
大会運営側が、参加者たちの生前の記憶のうち、死の直前の記憶については曖昧化しているのも、それがこのゲームでの枷になりかねないと判断しているからだろう。
それならば、単に自分はその「範囲」が広かったというだけの話に過ぎないのではないかー
そう自分に言い聞かせることで何とか納得してきた朝霞だった。
ーやはり、私の見立て通り、あの鉄扇の女の勘は鋭かったー
少なくとも、今の段階ではまだこちらの尾行には気が付いていない様子だが、一つ間違えれば見つかっていたかもしれない。
自慢の脚力で、とっさに民家の2階のベランダ付近に隠れ、何とか見つからずに済んだ朝霞。あくまでも、看守たちから命ぜられたのは3人の尾行とアジトの確認だ。ここで見つかればそれどころの話ではなくなる。
「・・・一旦、帰って報告した方がよさそうね」
これ以上ここに留まっていても、見つかるリスクを高めるだけだ。偵察の役目は果たしたし、アジトの場所も無事に見つけることができたので、ここは一旦3人の看守の元に戻った方が無難だろう。これ以上の深追いは避けるべきだ。
3人の少女たちが旅館に入ったのを確認して、朝霞は民家の2階からこともなげに地面へと着地する。庭に降りて、改めて周囲を警戒し直すが、付近には誰もいないようだ。
ここから、3人の看守たちのいる駅方面はそれなりに離れてはいるものの、人間離れした脚力の持ち主でもある朝霞にとってはさしたる問題でもない。
朝霞は、人気のない街の中を疾走していく。街並みだけを見れば日本と全く同じはずなのだが、人がいないというだけでやはり異質感がある。それまで人がいた場所から、一瞬にして全員が姿を消したーような錯覚に陥る。
まるで、この街にただ一人だけ取り残されたような寂寥感と、その反面、誰にも自分の行動が邪魔されることはないのだという解放感。
「自分だけしかいない街、か・・・」
昔、何かの媒体でそういう題材を扱った作品を見たことがある気がする。生前の記憶がほとんどない朝霞だったが、なぜかそれだけははっきりと覚えているのだ。そのくせ、家族のことなど、本来忘れるはずもないことは全く記憶になかったりする。
自分でいうのも何だが、実に不可思議な記憶喪失だった。
なぜ、自分は他の参加者たちと違って、生前の記憶がほとんど欠落しているのかー
大会参加当初は、気になっていたことではあるが、今となっては半ばどうでもよくなってきていた。
考えてみれば、記憶がないからと言って、この島で暮らしている以上、それに困るということはなかった。むしろ、余計な記憶を抱え込んで今後のバトルに影響が出るくらいなら、いっそのことこのままない方がいいかもしれない。
大会運営側が、参加者たちの生前の記憶のうち、死の直前の記憶については曖昧化しているのも、それがこのゲームでの枷になりかねないと判断しているからだろう。
それならば、単に自分はその「範囲」が広かったというだけの話に過ぎないのではないかー
そう自分に言い聞かせることで何とか納得してきた朝霞だった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる