百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

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第4章 更なる戦い

第240話 静寂の街

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「ふむ・・・」
 ーやはり、私の見立て通り、あの鉄扇の女の勘は鋭かったー
 少なくとも、今の段階ではまだこちらの尾行には気が付いていない様子だが、一つ間違えれば見つかっていたかもしれない。
 自慢の脚力で、とっさに民家の2階のベランダ付近に隠れ、何とか見つからずに済んだ朝霞。あくまでも、看守たちから命ぜられたのは3人の尾行とアジトの確認だ。ここで見つかればそれどころの話ではなくなる。
「・・・一旦、帰って報告した方がよさそうね」
 これ以上ここに留まっていても、見つかるリスクを高めるだけだ。偵察の役目は果たしたし、アジトの場所も無事に見つけることができたので、ここは一旦3人の看守の元に戻った方が無難だろう。これ以上の深追いは避けるべきだ。
 3人の少女たちが旅館に入ったのを確認して、朝霞は民家の2階からこともなげに地面へと着地する。庭に降りて、改めて周囲を警戒し直すが、付近には誰もいないようだ。
 ここから、3人の看守たちのいる駅方面はそれなりに離れてはいるものの、人間離れした脚力の持ち主でもある朝霞にとってはさしたる問題でもない。
 朝霞は、人気のない街の中を疾走していく。街並みだけを見れば日本と全く同じはずなのだが、人がいないというだけでやはり異質感がある。それまで人がいた場所から、一瞬にして全員が姿を消したーような錯覚に陥る。
 まるで、この街にただ一人だけ取り残されたような寂寥感と、その反面、誰にも自分の行動が邪魔されることはないのだという解放感。
「自分だけしかいない街、か・・・」
 昔、何かの媒体でそういう題材を扱った作品を見たことがある気がする。生前の記憶がほとんどない朝霞だったが、なぜかそれだけははっきりと覚えているのだ。そのくせ、家族のことなど、本来忘れるはずもないことは全く記憶になかったりする。
 自分でいうのも何だが、実に不可思議な記憶喪失だった。
 なぜ、自分は他の参加者たちと違って、生前の記憶がほとんど欠落しているのかー
 大会参加当初は、気になっていたことではあるが、今となっては半ばどうでもよくなってきていた。
 考えてみれば、記憶がないからと言って、この島で暮らしている以上、それに困るということはなかった。むしろ、余計な記憶を抱え込んで今後のバトルに影響が出るくらいなら、いっそのことこのままない方がいいかもしれない。
 大会運営側が、参加者たちの生前の記憶のうち、死の直前の記憶については曖昧化しているのも、それがこのゲームでの枷になりかねないと判断しているからだろう。
 それならば、単に自分はその「範囲」が広かったというだけの話に過ぎないのではないかー
 そう自分に言い聞かせることで何とか納得してきた朝霞だった。
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