百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

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第4章 更なる戦い

第234話 朝霞

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 朝霞自身には、実は生前の記憶がほとんどない。他の参加者は、運営側の手によって死亡直前の記憶を曖昧化されているのだが、そもそも朝霞は、この島にいる以前のことを、なぜか思い出すことができないのだ。漠然と覚えている範囲でいえば、幼い頃は海の近くで育ったーくらいのもので、家族はどうだったか、学校生活は・・・などといった、本来ならば忘れるはずのないものもやはり覚えてはいない。
 だが、中途半端に生前の記憶を覚えているよりも、むしろ最初からない方が都合がよかったかもしれない。生前の記憶が、逆に本人にとって桎梏となることもあり得るからである。
 看守たちの命令を冷徹にこなしていれば、少なくとも今しばらくは生活を維持することができるー尤も、自分の生にさほど執着しているわけでもないのだが、かと言って粗末に扱うつもりもなかった。
 朝霞は、素早い動きで、先ほどの3人の後を追った。特徴的な3人なので、見失うこともなく、すぐにその姿を捉えることができた。
 3人に見つからないように、物陰に隠れながら、慎重に様子を窺ってみる。
 3人の中で、リーダー格と呼べそうなのは、あの鉄扇を構えている女だ。口調はどこか軽薄そうに見えて、実は3人の中で一番隙が無く、とらえどころがない。常にニヤケ面を浮かべているようにも見える一方、その瞳は笑っていないようにも見えた。
 その他の2人だが、髪の長い女の方は3人の中で最も落ち着いているお姉さん風に見えて、これまた一癖ありそうな女である。実際に傍で様子を探ってみないとわからないが、こちらもまた油断がならない相手と見た。残る1人は小柄な少女だが、雰囲気としては小動物を思わせるような可愛らしさがある一方で、その何気ない身のこなしを見るに、どこか猛獣にも似た俊敏さも兼ね備えているようにも見えた。先ほどの3人の看守のアエローに近い雰囲気を感じる。
 実際、この3人が先ほどの看守たちと戦った場合、ほぼ互角の展開となるだろう。あそこで戦いを避けたのは正しい判断だったと言えるかもしれない。
 3人とも、朝霞の尾行には全く気が付いていないようだ。もちろん、朝霞も自分の存在を悟らせない自信はあった。そうでなければ、とてもではないが看守たちの手ごまとしていろいろな場面で隠密活動などできるはずもないのである。
「・・・近いうちに、あの3人は私たちと戦うことになるわね」
 朝霞が感じた予感だった。
 あの3人は、今の自由な生活を楽しんでいるようにも見えた。当然ながら、刑務所のように自由を束縛するような場所は、彼女たちにとって最も忌むべき場所だろう。
 ゆえに、彼女たちは、それほど遠くない将来には、自分たちの自由を守るために戦うことになるはずだ。
 もちろん、そうなった場合は朝霞も全力で迎え撃つことになるだろう。
 そして、その時が来るのを少し楽しみにしている朝霞がいた。
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