百合斬首～晒しな日記～

第4章 更なる戦い

第233話 隠密

　アエロー、オキュペテー、ケライノーが放った模範囚ー朝霞は、目にもとまらぬ速さで街中を疾走していた。元々走るのが得意な少女だったが、一度擬体を纏った後に、さらに飛躍的に脚力が磨かれたのか、今では看守たちからも一目置かれる存在となっていた。
　模範囚でありながら、擬体を纏ったことがあるー実は、朝霞は同じ雑居房に入れられた少女2人と戦って勝利した実績があるのだ。この点で、朝霞は他の囚人たちとは異なる。他の囚人たちは、そのほとんどがペナルティ予備軍か、あるいはその対象者であるため、実戦経験のない者達ばかりである。
　朝霞の場合も、実は最初はペナルティ予備軍として刑務所に連行されたが、その後同室の少女たちをレイプし、無理やり戦いを挑んだ。
　看守たちは、別に囚人同士での性的行為や戦闘行為は禁止してはいない。積極的にやらせるというわけでもないが、ある程度は囚人同士の裁量に任せている部分もある。
　尤も、あくまでも刑務所の主役は看守たちなのには違いないため節度は守らせているのだが。
　朝霞が戦いを挑んだ少女2人は、戦いが始まってからほぼ「瞬殺」の状態だった。擬体を纏った朝霞は、圧倒的に強かったのだ。ただ、強いとはいっても、あくまでも囚人同士ではという但し書きが付くのだが。
　看守たちからしてみれば、確かに朝霞は強いものの、自分たちの実力には到底及ばないことをわかっていた。ただ、その素早い動きには一目置いていたのは事実だった。
　朝霞のスピードに目をつけた看守たちは、そのまま彼女を閉じ込めておくのはもったいないと考えるようになった。自分たちには及ばないとはいえ、そのスピードには光るものがある。生かしておけば、しばらくの間は自分たちの役に立ってくれるだろうーそういう判断のもとに、朝霞を「模範囚」として扱うことを決めたのだった。
　朝霞の身体能力は、擬体解除後にもある程度影響を受けているため、最初の頃より飛躍的に上昇している。これを活かさない手はないー
　まれに、擬体解除後にも、まるで「経験値」のように身体に蓄積されて、後の能力向上につながる参加者もいる。それが、この朝霞だった。
　朝霞の「模範囚格上げ」は、彼女を連行した堂島果林の意向によるものでもあった。それを、所長である湯島亜里沙が許可した形である。
「喜べ、今日からお前を模範囚とする」
　所長室に呼び出され、果林から突然「模範囚」への格上げを言い渡された朝霞だったが、反応は極めて薄かった。だが、この淡泊さやクールさもまた、彼女の「模範囚」としての適性を物語っているかのようだった。
「これからは、あたしらのために働いてもらうよ・・・そうすりゃ、今までよりは待遇がよくなるし、塀の外でも活躍できる」
　果林が威圧的な笑みを浮かべながら告げてくるが、朝霞は一切動じることなく、ただ静かに頷いただけだった。
　尤も、朝霞に拒否権などないので、ただ言い渡された決定に、従うだけしか道はないのは確かだった。