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第4章 更なる戦い

第130話 扇とナイフ

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「君は・・・結構危険な妹のようだね・・・」
 目を細めてヒナを見据えながら、優香は静かに言った。
 さっきから、ヒナの擬体の残り香を嗅いでいるが、この目の前の少女が自分たち以上に「活躍している」のがよくわかった。
 つまりは・・・それだけ戦いに勝利し、相手を殺害しているということだ。
「おそらく・・・私らよりもやってるね、君は」
 ヒナは答えない。眠たそうな半眼も相変わらずのままだ。しかしー
 その口元には笑みが浮かんでいたのを優香は見過ごさなかった。
 優華が後方へ飛び退るのと、ヒナが腰のベルトに下げていた両方のナイフを抜き払ったのは、ほぼ同時だった。
「・・・秋月さん!!」
 静が叫ぶ。もし、優香が避けるのが遅かったなら、間違いなく彼女はナイフの餌食となっていただろう。
「・・・ああ、大丈夫だ、大丈夫だよ、お静」
 鉄扇をヒラヒラさせながら、悠然とした笑みを浮かべて静に答える優香。まるで、こうなることが事前に予測できたかのような態度だった。
「さすがだね・・・チャイナお姉さん」
 ヒナは、両方の手にナイフを構えていた。どうやらそれが彼女の獲物らしいが・・・。
「ご法度だぞ、ヒナ坊」
「・・・ヒナ坊?」
 変なあだ名をつけられて、困惑気味のヒナ。優華は、そんな彼女の様子には全く頓着せず、閉じた鉄扇の先端をヒナに突きつけながら、
「この大会では、擬体なしでの戦闘行為は基本的に禁止だ・・・ましてや、それで相手を死亡させた場合は、確実にペナルティだぞ」
 本大会のルーでは、相手と殺し合う時は、必ず擬体を纏って、専用の武器を使用できる状態になってからーつまりは、性行為の後に擬体化してからーと決まっている。
 もし、擬体化なしで相手を殺害、または後遺症になりかねない重度の障害を負わせた場合は、運営側によりペナルティが課せられるのだ。
 ゆえに「ご法度」なのである。
「私だからよかったものの、他の奴なら今の一撃で間違いなくお陀仏か、少なくとも腹を切り裂かれて重傷だっただろう・・・そうなれば、ペナルティを受けるのは君になる」
「でも、お姉さんなら避けると思った」
 ヒナは、口の端を少しだけ上げた。
 ーこいつ、やはり私を試したなー
「・・・いけない子だ」
 優華が、従容とした足取りでヒナに向かって歩み寄るーが、相手の間合いに入らないように、慎重に距離を取ることも忘れなかった。
 ーこの子は今まで戦ってきた連中の中で、一番危険だー
 優華の本能が告げている。また、ヒナの擬体の残り香も、それを彼女の危険性を裏付けていた。
「・・・君には、少しばかりお仕置きが必要そうだな」
 優華は鉄扇を広げ、そしてー
 ヒナは不思議な光景を目にした。なんと、優香はもう一つの鉄扇を取り出し、構えたのだ。しかし、もう一つの鉄扇をどこに隠していたのか、いつ取り出したのかは、まるで分らなかった。
「・・・!?」
 虚を突かれたヒナは、一瞬遅れて優華から距離を取ろうとするーだが、それを簡単には許さないのが、優香という娘だった。
 両手に鉄扇を構えた優香の姿は、見る者を魅了してやまない踊り子のようだった。華麗に舞うその姿を一目見ただけで、ヒナの胸中に、今までにない鼓動がー
「・・・くっくっ」
 妖艶な笑みを浮かべながら、ヒナを幻惑するかのように華麗に舞い、翻弄しようとする優香。
 だが、ヒナもまた簡単には籠絡されたりはしなかった。
 扇とナイフーお互い2振りの武器を振りかざしながら、少女たちは戦いという名の戯れに興じることとなるー
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