上 下
123 / 499
第3章 虚ろなる人形

第122話 美しいがゆえに

しおりを挟む
 数時間後ー
 今、一条紗耶香と天内葉月は、氷上亜美と相坂光の成れの果てを前に、茫然と立ち尽くすしかなかった。
「氷上・・・あんた・・・」
 紗耶香と葉月は、氷上とは実際に対面し、言葉も交わしているが、相坂とは面識がない。二人が氷上と会った時には、既に相坂は敗北者ーつまりは氷上に敗れ、彼女にその首を捧げた人物だったからだ。
 しかし、例え面識がなかったとしても、氷上の関係者というだけでやはり情は湧いてくる。
「これは・・・いくら何でもひどいっすね・・・先輩」
 切断面を縫合するようにして繋げられた二人の生首ーもちろん、二人とも容姿は美しいのだが、逆にそれゆえになんとも形容しがたい不気味さも醸し出している。
 美しいからこそ、残酷で不気味にも思える、面妖な物体ーとでもいうべきなのだろうか。
 氷上も相坂も、もはやその表情を変えることはかなわないが、もし二人が自分たちの末路を知ったとしたら、果たしてどんな反応を示したことだろうかー
 確かに、大会ルールには違反していないだろう。大会ルールでは、敗者の表情に著しく影響を与えるような損壊行為は禁止しているーだが、少なくともこの「連結首」は、そこには抵触してはいない。
「あたしも、お嬢様一人殺して首を晒したっすが、さすがにここまでする気はないっすよ」
 紗耶香にも葉月にも、この連結首は二人に対する冒涜としか映らなかった。
「あたしは・・・生前に妹弟子二人の首を刎ねた」
 紗耶香は、憤りの色を含んだ瞳で連結首を見つめながら、過去に自分が起こした事件について語り始めた。
「あたしは、死を通じて、二人と一緒にいたかった。その表情を閉じ込めたかった。だが、それ以上あいつらを傷つけたりはしなかった」
 首を刎ねたのも、死の直前の表情をそのまま残しておきたかったからだ。死の直前に人が見せる表情こそが、真に迫るものだと思えたからだ。
 だが、それ以上のことは一切しなかった。
「あの女・・・勅使河原といったか。あたしよりも明らかに病んでるな」
「先輩、あんなのまともに相手にしちゃ駄目っすよ!」
 葉月は、一度勅使河原に襲われかけている。下手をすれば、首を切断され、今この木に吊るされていたのは、氷上ではなく葉月だったかもしれないのだ。
「・・・だが、あいつの方は、あたしたちを放ってはおかないだろう。こんな場所に吊るしたってことは、これは明らかにあたしらに対する挑戦ってことだろうな」
 いずれにしろ、勅使河原とは決着をつけなければならない時が必ず来るーそれも、そう遠くない未来のはずだ。
 そして、その時に葉月を守ってやれるのは、自分しかいない。
「葉月・・・お前のことは何が何でもやつの手から守る。だから、この件が落ち着くまでは、あたしから絶対離れるな」
「・・・ラジャーっす」
 勅使河原は、今もどこかでこの光景を見ている可能性がある。それを思うだけで腹立たしい気分にさせられる紗耶香だったが、今は何より葉月の身の安全を確保するのが第一だった。
 おそらくだが、勅使河原が直接的に狙ってくるのは、自分ではなく葉月の方だろう。
 常に葉月に張り付いて、守ってやらなければー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...