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第3章 虚ろなる人形

第86話 川澄真由美に思いを馳せて

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 明菜の首をクーラーボックスに保管し、その夜はそのまま就寝した勅使河原。最初、真理を殺害した時よりも案外楽に眠りにつくことができたのは、殺人という行為にそれだけ慣れてきた証拠と言えるだろう。
「これで、二人殺したけれど、意外と日常生活には影響はないものね」
 最初の時こそ、興奮のあまり寝付けなかったが、今はむしろ、より充足感に満たされているためか、安眠を撮ることさえできた。
 朝日を浴び、少し背伸びをしながら、着替えをする勅使河原。
「さあ、あとは川澄真由美さんを・・・」
 普段から勅使河原のことを強く警戒している彼女だけに、おそらくこちら側から接触を図るのは難しいかもしれない。
 ただ、川澄真由美は小坂明菜とはかなり親しかったはず。それならば、明菜のことについて、勅使河原が何か知っているのではないか、と探りを入れてくる可能性は十分にある。
 狙うのなら、その時だろう。
 勅使河原は、睡眠薬の成分を含んだ針を用意した。針と言っても、ほんのわずかのもので、刺すとしても一瞬のことーただ、相手を眠らせるのには十分効果があるはずだ。
「待っててね、川澄さん・・・あなたも私の作品に加えてあげるわ」
 勅使河原の唇が艶やかに輝くー昨晩、明菜の首の切断痕を嘗め回し、その際に舌だけでなく唇も接触していたためか、その赤さは一段と目立った。まるで化粧でもした後のようだった。
 おそらく、今日学校に行けば、小坂明菜が「失踪」したことでまだ話題になっていることだろう。明菜の家族も「失踪届」を警察に出しているはずだ。
 そして、いずれは勅使河原にも警察の手は及ぶだろう。どのみち、この人生に未練など、もはやない。ただ己の欲望を充足させ、そして、時が来たら、潔く破滅を受け入れる。そう、あの一条紗耶香のように、である。
 だが、その前に、せめて川澄真由美だけでもこの手にかけなくてはならない。自分に靡かない彼女を、どうしても殺してみたくなった。
 もちろん、自分に対して否定的なのが気に喰わないから殺すのではない。そのような相手が最期のとき、自分にどのような感情をぶつけてくるのか、そして、その生首にどのような表情を残すのかーそれを知りたい。
 憎悪か侮蔑か屈辱か、それとも命乞いをするのか。
 疑問か憐憫か。
 早く、あの子をこの手で殺したい。その首を絞めて、そして切ってやりたいー真理や明菜にしたように。
 その瞬間のことを考えるだけで、なんとも言えぬ快感が湧き上がってくる。
「さすがに、今日いきなりはできないわね・・・」
 川澄真由美が一人きりになったところを、眠らせてー
「旧校舎がいいかしら?あそこの地下なら、おそらくは誰も気が付かないはず」
 勅使河原の通う学校には、旧校舎と呼ばれる部分がある。木造で、確か昭和の前半辺りから存在していたと聞いたことがあった。下手すれば戦前から存在している可能性もあるという。
 当然、普段は入れないようにしているが、実は1か所だけ施錠されておらず、しかも教職員もそのことに気が付いていない扉がある、そこから内部に入ることは可能だったはずだ。
 そこまでなら、川澄真由美を眠らせた後に、彼女を運び込んで拘束することもできるだろう。
「あまり時間は残されていないけれど、焦ってはだめね」
 警察の手は、真理「失踪」の時から既に勅使河原にも少しずつ及んではいる。彼女自身、警察官に「証言」したこともあった。
「今日は、とりあえず様子見ね」
 明菜「失踪」は、おそらく朝のホームルームで生徒達に知らされるだろう。その時に、川澄真由美の様子もうかがっておこう。
 ー実際に殺す時が、今から楽しみだー
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