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第3章 虚ろなる人形
第84話 新たなる首
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ー私は・・・二人殺したー
明菜が死亡してから2時間後、椅子の拘束を外し、その遺体を地面へと横たえる勅使河原の姿があった。
明菜は、もはや生命の輝きを宿していないその瞳で、虚空を見つめ続けている。当然、その瞳の中に勅使河原の姿が映ろうが、何の反応もない。
ーだが、私が満足するには、まだ足りないー
勅使河原は、真理の時と同じように、明菜の首筋に鋸を当てがった。
少女の首を切るのは、これで二人目だ。そして、回を重ねるごとに、勅使河原の中でますます高揚感が強くなっていった。
人間社会最大の禁忌を犯すことへの、なんとも言えない愉悦感。
「一条さん、今なら、私も少しはあなたの気持ちが理解できるわ・・・だって、こんなに愛おしい行為って、他にないもの」
明菜の首に刃を食い込ませる。既に血流は止まっているため、返り血を浴びるということもほとんどない。ただ静かに流れ出るその血液が、明菜が横たわる地面を濡らしていくー勅使河原は、その血液が侵食していく地面を見て、自らも少しずつではあるが、一条紗耶香と同じ狂気に侵されていくのを実感していた。
ーいや、本当にそれは、狂気なのだろうかー
人類は、その歴史の中で何度も相手の首を刎ねてきたはずだ。そのたびに流されてきた夥しい血は、色々な時代の様々な人々の中に遺伝的な記憶として焼き付いているはずである。なら、こちらの方が当たり前ではないかー
むしろ、これらの行為を悪として排除しようとしてきた近現代こそが、人類にとって特異な時代ではないのかー
「・・・その時代において、善悪の基準なんて簡単に変わってしまうものだしね・・・」
エリザベート・バートリーのように、若い娘の生き血をすする者も、その歴史の中にはいたのだ。彼女は、美しい娘たちの血に浸ることそれ自体を快楽としていたようだった。時代が違えど、自分もまた彼女と同類だったというだけだろう。
明菜の首がコトンと、胴体から離れて転がる。勅使河原は、明菜の生首を拾い上げ、その切断面に舌を這わせた。
「・・・やっぱり、おいしい・・・」
今なら、エリザベート・バートリーの気持ちも理解できる。私も、この少女たちの血に浸ってみたい、その首を切って、末永く自分の傍に置いておきたいー
他の現代人から見れば、明らかに狂気と言われてもおかしくないだろう。だが、本当の狂人は、自分が狂っているということを認識できないはずだ。
少なくとも、自分には自覚があるー年齢的な問題は別にしても、今の勅使河原に精神鑑定を行ったとしても、十分責任能力はあると判断されるはずだ。本物の狂人であれば、そのようなことはないだろう。
すなわち、今の自分の行為は、正常な者でも十分行えるということだ。
ーもっと、他の子たちもこうしてやりたいー
勅使河原が、次に思い至ったのは、川澄真由美だった。あのボーイッシュな感じの・・・そして勅使河原のことをいつも訝し気に捉えていた少女。
真理、明菜共に、勅使河原のことを半ば崇拝していたが、彼女はその逆だ。
だからこそ、試してみたい。殺してみたい。
ーそして、殺した後、ずっと手元に置いておきたいー
窓から入り込む月光に明菜の首が照らされる。その瞳は虚空を見続け、そしてその表情はもう二度と変わることはない。蔵の中には、ただ勅使河原の舌が明菜の首の切り口を這う淫靡な音だけが響いていたー
明菜が死亡してから2時間後、椅子の拘束を外し、その遺体を地面へと横たえる勅使河原の姿があった。
明菜は、もはや生命の輝きを宿していないその瞳で、虚空を見つめ続けている。当然、その瞳の中に勅使河原の姿が映ろうが、何の反応もない。
ーだが、私が満足するには、まだ足りないー
勅使河原は、真理の時と同じように、明菜の首筋に鋸を当てがった。
少女の首を切るのは、これで二人目だ。そして、回を重ねるごとに、勅使河原の中でますます高揚感が強くなっていった。
人間社会最大の禁忌を犯すことへの、なんとも言えない愉悦感。
「一条さん、今なら、私も少しはあなたの気持ちが理解できるわ・・・だって、こんなに愛おしい行為って、他にないもの」
明菜の首に刃を食い込ませる。既に血流は止まっているため、返り血を浴びるということもほとんどない。ただ静かに流れ出るその血液が、明菜が横たわる地面を濡らしていくー勅使河原は、その血液が侵食していく地面を見て、自らも少しずつではあるが、一条紗耶香と同じ狂気に侵されていくのを実感していた。
ーいや、本当にそれは、狂気なのだろうかー
人類は、その歴史の中で何度も相手の首を刎ねてきたはずだ。そのたびに流されてきた夥しい血は、色々な時代の様々な人々の中に遺伝的な記憶として焼き付いているはずである。なら、こちらの方が当たり前ではないかー
むしろ、これらの行為を悪として排除しようとしてきた近現代こそが、人類にとって特異な時代ではないのかー
「・・・その時代において、善悪の基準なんて簡単に変わってしまうものだしね・・・」
エリザベート・バートリーのように、若い娘の生き血をすする者も、その歴史の中にはいたのだ。彼女は、美しい娘たちの血に浸ることそれ自体を快楽としていたようだった。時代が違えど、自分もまた彼女と同類だったというだけだろう。
明菜の首がコトンと、胴体から離れて転がる。勅使河原は、明菜の生首を拾い上げ、その切断面に舌を這わせた。
「・・・やっぱり、おいしい・・・」
今なら、エリザベート・バートリーの気持ちも理解できる。私も、この少女たちの血に浸ってみたい、その首を切って、末永く自分の傍に置いておきたいー
他の現代人から見れば、明らかに狂気と言われてもおかしくないだろう。だが、本当の狂人は、自分が狂っているということを認識できないはずだ。
少なくとも、自分には自覚があるー年齢的な問題は別にしても、今の勅使河原に精神鑑定を行ったとしても、十分責任能力はあると判断されるはずだ。本物の狂人であれば、そのようなことはないだろう。
すなわち、今の自分の行為は、正常な者でも十分行えるということだ。
ーもっと、他の子たちもこうしてやりたいー
勅使河原が、次に思い至ったのは、川澄真由美だった。あのボーイッシュな感じの・・・そして勅使河原のことをいつも訝し気に捉えていた少女。
真理、明菜共に、勅使河原のことを半ば崇拝していたが、彼女はその逆だ。
だからこそ、試してみたい。殺してみたい。
ーそして、殺した後、ずっと手元に置いておきたいー
窓から入り込む月光に明菜の首が照らされる。その瞳は虚空を見続け、そしてその表情はもう二度と変わることはない。蔵の中には、ただ勅使河原の舌が明菜の首の切り口を這う淫靡な音だけが響いていたー
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