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第3章 虚ろなる人形
第79話 手に残る感触
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数日後ー渡辺真理に続き、今後は小坂明菜が行方不明となったー。
言うまでもなく、勅使河原が彼女を殺害したためである。
勅使河原が明菜と一緒に帰宅した日から、小坂は今まで以上に勅使河原に入れ込んでいくようになった。やはり、一番の理由は彼女に慰められたからだろう。元々、真理と共に勅使河原の周囲に纏わりついていた彼女だったが、その日以降、さらにその傾向が強くなったと言える。
勅使河原は、明菜のことを心底心配しているようなふりをして、彼女のことを色々と聞き出していた。家族のことや真理とのこと、はては将来の進路のことまで、それこそ色々、である。
明菜のことを気遣っているふりをしながら、内心ではそんな彼女を嘲笑う自分がいた。そして、そんな自分をこれまた自嘲する自分もいたのだった。
とんだ猿芝居、茶番である、と。
だが、明菜はその悪意に気が付かず、そんな勅使河原に対してさらに依存を強めていった。
もうすでに勅使河原の虜となっていたのだ。
だからこそ、彼女を自分のアトリエに誘い込むのは簡単でもあった。
ー真理を殺した、この家で、お前も死ぬのよ、明菜ー
そうすれば、二人は共にいられるーこれからも、ずっと。
ただ、ダラダラと何十年も生き続けるよりも、例え短くともその生に大きな意味や価値を見出すことができるのなら、それでいいのではないか。もちろん、真理や明菜の死に意味や価値を見出すのは、ほかならぬ殺害に及んだ勅使河原自身なのだが。
この世に決して二つとは存在しえない、死の間際の表情を封じ込めた生首という工芸品。これに勝る芸術が、作品が、この世にあろうものか。たとえ、世間がどれだけ自分を非難しようが、糾弾しようが、認めようとしなくとも、自分にとってそれこそが唯一の意味と価値を見出せる真なる芸術ー。
これを表現しきることなく、ただただ生き続けるだけの人生など、奴隷そのものと変わりなどあるまい。
だからこそ、やるのだ。
勅使河原は、真理と同じように、明菜も屋敷へと呼んだ。真理と同じく、明菜も勅使河原の住んでいる屋敷の大きさに驚嘆したものだった。
そして、勅使河原がこの大きな屋敷にただ一人だけで暮らしているという話を聞いた時には、さらに驚いて見せた。
ー真理と反応がおんなじよね、全くー
おそらく、他のクラスメイトの子を呼んだとしても、似たり寄ったりの反応にはなるだろう。それが予想できるだけに、実に面白くない。
ー私も、父も、先祖の財産を食いつぶしながらその日暮らしているだけの、ただの落後者だというのにねー
自嘲気味にそんなことを思う。こういう劣等感は、勅使河原とその父に、常に付きまとっていた。
実際、勅使河原自身はまだ学生で働くこともできないし、父親は「そこそこの芸術家」というだけで、とてもではないがこれだけの屋敷を一代で築けるだけの能力などなかった。そして、父にもその自覚はあった。
勅使河原は、さっそく自身のアトリエへと明菜を案内した。以前に描いた真理の絵は、今は白い布をかぶせて部屋の隅に置いてある。その隣に、今度は明菜の絵が並ぶことになるだろう。
「明菜さん・・・もしよろしかったら、私の絵のモデルになっていただけないかしら?」
勅使河原のお願いに、明菜は目を輝かせて快諾したーそれが、彼女の破滅への道へと続いているとも知らずに。
言うまでもなく、勅使河原が彼女を殺害したためである。
勅使河原が明菜と一緒に帰宅した日から、小坂は今まで以上に勅使河原に入れ込んでいくようになった。やはり、一番の理由は彼女に慰められたからだろう。元々、真理と共に勅使河原の周囲に纏わりついていた彼女だったが、その日以降、さらにその傾向が強くなったと言える。
勅使河原は、明菜のことを心底心配しているようなふりをして、彼女のことを色々と聞き出していた。家族のことや真理とのこと、はては将来の進路のことまで、それこそ色々、である。
明菜のことを気遣っているふりをしながら、内心ではそんな彼女を嘲笑う自分がいた。そして、そんな自分をこれまた自嘲する自分もいたのだった。
とんだ猿芝居、茶番である、と。
だが、明菜はその悪意に気が付かず、そんな勅使河原に対してさらに依存を強めていった。
もうすでに勅使河原の虜となっていたのだ。
だからこそ、彼女を自分のアトリエに誘い込むのは簡単でもあった。
ー真理を殺した、この家で、お前も死ぬのよ、明菜ー
そうすれば、二人は共にいられるーこれからも、ずっと。
ただ、ダラダラと何十年も生き続けるよりも、例え短くともその生に大きな意味や価値を見出すことができるのなら、それでいいのではないか。もちろん、真理や明菜の死に意味や価値を見出すのは、ほかならぬ殺害に及んだ勅使河原自身なのだが。
この世に決して二つとは存在しえない、死の間際の表情を封じ込めた生首という工芸品。これに勝る芸術が、作品が、この世にあろうものか。たとえ、世間がどれだけ自分を非難しようが、糾弾しようが、認めようとしなくとも、自分にとってそれこそが唯一の意味と価値を見出せる真なる芸術ー。
これを表現しきることなく、ただただ生き続けるだけの人生など、奴隷そのものと変わりなどあるまい。
だからこそ、やるのだ。
勅使河原は、真理と同じように、明菜も屋敷へと呼んだ。真理と同じく、明菜も勅使河原の住んでいる屋敷の大きさに驚嘆したものだった。
そして、勅使河原がこの大きな屋敷にただ一人だけで暮らしているという話を聞いた時には、さらに驚いて見せた。
ー真理と反応がおんなじよね、全くー
おそらく、他のクラスメイトの子を呼んだとしても、似たり寄ったりの反応にはなるだろう。それが予想できるだけに、実に面白くない。
ー私も、父も、先祖の財産を食いつぶしながらその日暮らしているだけの、ただの落後者だというのにねー
自嘲気味にそんなことを思う。こういう劣等感は、勅使河原とその父に、常に付きまとっていた。
実際、勅使河原自身はまだ学生で働くこともできないし、父親は「そこそこの芸術家」というだけで、とてもではないがこれだけの屋敷を一代で築けるだけの能力などなかった。そして、父にもその自覚はあった。
勅使河原は、さっそく自身のアトリエへと明菜を案内した。以前に描いた真理の絵は、今は白い布をかぶせて部屋の隅に置いてある。その隣に、今度は明菜の絵が並ぶことになるだろう。
「明菜さん・・・もしよろしかったら、私の絵のモデルになっていただけないかしら?」
勅使河原のお願いに、明菜は目を輝かせて快諾したーそれが、彼女の破滅への道へと続いているとも知らずに。
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