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第3章 虚ろなる人形
第78話 帰り道
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真理のことが心配で泣き崩れる明菜のことを気遣うかのように、途中まで一緒に帰宅することにした勅使河原ー
ー少なくとも、周りにはそう見えるわよねー
周囲には「面倒見のいい勅使河原さん」のように見せておくのも、時間稼ぎのための重要な要素だった。ただ、そんな彼女のことを川澄真由美だけは相変わらず訝し気に見ていたようだったが・・・。
ーまあ、いいでしょう。あの子も、いずれは・・・ー
「勅使河原さん」
思考を巡らせている中、突然明菜に呼び止められ、少しだけ慌てる勅使河原だったが、その焦りを悟らせないように、普段の落ち着いた雰囲気を極力意識しながら、
「どうしたの?小坂さん」
明菜は、勅使河原のことを上目遣いに見つめ返していた。彼女は、真理と同じく小柄だったので、女子にしては背が高めの勅使河原を見上げる形となっていた。
「その・・・勅使河原さんは、突然いなくなったりは、しない・・・ですよね?」
「・・・え?」
突然の明菜の問いかけに、一瞬呆気にとられる勅使河原だった。まさか、こんな質問が来ようとは・・・。
「私、不安なんです。真理がいなくなったって聞いた時、次に私の身近な人がまたいなくなったらどうしようって・・・だから・・・」
明菜は、勅使河原のことをまっすぐに見つめている。
「・・・私は」
勅使河原は、一瞬返答に詰まった。自分が渡辺真理「失踪」の直接の犯人であるだけに、にわかには応えられなかった。
だが、すぐに優し気な笑みを浮かべ、小柄な明菜の頭を軽く撫でてやりながら、
「安心して、小坂さん。私は絶対にいなくならないから。それに、渡辺さんだって、警察の方々が必死になって探してくださっているのだし、きっと大丈夫よ。誰も、いなくなったりなんてしないわ」
「・・・そう、ですよね」
勅使河原の言葉に、明菜も少しは安堵できたのか、今度は泣き笑いのような表情を浮かべながら、
「私ったら、弱気になっちゃって・・・だからいつも真理に言われるんですよ。明菜はもっと自信を持った方がいいよって。真理ったら、みんなに心配かけて・・・戻ってきたら、うんとお説教してやるんだから」
少しずつではあるが、いつもの明菜らしい調子が戻ってきたのを見て、勅使河原も思わず表情を綻ばせながら、
「・・・ふふ、その調子よ、小坂さん」
一方で、勅使河原は、先ほど明菜に語った言葉を思い出す。
ー誰も、いなくなったりなんてしないわー
もちろん、事実は全くの逆だ。
正しくは、私自身も含めて、私に深く関わる者達だけがいなくなるのだーと。
だが、それは、私たちは同じ場所へと行くことができる、とも言い換えることができる。
共に至る破滅への階梯。
ー渡辺さんも、あちらで寂しがっているはずよ。明菜さん、次はあなたの番だわー
ー少なくとも、周りにはそう見えるわよねー
周囲には「面倒見のいい勅使河原さん」のように見せておくのも、時間稼ぎのための重要な要素だった。ただ、そんな彼女のことを川澄真由美だけは相変わらず訝し気に見ていたようだったが・・・。
ーまあ、いいでしょう。あの子も、いずれは・・・ー
「勅使河原さん」
思考を巡らせている中、突然明菜に呼び止められ、少しだけ慌てる勅使河原だったが、その焦りを悟らせないように、普段の落ち着いた雰囲気を極力意識しながら、
「どうしたの?小坂さん」
明菜は、勅使河原のことを上目遣いに見つめ返していた。彼女は、真理と同じく小柄だったので、女子にしては背が高めの勅使河原を見上げる形となっていた。
「その・・・勅使河原さんは、突然いなくなったりは、しない・・・ですよね?」
「・・・え?」
突然の明菜の問いかけに、一瞬呆気にとられる勅使河原だった。まさか、こんな質問が来ようとは・・・。
「私、不安なんです。真理がいなくなったって聞いた時、次に私の身近な人がまたいなくなったらどうしようって・・・だから・・・」
明菜は、勅使河原のことをまっすぐに見つめている。
「・・・私は」
勅使河原は、一瞬返答に詰まった。自分が渡辺真理「失踪」の直接の犯人であるだけに、にわかには応えられなかった。
だが、すぐに優し気な笑みを浮かべ、小柄な明菜の頭を軽く撫でてやりながら、
「安心して、小坂さん。私は絶対にいなくならないから。それに、渡辺さんだって、警察の方々が必死になって探してくださっているのだし、きっと大丈夫よ。誰も、いなくなったりなんてしないわ」
「・・・そう、ですよね」
勅使河原の言葉に、明菜も少しは安堵できたのか、今度は泣き笑いのような表情を浮かべながら、
「私ったら、弱気になっちゃって・・・だからいつも真理に言われるんですよ。明菜はもっと自信を持った方がいいよって。真理ったら、みんなに心配かけて・・・戻ってきたら、うんとお説教してやるんだから」
少しずつではあるが、いつもの明菜らしい調子が戻ってきたのを見て、勅使河原も思わず表情を綻ばせながら、
「・・・ふふ、その調子よ、小坂さん」
一方で、勅使河原は、先ほど明菜に語った言葉を思い出す。
ー誰も、いなくなったりなんてしないわー
もちろん、事実は全くの逆だ。
正しくは、私自身も含めて、私に深く関わる者達だけがいなくなるのだーと。
だが、それは、私たちは同じ場所へと行くことができる、とも言い換えることができる。
共に至る破滅への階梯。
ー渡辺さんも、あちらで寂しがっているはずよ。明菜さん、次はあなたの番だわー
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