百合斬首～晒しな日記～

第3章 虚ろなる人形

第76話

　勅使河原は、次のターゲットを小坂明菜とした。
「真理ったら、どこ行ったのかしら・・・心配ね」
「まさか、誘拐・・・？」
　勅使河原の席の近くで、小坂明菜と他何人かのクラスメイト達が渡辺真理の話題で盛り上がっている。
　ー誘拐・・・ではないわねー
　彼女は、私に誘われて、自分の意志で私のアトリエを訪れた。もちろん、誘拐ではない。そして、あの日、少しずつじわじわと殺したのだった。
　小坂明菜にとっても、渡辺真理は無二の親友でもある。水曜日以降、家にすら帰っていない彼女のことを誰よりも心配しているのは当然のことと言えた。
　既に、真理の家族からは警察に対して捜索願いが出されている。おそらく、勅使河原自身もいずれは警察に事情を訊かれることになるだろう。
　もちろん、発覚するまでの時間稼ぎは必要である。まだ、真理しか殺していないのだ。それでは、自らのこの渇望を満たすことはできない。
　完全に自分が社会とのつながりを断たれる前に、少なくともあと2人くらいは殺しておきたい。できれば、容姿の優れた少女がよかったが、残念ながら、自分の周りにいる少女たちはそこまでの美少女というわけでもなかった。
　
　それ故に、一条紗耶香のことを大変うらやましいと思った。
　あんな美少女たちを手にかけることができたなんて。
　羨望と嫉妬がないまぜになった感情を、もはや存在していない銀髪の少女へとぶつける。
　あの時ー渡辺真理を絞殺した時、勅使河原は、確かに一条紗耶香が感じたあの領域へと近づいたと思った。だが、まだだ。まだ、足りないー自分の中に巣食う何かがそう呼びかけている。

　次に目をつけた小坂明菜という少女は、「美人」というよりは「かわいい」と形容した方が適切だろう。その小柄さと、それに見合わぬアンバランスな体形が目を惹く少女で、異性から頻繁に声をかけられている。同性異性問わずに人気は高いと言えた。
　ー小坂さん、次はあなたの番よー
　他の女子たちとの会話に夢中になっている小坂を見据え、さも真理のことを心配しているように装いながら、勅使河原自身も少女たちの会話へと加わった。

　詳しく話を聞いてみると、明菜は小学校の頃から真理とは親交があるらしかった。たまたまクラスこそ違ったものの、小学校の時からの知り合いらしく、しばしば彼女家に遊びに行ったりもしたらしい。明菜自身も結構面倒見のいい性格で、同じ気質の者同士のためか、真理とは馬が合ったらしい。
　ーなら、なおのこと真理が寂しがらないように、早く同じ所へ送って差し上げなくては・・・ねー
　勅使河原の瞳に胡乱な輝きが宿る。だが、それに気が付いた者はいなかった。