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第3章 虚ろなる人形
第70話 別れ2
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勅使河原、初めてクラスメイトを家に呼んでから7日目ー。
ついに、勅使河原は渡辺真理を殺害した。
初めて彼女に絵を描いてあげたあの日を境に、真理は勅使河原の家へ頻繁に訪れるようになっていった。より近しい関係となったのを機会に、ついに勅使河原は決行に及んだ。
応接間に通した真理に、睡眠薬を混ぜた紅茶を与えた。真理は、何も知らずに飲み、こんなおいしい紅茶があるなんて、と満面の笑みを浮かべながら勅使河原に感謝したのだった。
それから、十数分後くらいだろうか。真理は、強烈な眠気に耐えきれず、そのまま眠りに落ちた。その様子を確認しながら、勅使河原は彼女を蔵へと運び入れた。
蔵の中は、上部にある小さな木枠の窓から入り込む陽光しか照らすものはなく、もし、これが夜なら足元さえおぼつかなかっただろう。そして、この蔵には秘密の地下室もあり、真理を殺した後、切断した首以外はその地下室の地面に埋めるつもりだった。ここならば、そう簡単には死体は見つからないだろうが、勅使河原邸に何度も真理が入り込んでいるのは既に知られているので、いずれはばれるだろう。所詮は、破滅を引き延ばすための時間稼ぎであるということを、勅使河原は十分自覚していた。
「んんん・・・あ、あれ、ここは・・・」
渡辺真理が目を覚ます。そこは、薄暗い蔵の中で、
「え、あ、あれ・・・これ何!?」
彼女は、その蔵の中で、椅子に全身を縛られて拘束されていたのだった。もちろん、自分がどうしてこのような目に遭っているのかは、彼女にはわからず、それゆえ激しく狼狽した。ついさっきまで、勅使河原と一緒に応接間で話に花を咲かせていたはずだが。
「勅使河原さん!!」
真理は、狼狽えながら、勅使河原に助けを求めた。見た限り、この蔵の中には彼女はいないようだ。それがますます、真理を焦らせた。
「な、何なの、これ・・・なんで私、縛られてるの!?」
全身が椅子に拘束されており、もはや身動き一つとれない状態だった。真理は、半ば恐慌状態に陥りながら、勅使河原を呼び続けた。
すると、少ししてから、蔵の扉が開けられた。外はもうすっかり夕焼けになっている。
その夕陽の逆光を浴び、勅使河原が悠然と蔵の中へと入ってくる。
「・・・勅使河原さん!」
真理は、勅使河原の姿を見て安堵する。だが、それも一瞬のことだった。
なぜなら、勅使河原の雰囲気が、今までのものとは全く異なっているように思えたからだ。
真理は、こちらに歩み寄ってくる勅使河原を「怖い」とさえ感じ始めていた。なぜだろう・・・さっきまであんなに楽しくおしゃべりしていはずなのに。
勅使河原の物腰や表情はいつもと同じはずーそれでもなぜか、彼女のことを見ていると、言い知れぬ恐怖が沸き起こってくる。
勅使河原の瞳の色が、やけに怜悧に見えた。それを見て、真理は確信した。
違う、私といつも話している勅使河原さんじゃない!!
「ようやくお目ざめのようね、渡辺さん」
勅使河原が蔵の扉を閉め、中には二人だけが取り残される。もはや、闇に沈みつつある蔵の中、勅使河原だけが異様な存在感を放っているように見えた。
「私の・・・私の可愛い工芸品。この時が来るのをずっと待っていたのよ」
勅使河原の鈴のような声ーしかし、今はどこか危うさを含んだーが、蔵の中に響き渡った。
ついに、勅使河原は渡辺真理を殺害した。
初めて彼女に絵を描いてあげたあの日を境に、真理は勅使河原の家へ頻繁に訪れるようになっていった。より近しい関係となったのを機会に、ついに勅使河原は決行に及んだ。
応接間に通した真理に、睡眠薬を混ぜた紅茶を与えた。真理は、何も知らずに飲み、こんなおいしい紅茶があるなんて、と満面の笑みを浮かべながら勅使河原に感謝したのだった。
それから、十数分後くらいだろうか。真理は、強烈な眠気に耐えきれず、そのまま眠りに落ちた。その様子を確認しながら、勅使河原は彼女を蔵へと運び入れた。
蔵の中は、上部にある小さな木枠の窓から入り込む陽光しか照らすものはなく、もし、これが夜なら足元さえおぼつかなかっただろう。そして、この蔵には秘密の地下室もあり、真理を殺した後、切断した首以外はその地下室の地面に埋めるつもりだった。ここならば、そう簡単には死体は見つからないだろうが、勅使河原邸に何度も真理が入り込んでいるのは既に知られているので、いずれはばれるだろう。所詮は、破滅を引き延ばすための時間稼ぎであるということを、勅使河原は十分自覚していた。
「んんん・・・あ、あれ、ここは・・・」
渡辺真理が目を覚ます。そこは、薄暗い蔵の中で、
「え、あ、あれ・・・これ何!?」
彼女は、その蔵の中で、椅子に全身を縛られて拘束されていたのだった。もちろん、自分がどうしてこのような目に遭っているのかは、彼女にはわからず、それゆえ激しく狼狽した。ついさっきまで、勅使河原と一緒に応接間で話に花を咲かせていたはずだが。
「勅使河原さん!!」
真理は、狼狽えながら、勅使河原に助けを求めた。見た限り、この蔵の中には彼女はいないようだ。それがますます、真理を焦らせた。
「な、何なの、これ・・・なんで私、縛られてるの!?」
全身が椅子に拘束されており、もはや身動き一つとれない状態だった。真理は、半ば恐慌状態に陥りながら、勅使河原を呼び続けた。
すると、少ししてから、蔵の扉が開けられた。外はもうすっかり夕焼けになっている。
その夕陽の逆光を浴び、勅使河原が悠然と蔵の中へと入ってくる。
「・・・勅使河原さん!」
真理は、勅使河原の姿を見て安堵する。だが、それも一瞬のことだった。
なぜなら、勅使河原の雰囲気が、今までのものとは全く異なっているように思えたからだ。
真理は、こちらに歩み寄ってくる勅使河原を「怖い」とさえ感じ始めていた。なぜだろう・・・さっきまであんなに楽しくおしゃべりしていはずなのに。
勅使河原の物腰や表情はいつもと同じはずーそれでもなぜか、彼女のことを見ていると、言い知れぬ恐怖が沸き起こってくる。
勅使河原の瞳の色が、やけに怜悧に見えた。それを見て、真理は確信した。
違う、私といつも話している勅使河原さんじゃない!!
「ようやくお目ざめのようね、渡辺さん」
勅使河原が蔵の扉を閉め、中には二人だけが取り残される。もはや、闇に沈みつつある蔵の中、勅使河原だけが異様な存在感を放っているように見えた。
「私の・・・私の可愛い工芸品。この時が来るのをずっと待っていたのよ」
勅使河原の鈴のような声ーしかし、今はどこか危うさを含んだーが、蔵の中に響き渡った。
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