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第3章 虚ろなる人形
第66話 空っぽの屋敷
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「うわああ、勅使河原さんのおうちって、とても広いんですね」
二人で他愛もない話をしながら(といっても、実際に話しまくっていたのは渡辺真理の方だったのだが)、ようやく勅使河原の屋敷の前までたどり着いた二人。
「もしかして、使用人の方とかいらっしゃいますか?」
立派な門構えを見て、おそらくは勅使河原が良家のお嬢様と勘違いしたのだろうー目をキラキラと輝かせつつ興味津々といった様子で尋ねてくる真理の姿に、思わず苦笑する勅使河原。
「いいえ、使用人なんていないわ・・・昔は確かにいたらしいけど、父の代になる前にはすっかりと没落してしまって、今となっては私一人で暮らしているようなものよ」
たまに、親戚が心配がてら様子を見に来ることがある。この広い屋敷に、年頃の少女ただ一人だけ住まわせておくのが非常に不安だというのもあるのだろう。尤も、勅使河原自身は一人の方が何かと気楽でよかった。元々が、人に囲まれるのが好きではないという性分の問題もある。
「ええ、こんな広いお屋敷にお一人なんて・・・勅使河原さん、それって寂しくはないんですか?」
一人暮らししていると話すと、大抵こういう質問が返ってくる。もう、勅使河原には慣れっこで、そしてこれまでも何度も同じ返答を行ってきた。
「私は・・・どちらかと言えば、一人で静かに思索に耽るのが好きなの・・・だから、一人だったとしてもそんなに気にはならないわね」
私には、常に孤独の方が性に合っている・・・今みたいに、お前たちと一緒につるんでいる方が、私にとっては例外でありー。
そして、本音では苦痛でもあるのだー。
だが、そんな内面はおくびにも感じさせないように、勅使河原は穏やかな笑みを浮かべながら、
「さあ、早く入りましょう。あなたにも、我が家を早く見てほしいから」
ー早く、私にその命を捧げよー
勅使河原の微笑みは、その内面を知らぬものにとっては品のよいお嬢様のそれに見える。
当然ながら、真理もあっさりと騙された。
「はい、勅使河原さん・・・失礼しますね」
そして、それが彼女の命運が尽きたことを意味していたのだった。
当たり前だが、外観だけでなく勅使河原の屋敷の中は広々としており、もしここに執事なり使用人がいたら、彼女のことを誰もが本当にお嬢様だと思ったことだろう。
ーもうとっくの昔に、この家には何も残っていないというのにねー
そう、ここにはもはや何も残ってはいない。わずかばかりの父の残した芸術品と、そして、一応は父娘の思い出くらいなものしか、ここにはないのだ。
だが、そんな伽藍洞のような屋敷の中にも、真理はかなりの興味を示したらしい。あちこちを見回して、感嘆の声を上げている。
が、さすがに、不躾に他人の家の中をじろじろと見まわるのは失礼に当たると気が付いたのか、バツが悪そうにして、
「すいません、勅使河原さん・・・私ったら、つい」
「いいのよ、気にしないで頂戴。先ほども言ったように、あなたにもこの屋敷の中を見てほしいのだから」
勅使河原は全く気にした様子も見せず、悠然として構えていた。
ーそう、もはや何も価値あるものなど残っていない、この空っぽの空間をー
ーそして、ここを意味あるものにするのは、お前自身の命なのだからー
ーだから、じっくりと見ておくのよー
二人で他愛もない話をしながら(といっても、実際に話しまくっていたのは渡辺真理の方だったのだが)、ようやく勅使河原の屋敷の前までたどり着いた二人。
「もしかして、使用人の方とかいらっしゃいますか?」
立派な門構えを見て、おそらくは勅使河原が良家のお嬢様と勘違いしたのだろうー目をキラキラと輝かせつつ興味津々といった様子で尋ねてくる真理の姿に、思わず苦笑する勅使河原。
「いいえ、使用人なんていないわ・・・昔は確かにいたらしいけど、父の代になる前にはすっかりと没落してしまって、今となっては私一人で暮らしているようなものよ」
たまに、親戚が心配がてら様子を見に来ることがある。この広い屋敷に、年頃の少女ただ一人だけ住まわせておくのが非常に不安だというのもあるのだろう。尤も、勅使河原自身は一人の方が何かと気楽でよかった。元々が、人に囲まれるのが好きではないという性分の問題もある。
「ええ、こんな広いお屋敷にお一人なんて・・・勅使河原さん、それって寂しくはないんですか?」
一人暮らししていると話すと、大抵こういう質問が返ってくる。もう、勅使河原には慣れっこで、そしてこれまでも何度も同じ返答を行ってきた。
「私は・・・どちらかと言えば、一人で静かに思索に耽るのが好きなの・・・だから、一人だったとしてもそんなに気にはならないわね」
私には、常に孤独の方が性に合っている・・・今みたいに、お前たちと一緒につるんでいる方が、私にとっては例外でありー。
そして、本音では苦痛でもあるのだー。
だが、そんな内面はおくびにも感じさせないように、勅使河原は穏やかな笑みを浮かべながら、
「さあ、早く入りましょう。あなたにも、我が家を早く見てほしいから」
ー早く、私にその命を捧げよー
勅使河原の微笑みは、その内面を知らぬものにとっては品のよいお嬢様のそれに見える。
当然ながら、真理もあっさりと騙された。
「はい、勅使河原さん・・・失礼しますね」
そして、それが彼女の命運が尽きたことを意味していたのだった。
当たり前だが、外観だけでなく勅使河原の屋敷の中は広々としており、もしここに執事なり使用人がいたら、彼女のことを誰もが本当にお嬢様だと思ったことだろう。
ーもうとっくの昔に、この家には何も残っていないというのにねー
そう、ここにはもはや何も残ってはいない。わずかばかりの父の残した芸術品と、そして、一応は父娘の思い出くらいなものしか、ここにはないのだ。
だが、そんな伽藍洞のような屋敷の中にも、真理はかなりの興味を示したらしい。あちこちを見回して、感嘆の声を上げている。
が、さすがに、不躾に他人の家の中をじろじろと見まわるのは失礼に当たると気が付いたのか、バツが悪そうにして、
「すいません、勅使河原さん・・・私ったら、つい」
「いいのよ、気にしないで頂戴。先ほども言ったように、あなたにもこの屋敷の中を見てほしいのだから」
勅使河原は全く気にした様子も見せず、悠然として構えていた。
ーそう、もはや何も価値あるものなど残っていない、この空っぽの空間をー
ーそして、ここを意味あるものにするのは、お前自身の命なのだからー
ーだから、じっくりと見ておくのよー
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