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第3章 虚ろなる人形

第63話 謎

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 結局のところ、二人の妹弟子を殺害した理由は、本人にしかわからないのだー。
 テレビやネットでのコメンテーターや面白半分で炎上騒ぎを起こす輩の意見など、何の参考にもならない。直接本人に尋ねる以外に解答の出しようがないだろう。
 ーが。
「私も、彼女みたいに身近な子たちを殺していけば、その答えに近づくことができるかしら・・・?」
 彼女の想いに近づきたい。そのためには、実際にに及ぶのが、近道ではなかろうかー。
 尤も、それを行ってしまえば、その後には普通の未来など待ってはいないということも、十分理解している。未成年ではあるが、仮に刑事罰の対象になったとしても、全く後悔することはないだろう。
 なぜなら、勅使河原自身が、もはや自らの人生に執着していないからだ。
 自分の人生に執着などしていない。特に、自らの命が惜しいとさえ思えなかった。あるのは、ただの虚無。
 肉親を全て失ったからだろうかーもともと執着心の薄い彼女だったが、一人残されてからは、さらにその傾向が強くなったことを自覚していた。
 勅使河原の父は芸術家だった。おととし他界したが、個展を開くなどそこそこ世間から認められている人物だった。
 一方で、母は普通の人だったが、その容姿はとても優れていた。勅使河原を生んですぐに亡くなってしまったので、最初から母を知らずに育ったが、父が残していた母の写真を見て、確かに容姿端麗な女性だと思った。腰まで度説くような長い黒髪など、今の自分にそっくりな女性ー当たり前のことだった、親子なのだからーそして、そんな遺伝子を受け継いだ自分もまた、他の者達よりも美しいとは思っていた。
 ただ、彼女自身は自らの美貌についてはほとんど興味がなかった。美貌を鼻にかけるようなこともなかったが、逆にそれが他の者達からしてみれば奥ゆかしいとか謙虚だと捉えられたのだろう。一部で、彼女を崇拝するような同性が現れ、異性にとっては高値の花の存在になっていった。
 自分の美貌に関して全く無頓着だった一方で、むしろ、他者に対して美を求める傾向が強かった。
 ー残念ながら、私のお眼鏡に適うような子はほとんどいなかったけれどー
 それゆえか、この道場美少女殺害事件には、並々ならぬ関心を抱いた。
 被害者も、加害者も、全て自分が望んだような美しい者達ばかりー。
 さらには、そんな美しい者達でも、一瞬で命を散らされるというその衝撃に、勅使河原は身を震わせたのだった。
 今にして思えば、この事件のことを知った時から、自分の中のを呼び覚ましてしまったのではないだろうか。
 美しい者達の散り際を自らの手でしてみたいーその渇望は、やがて彼女の身を焦がすようになっていき、少しずつ、もう後戻りできない道へと誘っていたのだ。
 それが、少女たちにとっては悲劇の始まりであり、勅使河原自身にとっては喜悦と破滅への始まりでもあった。
 例え、捕まってもいい。この欲望を満たさなければ、いずれ私は自壊してしまう。
 ここまで来ると、一種の強迫観念に近いと言えるかもしれない。実際にはそうだったのだろう。
 だが、残念なことに、彼女の身近な存在で美しいと言えるような者達はいなかった。仕方がないので、ある程度は妥協することにしたのだ。
 まずは、自分を崇拝している渡辺真理という少女に目を付けた。体よく言ってしまえば、取り巻きの一人であった。その中では、まあマシなレベルといったところで、勅使河原自身は、この少女のことを正直なところ、疎んじていたところもあった。
 一条紗耶香の起こした事件から1か月後、彼女はついに、行動に出たー。
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