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第3章 虚ろなる人形

第61話 作品はアトリエに

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 氷上を拘束し、そのまま家へと入り込む勅使河原。
「くっ・・・離して!!」
 全身を鋼線により拘束された氷上は抵抗の意志を示すものの、激しく動けば鋼線が体に食い込み、下手をすれば切断されてしまう可能性があるため、思うようには身動きが取れなかった。
 勅使河原は、氷上をお姫様抱っこするように両腕で抱え込むと、とりあえずは居間のソファに氷上を横たえた。
「可愛らしいわね、氷上さん。その格好、本当にそそられるわ」
 鋼線によって全身を拘束され、思うように身動きが取れない氷上に対し、満足そうな笑みを浮かべる勅使河原。これから、じっくりと工芸品を作る作業に入るのだ。
「でも、その前に、この家の中を一通り調べておこうかしら・・・」
 勅使河原の本能が何かを囁いていた。この家にはさらにがありそうだ、と。
「あなた、何かいいものを隠してるでしょ?」
 ソファに寝転がされている氷上の頬を撫でながら、勅使河原が問いかける。
「な、なにも隠してないわよ」
 勅使河原のいう「いいもの」が何なのかわからない。少なくとも、自分はこの家に隠したものなどー。
 そう思って、あることに気が付く。
 ああ、確かにある。ただ、あれは意図して隠しているというよりも、まだ晒す場所が見つからなかったというだけでー
 何かに思い至った氷上の様子に、少し瞳を細めながら、勅使河原は居間から出て行こうとする。
「どこへ行く気よ!」
 拘束されたままの氷上を残し、今を出て行こうとする勅使河原を呼び止めようとする。
「・・・何となくだけれど、この家からは血の匂いがするのよね・・・」
 やっぱりだ、この女は相坂光のことに気が付いている。彼女の首は、今は2階の書斎にある。すぐに見つけられるだろう。
「あなた、勝利者、よね?」
 勅使河原が、居間から出る直前に尋ねてきた。
「なら、あなたの戦利品がここにあったとしてもおかしくはないわね。多分、あなた、まだ相手の首を晒してはいないのでしょう?」
 氷上は答えない。相坂に対する未練というのもあるが、何よりその場所が思い至らなかったからだ。
「まあいいわ。今から私が直接確認しに行ってみるから」
 勅使河原は、まだ何かを言い放とうとする氷上をそのままに、2階へと上がった。

 2階の書斎にて、目的のものはすぐに発見した。
「あら、これは本当に見事な工芸品ね」
 書斎の段ボールから出てきたのは、美しい少女の生首ーその首札には「相坂光」と書かれてある。
「こんな美しいものを隠しておくだなんて、なんてもったいないことをするのかしら」
 勅使河原自身、生前3人の少女を殺している。絞殺したのち、首を刃物で切断し、そのまま自分のアトリエに冷凍保存したのだった。だがー。
「私が生きている間に殺した子たちって、ここまで可愛くはなかったものね・・・」
 この相坂の美貌に比べれば、まさに取るに足らないものだったと記憶している。本当は、もっと美しい者達を殺してその首を奪いたかったのだが、周りに自分のお眼鏡にかなうような美少女がいなかったので、仕方がなしに身近な者達で妥協したのだった。
 殺された少女たちは、不細工ではないのだが、かといって美しいと言えるほどでもない。よく言えば普通か、それより少し可愛いか、くらいの連中であった。
「でも、このアルカディア島なら、私の理想も叶えられる・・・」
 先ほど拘束した氷上と言い、あの天内葉月と言い、そして、この相坂光と言い、かなりの美貌の持ち主である。しかも、大会運営側の手により、遺体は完全な防腐処理が施されるので、腐敗する心配もなかった。
「待っててね、氷上さん、天内さん。あなた方二人も、この相坂さんのような美しい工芸品にしてあげるからね」
 相坂の首を愛おしそうに見つめながら、勅使河原は頬を紅潮させ、これから自分が作り上げようとする工芸品について思いを馳せたー。
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