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第3章 虚ろなる人形
第59話 迫りくる人形
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氷上が玄関を開け、黒髪の少女と対峙する。
「あら、可愛らしいお嬢さんね・・・」
目の前に立っているのは、どことなく日本人形を彷彿とさせる黒髪の美少女ーもし、着物姿であったなら、等身大の人形がそのまま生を受けて活動しているかのような錯覚に陥ることは間違いないだろう。
目の前の黒髪の少女が目を細めて氷上を見つめる。氷上は、自分が可愛らしいお嬢さんと言われても、うれしいどころか逆に背筋が凍り付くような得体の知れぬ恐怖心を感じた。
ー何、この人・・・何かが違うようなー
言葉では言い表せない不気味さー何だかよくわからないが、とにかくこの少女と対面した瞬間から戦慄を覚えた。
ーもしかしたら、私はもうー
氷上は、思わず表情を強張らせた。おそらく、今感じた戦慄が本物なら、自分は多分この女の手によって・・・。
「失礼したわ・・・名前も名乗らないで。私の名前は勅使河原マヤ。あなたは?」
「私は、氷上亜美」
氷上は、警戒心を隠すことなく、目の前の勅使河原を注視した。
日本人形を彷彿とさせる長い黒髪の一本一本に至るまで、まるで琴線のように細く、そして怜悧に見えた。その黒髪は、腰のあたりまで伸ばされており、確かに見るものを魅了させてしまう美しさがある。また、顔の造形も、あまりにも整いすぎていると言えばそうで、逆に現実感のない美しさーとでもいうのだろうか。
それらの要素が絡まり合って、何か言い知れぬ焦燥感というか、そう言ったものを見る者に掻き立てさせるーそんな女だった。
それが、先ほどの戦慄の正体なのだろうか。
「氷上さんね・・・あなたみたいな綺麗な方とお会いできて光栄だわ」
優雅な仕草とどこか余裕のある笑みを浮かべ、勅使河原は氷上に手を差し出す。
「・・・握手のつもりかしら?」
いつ敵になるかーというより、この島にいる人間は、自分以外は潜在的に全て敵なのだがーわからない相手の手など、おいそれと取れるはずもない。勅使河原を油断なく見据えつつ、低く抑えた声で氷上は問いかけた。
「・・・そのつもりなのだけれど。まあでも、警戒するのも無理はないかしら。こういう大会だし」
勅使河原は、表情はそのままに、手だけは引っ込める。そして、品定めでもするかのように、氷上の頭の上からつま先までを観察した。
「・・・あなたがその気ならば、お相手してもよろしくてよ、氷上さん。私も、あなたのような美しい方がお相手なら何の不満もないわ・・・」
「私は、御遠慮願いたいくらいだわ」
氷上の背を冷たい汗が滑り落ちていく。
ーやはり、この女は何か、他のやつらとは違うー
明らかに、今まで相手にしてきた連中とは異質な何かを感じる。多分、いくらここで抵抗したとしても、この女からは逃げられない。そんな予感がする。
先日、自分が殺した相坂光と同じ運命をたどることになりそうだ。
尤も、今更命など惜しくはない。どうせ、元の生活に戻ることなどできないからだ。
「と言っても、あなたは私とやり合いたいのでしょう、勅使河原さん?」
氷上の更なる問いかけに、勅使河原が満足そうに、
「そうね、私としては、あなたと早くやり合いたいところだわ」
氷上がごくりと唾を飲み込む。これから、この女は自分を無理やりレイプし、その後戦いへと誘うつもりだろう。
ふと、勅使河原の手に何か、光る物があった。
ーあれは・・・糸?ー
何かはよくわからないが、光る人のような物が、彼女の掌にあるのを見つけた。
「ごめんなさいね、氷上さん。この際、あなたの意志は関係ないのよ」
言うが早いか、勅使河原が一瞬で氷上の眼前に迫った。そう、先ほど天内葉月との間合いを一瞬で詰めた時みたいにー。
「あら、可愛らしいお嬢さんね・・・」
目の前に立っているのは、どことなく日本人形を彷彿とさせる黒髪の美少女ーもし、着物姿であったなら、等身大の人形がそのまま生を受けて活動しているかのような錯覚に陥ることは間違いないだろう。
目の前の黒髪の少女が目を細めて氷上を見つめる。氷上は、自分が可愛らしいお嬢さんと言われても、うれしいどころか逆に背筋が凍り付くような得体の知れぬ恐怖心を感じた。
ー何、この人・・・何かが違うようなー
言葉では言い表せない不気味さー何だかよくわからないが、とにかくこの少女と対面した瞬間から戦慄を覚えた。
ーもしかしたら、私はもうー
氷上は、思わず表情を強張らせた。おそらく、今感じた戦慄が本物なら、自分は多分この女の手によって・・・。
「失礼したわ・・・名前も名乗らないで。私の名前は勅使河原マヤ。あなたは?」
「私は、氷上亜美」
氷上は、警戒心を隠すことなく、目の前の勅使河原を注視した。
日本人形を彷彿とさせる長い黒髪の一本一本に至るまで、まるで琴線のように細く、そして怜悧に見えた。その黒髪は、腰のあたりまで伸ばされており、確かに見るものを魅了させてしまう美しさがある。また、顔の造形も、あまりにも整いすぎていると言えばそうで、逆に現実感のない美しさーとでもいうのだろうか。
それらの要素が絡まり合って、何か言い知れぬ焦燥感というか、そう言ったものを見る者に掻き立てさせるーそんな女だった。
それが、先ほどの戦慄の正体なのだろうか。
「氷上さんね・・・あなたみたいな綺麗な方とお会いできて光栄だわ」
優雅な仕草とどこか余裕のある笑みを浮かべ、勅使河原は氷上に手を差し出す。
「・・・握手のつもりかしら?」
いつ敵になるかーというより、この島にいる人間は、自分以外は潜在的に全て敵なのだがーわからない相手の手など、おいそれと取れるはずもない。勅使河原を油断なく見据えつつ、低く抑えた声で氷上は問いかけた。
「・・・そのつもりなのだけれど。まあでも、警戒するのも無理はないかしら。こういう大会だし」
勅使河原は、表情はそのままに、手だけは引っ込める。そして、品定めでもするかのように、氷上の頭の上からつま先までを観察した。
「・・・あなたがその気ならば、お相手してもよろしくてよ、氷上さん。私も、あなたのような美しい方がお相手なら何の不満もないわ・・・」
「私は、御遠慮願いたいくらいだわ」
氷上の背を冷たい汗が滑り落ちていく。
ーやはり、この女は何か、他のやつらとは違うー
明らかに、今まで相手にしてきた連中とは異質な何かを感じる。多分、いくらここで抵抗したとしても、この女からは逃げられない。そんな予感がする。
先日、自分が殺した相坂光と同じ運命をたどることになりそうだ。
尤も、今更命など惜しくはない。どうせ、元の生活に戻ることなどできないからだ。
「と言っても、あなたは私とやり合いたいのでしょう、勅使河原さん?」
氷上の更なる問いかけに、勅使河原が満足そうに、
「そうね、私としては、あなたと早くやり合いたいところだわ」
氷上がごくりと唾を飲み込む。これから、この女は自分を無理やりレイプし、その後戦いへと誘うつもりだろう。
ふと、勅使河原の手に何か、光る物があった。
ーあれは・・・糸?ー
何かはよくわからないが、光る人のような物が、彼女の掌にあるのを見つけた。
「ごめんなさいね、氷上さん。この際、あなたの意志は関係ないのよ」
言うが早いか、勅使河原が一瞬で氷上の眼前に迫った。そう、先ほど天内葉月との間合いを一瞬で詰めた時みたいにー。
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