百合斬首～晒しな日記～

ミケとポン太

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第3章　虚ろなる人形

第58話　氷上に迫る危機

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　獲物の気配がするー
　勅使河原は、学校からすぐ近くの住宅街に足を向けた。
　閑静な住宅街ーと言っても、このアルカディア島にある住宅には人は住んではいない。ただ、形だけは日本の街並みに似せただけのモデル都市に過ぎないのだ。
　そのはずだが、しかし、いるはずのない場所に、何者かの気配を感じる。
「誰かしらね・・・天内さんの代わりに、お相手してもらおうかしら」
　日本人形のように黒々とした長い髪を風に靡かせ、勅使河原は人の気配がする住宅へと足を運んだ。
「・・・やはり、誰かいるようね」
　そして、その家の住人も、どうやら自分のことに気が付いたようだった。

「・・・誰かしら？一条さん達がもう戻ってきたのかな？」
　その家を拠点としていた氷上亜美は、家の外に誰かの気配を感じて、窓から外をそっと覗き込んだ。
　門のところに、見慣れぬ少女が佇んでいた。黒々とした、腰まで届く長い髪のなかなかの美人だ。
「今日は、来客が多いわね」
　亜美は、相坂光の首を再び段ボールへと隠しながら、玄関へと向かう。
「・・・当然、敵なのよね」
　玄関を開ければ、もしかしたらいきなり襲われるかもしれない。
　しかし、一方で、このアルカディア島では基本的に参加者全員が敵同士である。いつ、だれに襲い掛かるか、あるいは逆に襲われるかはまさに神のみぞ知るといったところだろう。
　結局、どれだけ身を隠していようが、逃げられる場所など存在しないのだ。
「そう考えれば、むしろさっきの一条さん達のような人はまれなのかもね」
　自分以外は全て敵というのが当たり前のこの場所でも、初対面の相手にいきなり襲い掛からなかった彼女たちは、むしろここでは少数派で、しかもまだしも理性的と言えるのかもしれない。
「ただ・・・あの人はなんか・・・」
　先ほど、窓からちらっと見てみたが、あの少女はうまくは言えないが、何か異質な怖さみたいな気配みたいなものを漂わせていた。
　なんというか、近寄りがたさというよりも、生理的に受け付けない何かを内包しているような、そう言った言い知れぬ不気味さが、あの少女にはあった。
　人間には違いないが、どこか作り物めいた美しさも、却ってそのことに拍車をかけているというかー
「・・・これは、もしかしたら覚悟を決めなければならないのかもね」
　亜美は、既に一人の命を奪っている。本心では奪いたくはなかったが、ルールがある以上はそれに逆らうこともできない。敗者である相坂光の首を刎ね、今はこの家に保管している。
　人の命を奪うなら、奪われる覚悟もなければならない。
　亜美は、この邂逅が、自分の最後の出会いとなるという予感がしたーが。
「自分だけ逃げるというわけにはいかないわね」
　相坂光の顔を思い浮かべた。
　おそらくは、近いうちに自分も相坂のもとに旅立つことになるーそして、もしかしたら、今がその時なのかもしれないー
「私の死神は、日本人形さんか」
　一度深呼吸をし、玄関に手をかける。そしてー。

　玄関が開け放たれ、中からセミロングの美少女が姿を現した。その容姿を見て、勅使河原が妖艶に微笑む。
「あら、可愛らしいお嬢さんだこと」
　天内葉月もなかなかの美形だが、こちらはこちらで工芸品に相応しい顔の造形をしており、勅使河原は満足そうにうなずいた。
「・・・あなたは？」
　目の前の少女が尋ねてくる。警戒はしているようだが、しかし、一方でどこかあきらめにも似た表情もしていた。
「私は勅使河原マヤ」
　勅使河原は、優雅な仕草で自己紹介をする。これから、狩りが始まるのだー。
　

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