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第2章 確かなもの
第55話 人形
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勅使河原の胸倉を掴み、凄みを利かせる紗耶香。
しかし、当の勅使河原自身は全く動じた様子も見せず、ただただ妖艶な笑みを浮かべ続けているだけだった。
「・・・わかりましたわ」
しばしの間、にらみ合った後、勅使河原が諦めたような口調で言った。
「今日のところはお暇いたします・・・それでは、そちらの子猫さんもごきげんよう」
「ふん!」
半ば突き飛ばすような感覚で勅使河原を解放する紗耶香。
ー・・・なんというか、薄気味悪い女だな、こいつはー
先ほど、紗耶香は彼女のことを「人形もどき」と称したが、実際にこいつと接してみて、どこか作り物めいた違和感を感じた。実際には体温はあるし呼吸もしているし、もちろん表情も生きた人間のそれに等しいーはずなのだが。
ー葉月がこいつに抵抗できなかったってのも、何となくわかる気がするなー
肌で感じていた。その得体の知れなさを。
尤も、紗耶香自身は、この女と戦うことになったとしても、決して負けるようなことはないだろう。単純な力量だけなら、多分自分の方が上のはずだ。それは、たった今こいつの胸倉を掴んだ時も、こいつに気が付かれずに接近した時からも、わかることだった。
ただし、それは「単純な力量に限って言えば」というだけのことだった。
なんというか、この女の「得体の知れなさ」は、単純な力だけの話ではないような気がする。
何よりも、生身の人間を相手にしているような気にはなれない。
ーまさに、人形もどき・・・かー
人形のような人間ーしかし、これではあべこべだー「人間のような人形」ならまだ話も分かるのだが。
「おい、人形もどき」
紗耶香は、内心の戸惑いを悟られぬように、勅使河原を怒鳴りつけた。
「二度とこの学校に足を踏み入れるな・・・ここは、あたしら二人の寝床だ。もし、次にお前を見かけたら、その時はお前の首をもらうことになるぞ」
「フフフ・・・」
勅使河原が笑うー見る者の背筋に悪寒が走るような、どこか怖さの入り混じった笑みだった。
ーつくづく、相手にしたくない女だー
確かに、見た目だけならいい女である。しかし、こいつをレイプしたいかと問われたら、とてもそんな気にはなれない。もちろん、擬体を纏うためには、この女とも体を交わらせなければならないが、実際に性行為を行いたいかと問われたら・・・。
とにかく生理的悪寒とでもいうべきだろうか・・・本能的に受け付けない。そんな感覚だった。
「まあいいでしょう。こちらとしても、ここでこれ以上騒ぎを起こすつもりはありませんし」
勅使河原は、二人に向かって優雅に会釈してから背を向ける。その行動が、逆に紗耶香の苛立ちを誘発した。
「でも、またどこかでお会いすることにはなると思いますわよ。お互い、この大会の参加者の身ーどこかで再び相まみえることもあるでしょう」
優雅な足取りで、玄関を後にする勅使河原。その背に向けて、中指を立てる紗耶香。
そしてー。
「・・・せ、先輩~」
葉月が、不安そうな顔で紗耶香を見上げてくる。たった今、犯されそうになり、どうやらまだ精神的に不安定なようだった。
「大丈夫だ、葉月。落ち着きな・・・」
とりあえず、今にも泣きだしそうな葉月を慰めて、再び保健室へと引き上げることにする。
ーあの女は、いったい何なのだー
あのつかみどころのない女ー紗耶香自身も、今まで相手にしてきた連中とは明らかに異なる彼女の存在に、いささか困惑していた。
何よりも、葉月がここまで手玉に取られるなんて、今までに考えられないことだった。
ー当分の間、葉月を一人きりにはさせられないかー
しばらくの間、自分が葉月に連れ添うことにする。獲物を狩りに行くときも、葉月を一人きりにさせない方がよさそうだ。
あの女が近くをうろついている限りはー。
しかし、当の勅使河原自身は全く動じた様子も見せず、ただただ妖艶な笑みを浮かべ続けているだけだった。
「・・・わかりましたわ」
しばしの間、にらみ合った後、勅使河原が諦めたような口調で言った。
「今日のところはお暇いたします・・・それでは、そちらの子猫さんもごきげんよう」
「ふん!」
半ば突き飛ばすような感覚で勅使河原を解放する紗耶香。
ー・・・なんというか、薄気味悪い女だな、こいつはー
先ほど、紗耶香は彼女のことを「人形もどき」と称したが、実際にこいつと接してみて、どこか作り物めいた違和感を感じた。実際には体温はあるし呼吸もしているし、もちろん表情も生きた人間のそれに等しいーはずなのだが。
ー葉月がこいつに抵抗できなかったってのも、何となくわかる気がするなー
肌で感じていた。その得体の知れなさを。
尤も、紗耶香自身は、この女と戦うことになったとしても、決して負けるようなことはないだろう。単純な力量だけなら、多分自分の方が上のはずだ。それは、たった今こいつの胸倉を掴んだ時も、こいつに気が付かれずに接近した時からも、わかることだった。
ただし、それは「単純な力量に限って言えば」というだけのことだった。
なんというか、この女の「得体の知れなさ」は、単純な力だけの話ではないような気がする。
何よりも、生身の人間を相手にしているような気にはなれない。
ーまさに、人形もどき・・・かー
人形のような人間ーしかし、これではあべこべだー「人間のような人形」ならまだ話も分かるのだが。
「おい、人形もどき」
紗耶香は、内心の戸惑いを悟られぬように、勅使河原を怒鳴りつけた。
「二度とこの学校に足を踏み入れるな・・・ここは、あたしら二人の寝床だ。もし、次にお前を見かけたら、その時はお前の首をもらうことになるぞ」
「フフフ・・・」
勅使河原が笑うー見る者の背筋に悪寒が走るような、どこか怖さの入り混じった笑みだった。
ーつくづく、相手にしたくない女だー
確かに、見た目だけならいい女である。しかし、こいつをレイプしたいかと問われたら、とてもそんな気にはなれない。もちろん、擬体を纏うためには、この女とも体を交わらせなければならないが、実際に性行為を行いたいかと問われたら・・・。
とにかく生理的悪寒とでもいうべきだろうか・・・本能的に受け付けない。そんな感覚だった。
「まあいいでしょう。こちらとしても、ここでこれ以上騒ぎを起こすつもりはありませんし」
勅使河原は、二人に向かって優雅に会釈してから背を向ける。その行動が、逆に紗耶香の苛立ちを誘発した。
「でも、またどこかでお会いすることにはなると思いますわよ。お互い、この大会の参加者の身ーどこかで再び相まみえることもあるでしょう」
優雅な足取りで、玄関を後にする勅使河原。その背に向けて、中指を立てる紗耶香。
そしてー。
「・・・せ、先輩~」
葉月が、不安そうな顔で紗耶香を見上げてくる。たった今、犯されそうになり、どうやらまだ精神的に不安定なようだった。
「大丈夫だ、葉月。落ち着きな・・・」
とりあえず、今にも泣きだしそうな葉月を慰めて、再び保健室へと引き上げることにする。
ーあの女は、いったい何なのだー
あのつかみどころのない女ー紗耶香自身も、今まで相手にしてきた連中とは明らかに異なる彼女の存在に、いささか困惑していた。
何よりも、葉月がここまで手玉に取られるなんて、今までに考えられないことだった。
ー当分の間、葉月を一人きりにはさせられないかー
しばらくの間、自分が葉月に連れ添うことにする。獲物を狩りに行くときも、葉月を一人きりにさせない方がよさそうだ。
あの女が近くをうろついている限りはー。
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