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第2章 確かなもの
第50話 つながりを信じて
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その後、咲那と別れた紗耶香が一人、夜の道場で立ち尽くしながら、先ほど咲那から言われたことを思い返していた。
ーあたしとお前との関係は、これからも変わらない。大丈夫だよー
「咲那・・・あたしは、お前を信じてもいいんだよな」
もはや、その場にはいない咲那に向かってそう呟く紗耶香。
「好きなだけあたしに思いをぶつけろ・・・か」
妹弟子にそう言われたことに、若干の生意気さと、そしてなんとも言えぬありがたさを感じた。
ーお前は相手に共感できないわけじゃない。ただ、自分に向けられていたそれに気が付けなかっただけなんだー
咲那が言うと、なぜだか紗耶香もそれを信じたくなる。
ーなんだかんだ言って、あたしはあいつがいないとダメなんだなー
咲那が傍にいるからこそ、自分は安心していられる。それは、好きというのとは、やはり違うのだろうか。
だが、そこで紗耶香は頭を振った。
ううん、多分好きとか恋愛とか、そう言う者じゃないんだろう。ただ、相手が傍にいるだけで満たされるという不思議な感覚だった。
ーお前は、相手に共感できないわけじゃないぞ、紗耶香ー
先ほどと同じ言葉が頭の中を駆け巡る。
ああ、そう言うことか。この感覚こそが、咲那が言っていたものなのだろう。
改めて、自らの内面を見つめてみて、稀薄ではあるが、確かに自分の中にも存在していた感覚。
「・・・あたしも気が付けるのか。今までちっともわからなかった」
もし、もっと早い段階で気が付けていたのなら、もしかしたら家族も、学校での暮らしも、今とはだいぶ違ったものになっていたのかもしれなかった。両親の接し方も、だいぶ異なるものになっていただろう。
「・・・あたしは、結局何をやるにしても遠回りで、損ばかりしていたんだな・・・咲那」
もうその場にはいない咲那に向かって、返答の来ない問いかけを行う紗耶香。その表情は、どこか儚げだが、一方で昏い中に一筋の光明を見出したかのような、希望にも満ちていたのだった。
「紗耶香のやつ・・・あんな悩みを抱えてたなんてな」
紗耶香と怒鳴り合い、語り合いの後、紗耶香と別れた咲那は、一人夜の庭を歩いていた。彼女を照らすのは月明かりのみで、その黄金色の髪が月明かりに照らされて幽玄なる輝きを帯びていた。
「・・・考えてみれば、あいつとあれだけやり合ったのは、今日が初めてか」
初めて・・・と呟いた後、思わず唇を抑えてしまう咲那。眉根を寄せ、何かをこらえるような表情になりながら、
「あれは、ノーカンだ。あれは、ファーストじゃない」
と、誰にいうでもなくぶつぶつ呟き始める。あくまでも、最初の相手は鏡香でなくてはならないのだ。
「・・・鏡香のことで、あいつと揉めるなんてな」
紗耶香は、咲那が鏡香に独占されるのを恐れていた。しかし、恋愛は別に相手を独占するということではない。それに、紗耶香は咲那のことを好きだというわけでもない。ただ、自分に関心を向けられなくなるのを拒んだだけだ。
「・・・我が姉弟子ながら、全く面倒な奴だよ」
まあ、そこも紗耶香らしいか・・・と逆に思い直す。せいぜい2年程度の関係だが、今にして思えば、紗耶香は大人びているようで、まだどこか子供っぽさというか、そういう感覚が残っているような、なんとも複雑な奴だった。
「あいつとは、これからも今まで通りやって行かないとな」
危うさの抱えた紗耶香と接することができるのは、結局は彼女のことをよく知る咲那を置いて他にはいないだろう。鏡香ではおそらく無理だ。彼女は、あまりにも自罰的に考えすぎるきらいがある。
「今まで通り、3人で、それが一番だよ、紗耶香」
心地よい夜風を浴びながら、まるで自分が確認するかのように、その場にはいない紗耶香に言い聞かせるように独り言ちた。
ーあたしとお前との関係は、これからも変わらない。大丈夫だよー
「咲那・・・あたしは、お前を信じてもいいんだよな」
もはや、その場にはいない咲那に向かってそう呟く紗耶香。
「好きなだけあたしに思いをぶつけろ・・・か」
妹弟子にそう言われたことに、若干の生意気さと、そしてなんとも言えぬありがたさを感じた。
ーお前は相手に共感できないわけじゃない。ただ、自分に向けられていたそれに気が付けなかっただけなんだー
咲那が言うと、なぜだか紗耶香もそれを信じたくなる。
ーなんだかんだ言って、あたしはあいつがいないとダメなんだなー
咲那が傍にいるからこそ、自分は安心していられる。それは、好きというのとは、やはり違うのだろうか。
だが、そこで紗耶香は頭を振った。
ううん、多分好きとか恋愛とか、そう言う者じゃないんだろう。ただ、相手が傍にいるだけで満たされるという不思議な感覚だった。
ーお前は、相手に共感できないわけじゃないぞ、紗耶香ー
先ほどと同じ言葉が頭の中を駆け巡る。
ああ、そう言うことか。この感覚こそが、咲那が言っていたものなのだろう。
改めて、自らの内面を見つめてみて、稀薄ではあるが、確かに自分の中にも存在していた感覚。
「・・・あたしも気が付けるのか。今までちっともわからなかった」
もし、もっと早い段階で気が付けていたのなら、もしかしたら家族も、学校での暮らしも、今とはだいぶ違ったものになっていたのかもしれなかった。両親の接し方も、だいぶ異なるものになっていただろう。
「・・・あたしは、結局何をやるにしても遠回りで、損ばかりしていたんだな・・・咲那」
もうその場にはいない咲那に向かって、返答の来ない問いかけを行う紗耶香。その表情は、どこか儚げだが、一方で昏い中に一筋の光明を見出したかのような、希望にも満ちていたのだった。
「紗耶香のやつ・・・あんな悩みを抱えてたなんてな」
紗耶香と怒鳴り合い、語り合いの後、紗耶香と別れた咲那は、一人夜の庭を歩いていた。彼女を照らすのは月明かりのみで、その黄金色の髪が月明かりに照らされて幽玄なる輝きを帯びていた。
「・・・考えてみれば、あいつとあれだけやり合ったのは、今日が初めてか」
初めて・・・と呟いた後、思わず唇を抑えてしまう咲那。眉根を寄せ、何かをこらえるような表情になりながら、
「あれは、ノーカンだ。あれは、ファーストじゃない」
と、誰にいうでもなくぶつぶつ呟き始める。あくまでも、最初の相手は鏡香でなくてはならないのだ。
「・・・鏡香のことで、あいつと揉めるなんてな」
紗耶香は、咲那が鏡香に独占されるのを恐れていた。しかし、恋愛は別に相手を独占するということではない。それに、紗耶香は咲那のことを好きだというわけでもない。ただ、自分に関心を向けられなくなるのを拒んだだけだ。
「・・・我が姉弟子ながら、全く面倒な奴だよ」
まあ、そこも紗耶香らしいか・・・と逆に思い直す。せいぜい2年程度の関係だが、今にして思えば、紗耶香は大人びているようで、まだどこか子供っぽさというか、そういう感覚が残っているような、なんとも複雑な奴だった。
「あいつとは、これからも今まで通りやって行かないとな」
危うさの抱えた紗耶香と接することができるのは、結局は彼女のことをよく知る咲那を置いて他にはいないだろう。鏡香ではおそらく無理だ。彼女は、あまりにも自罰的に考えすぎるきらいがある。
「今まで通り、3人で、それが一番だよ、紗耶香」
心地よい夜風を浴びながら、まるで自分が確認するかのように、その場にはいない紗耶香に言い聞かせるように独り言ちた。
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