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第2章 確かなもの
第48話 紗耶香とのつながり
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「お前は・・・そんなやり方でしか他人と繋がれないってのかよ・・・」
頭を抱えつつ、紗耶香の言葉を反芻する咲那。
今にして思えば、確かに紗耶香と付き合っていく中、何か違和感のようなものを感じることはあった。何か、他の連中とは相いれないような、行き違いにも似たような感覚。おそらく、最初から、彼女とは感覚がズレていたのではないだろうか。
「だからさ、咲那。お前はあたしの傍だけにいてくれればいいんだよ。そうすれば、鏡香にも危害を加えることはない。彼女には、あたしを満足させることはできないだろうからね」
うつむいていた咲那の顔を覗き込むように、紗耶香が顔を近づけてくる。
「簡単な取引だろう・・・?あたしとは、傍から見れば恋人関係を演じてくれればいいんだよ・・・その代わり、お前があたしに怒りや憎悪を向けてくれれば、何も言うことはないよ。ただ、鏡香との関係については、諦めてもらわないといけないかな?彼女にお前を奪われたくないからね」
愛による嫉妬ならまだ話も分かるが、自分に対する怒りや憎悪を独占するために、敢えて恋人関係を演じろという、実にばかげた紗耶香の提案を、咲那が承服するはずもなかった。
「・・・そんなバカな要求、のめるわけねえだろうが」
「どうしても、かい?」
紗耶香の声が低くなった気がした。
「お前は、お前たちは、さんざん周りに対して演じて来たじゃないか。その演技を、今度はあたしだけのために使えと言ってるんだ。そんなに難しい要求なのか」
「演技じゃねえ!」
咲那が、紗耶香の言葉を拒絶するかのように叫ぶ。その後、しばらくの間、辺りは静まり返りー
そして。
「紗耶香・・・正直、あたしにはお前の言うところの相手に対して共感できないっていうこと自体がよくわからない・・・だから、お前の苦痛をわかってやれるとも思えない。そこははっきりと先に言わせてもらう」
今度は、紗耶香を見据える。正面から、彼女から一切目をそらさずに。
「だが、例えお前がなんと言おうが、少なくともあたしは・・・お前に対して演技で付き合ってきた覚えはない。お前にも、鏡香に対してもだ。お前はそう感じないかもしれないがな」
「・・・」
「あたし自身は・・・多分お前にどれだけひどいことをされたとしても、お前を心底憎むなんてことはないだろう。これからも、ずっとな・・・怒りは、まあ確かに感じるかもしれないが、それを常にお前に向け続けるなんて無理だ。それくらい、お前との付き合いも長い」
「咲那・・・」
一呼吸置いてから、咲那が静かに告げる。
「本当に、お前は、感じられないのか?そういった、曖昧さや繊細なものを。ただ、お前自身が・・・それを与えられても、気が付かなかっただけなんじゃないのか?」
「気が・・・つかない?」
今度は、紗耶香が狼狽する番だった。
「ああ、そうだ・・・あたしは、今までお前と一緒にいた。それもかなり長い期間な・・・友達付き合いとしても結構長い方だろう。でも、あたしにはお前、自分では否定するかもしれないけどさ・・・他の友達と、何ら変わらなかったよ」
ー自分が、他のやつらと変わらない?ー
「あたしには、お前の今までの行動が、全てあたしらに合わせるだけの演技だったとは、どうしても思えないんだ・・・多分、お前は、自分に向けられているものに気が付いていないだけで、実感できないというわけじゃないんじゃないか?」
咲那の言葉に、ますます狼狽の色を隠し切れなくなる紗耶香。
ー自分は、単に今までそれらに気が付かなかったというのかー
頭を抱えつつ、紗耶香の言葉を反芻する咲那。
今にして思えば、確かに紗耶香と付き合っていく中、何か違和感のようなものを感じることはあった。何か、他の連中とは相いれないような、行き違いにも似たような感覚。おそらく、最初から、彼女とは感覚がズレていたのではないだろうか。
「だからさ、咲那。お前はあたしの傍だけにいてくれればいいんだよ。そうすれば、鏡香にも危害を加えることはない。彼女には、あたしを満足させることはできないだろうからね」
うつむいていた咲那の顔を覗き込むように、紗耶香が顔を近づけてくる。
「簡単な取引だろう・・・?あたしとは、傍から見れば恋人関係を演じてくれればいいんだよ・・・その代わり、お前があたしに怒りや憎悪を向けてくれれば、何も言うことはないよ。ただ、鏡香との関係については、諦めてもらわないといけないかな?彼女にお前を奪われたくないからね」
愛による嫉妬ならまだ話も分かるが、自分に対する怒りや憎悪を独占するために、敢えて恋人関係を演じろという、実にばかげた紗耶香の提案を、咲那が承服するはずもなかった。
「・・・そんなバカな要求、のめるわけねえだろうが」
「どうしても、かい?」
紗耶香の声が低くなった気がした。
「お前は、お前たちは、さんざん周りに対して演じて来たじゃないか。その演技を、今度はあたしだけのために使えと言ってるんだ。そんなに難しい要求なのか」
「演技じゃねえ!」
咲那が、紗耶香の言葉を拒絶するかのように叫ぶ。その後、しばらくの間、辺りは静まり返りー
そして。
「紗耶香・・・正直、あたしにはお前の言うところの相手に対して共感できないっていうこと自体がよくわからない・・・だから、お前の苦痛をわかってやれるとも思えない。そこははっきりと先に言わせてもらう」
今度は、紗耶香を見据える。正面から、彼女から一切目をそらさずに。
「だが、例えお前がなんと言おうが、少なくともあたしは・・・お前に対して演技で付き合ってきた覚えはない。お前にも、鏡香に対してもだ。お前はそう感じないかもしれないがな」
「・・・」
「あたし自身は・・・多分お前にどれだけひどいことをされたとしても、お前を心底憎むなんてことはないだろう。これからも、ずっとな・・・怒りは、まあ確かに感じるかもしれないが、それを常にお前に向け続けるなんて無理だ。それくらい、お前との付き合いも長い」
「咲那・・・」
一呼吸置いてから、咲那が静かに告げる。
「本当に、お前は、感じられないのか?そういった、曖昧さや繊細なものを。ただ、お前自身が・・・それを与えられても、気が付かなかっただけなんじゃないのか?」
「気が・・・つかない?」
今度は、紗耶香が狼狽する番だった。
「ああ、そうだ・・・あたしは、今までお前と一緒にいた。それもかなり長い期間な・・・友達付き合いとしても結構長い方だろう。でも、あたしにはお前、自分では否定するかもしれないけどさ・・・他の友達と、何ら変わらなかったよ」
ー自分が、他のやつらと変わらない?ー
「あたしには、お前の今までの行動が、全てあたしらに合わせるだけの演技だったとは、どうしても思えないんだ・・・多分、お前は、自分に向けられているものに気が付いていないだけで、実感できないというわけじゃないんじゃないか?」
咲那の言葉に、ますます狼狽の色を隠し切れなくなる紗耶香。
ー自分は、単に今までそれらに気が付かなかったというのかー
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