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第2章 確かなもの
第45話 理解して・・・
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「なぜなんだ、紗耶香」
咲那が、今までとは打って変わって、どこか諭すような静かな口調で問いかける。もちろん、その眼にはいまだ怒りの色も宿ってはいるものの、先ほどよりは落ち着きを取り戻したようにも見えた。
「・・・自分でも、あまりよくわからないんだ」
咲那の問いかけに、紗耶香自身も頭を振りながら、どこか皮肉気な笑みを浮かべつつ答えた。
「・・・こっちは、初めてをいきなり奪われたんだ。ある程度は納得のいく理由を聞かないと、さすがに引き下がれないぞ」
唇を抑えつつ、はだけた胸元を左手で直しながら、咲那は目を紗耶香から反らした。しかし、何か思い至ったのか、すぐに紗耶香の方に向き直り、指を突きつけながら、
「い、今のはノーカンだ!あれは・・・今のは初めてには入らないからな!」
と、力強く宣言する。
そんな妹弟子の姿を見つめ返しながら、
「しいて言うなら、お前に怒られたかったからかな・・・」
「・・・は?」
紗耶香の言葉の真意がわからず、思わず間の抜けた声で訊き返してしまう咲那。それから少しして、肩をわなわなと震わせながら、
「・・・あたしの、あたしの初めてが、そんなわけのわからない理由で奪われたってのか!?」
「さっき、ノーカンだって言ってなかったっけ?はじめてには入らないって」
自分の先の発言を指摘され、咲那は少しばかりしどろもどろになりながら、
「いや、でも実際にやられたわけで・・・って、ああもう!とにかく、なんだかよくわからない理由でされたこっちの身にもなってみろよ!何だよ、あたしに怒られたかったって!?敢えて人を怒らせるためにあんなことしたってのか!?意味わかんないよ!」
咲那が激昂する。ついさっきまでは落ち着きを取り戻したかと思ったのに、またすぐに怒りモードに戻った咲那を見て、紗耶香は
ーこの表情だー
と、内心ほくそ笑んだ。
自分に最も向けてほしいものー他者との強い絆、つながりを実感できるものーこれしかないのだ、あたしにはー。
「咲那、お前さあ、周りの連中のことどう思ってる?」
「・・・え、は?」
いきなり意外な質問をされ、再び戸惑う咲那。
「あたしはさ、疲れたよ。周りに合わせるの。もう、仮面をつけて生きるのは嫌なんだ・・・しかも、これから生きてる限り、それがずっと続くのかと思うと、もう耐えられないよ。ねえ、咲那」
「紗耶香・・・お前、何を言ってるんだ?」
「咲那・・・教えてよ。お前はどうやって、他人とのつながりを実感しているんだい?」
「・・・」
紗耶香の問いかけに、咲那はにわかには答えることができなかった。
他人とのつながりなんて、そんなもの、当たり前に暮らしていればいくらでも・・・。
と、言いかけて、咲那は口を閉ざす。
そういえば、聞いたことがある。極端に共感能力が低すぎるために、他者と生活していても、そのつながりを実感できない者達のことを。
「紗耶香・・・お前、もしかして」
咲那の言葉に、紗耶香は静かにうなずいた。
「そうだよ」
そして、寂寥感の入り混じった笑みを浮かべながら、
「あたしは、他人に共感できないのさ・・・だから、その価値もわからないんだよ。ただ、今まではわかっているふりを演じてきただけなんだ。共感できているふりをしてね・・・でも、所詮は演技に過ぎないから、いつか、どこかで自分が壊れてしまうのではないかって、漠然とした恐怖に駆られることがある。そんなあたしだけど、唯一他人とのつながりを感じられるものがあるんだ、それが・・・」
「他者の怒り、か」
咲那の言葉に静かにうなずく紗耶香だった。
咲那が、今までとは打って変わって、どこか諭すような静かな口調で問いかける。もちろん、その眼にはいまだ怒りの色も宿ってはいるものの、先ほどよりは落ち着きを取り戻したようにも見えた。
「・・・自分でも、あまりよくわからないんだ」
咲那の問いかけに、紗耶香自身も頭を振りながら、どこか皮肉気な笑みを浮かべつつ答えた。
「・・・こっちは、初めてをいきなり奪われたんだ。ある程度は納得のいく理由を聞かないと、さすがに引き下がれないぞ」
唇を抑えつつ、はだけた胸元を左手で直しながら、咲那は目を紗耶香から反らした。しかし、何か思い至ったのか、すぐに紗耶香の方に向き直り、指を突きつけながら、
「い、今のはノーカンだ!あれは・・・今のは初めてには入らないからな!」
と、力強く宣言する。
そんな妹弟子の姿を見つめ返しながら、
「しいて言うなら、お前に怒られたかったからかな・・・」
「・・・は?」
紗耶香の言葉の真意がわからず、思わず間の抜けた声で訊き返してしまう咲那。それから少しして、肩をわなわなと震わせながら、
「・・・あたしの、あたしの初めてが、そんなわけのわからない理由で奪われたってのか!?」
「さっき、ノーカンだって言ってなかったっけ?はじめてには入らないって」
自分の先の発言を指摘され、咲那は少しばかりしどろもどろになりながら、
「いや、でも実際にやられたわけで・・・って、ああもう!とにかく、なんだかよくわからない理由でされたこっちの身にもなってみろよ!何だよ、あたしに怒られたかったって!?敢えて人を怒らせるためにあんなことしたってのか!?意味わかんないよ!」
咲那が激昂する。ついさっきまでは落ち着きを取り戻したかと思ったのに、またすぐに怒りモードに戻った咲那を見て、紗耶香は
ーこの表情だー
と、内心ほくそ笑んだ。
自分に最も向けてほしいものー他者との強い絆、つながりを実感できるものーこれしかないのだ、あたしにはー。
「咲那、お前さあ、周りの連中のことどう思ってる?」
「・・・え、は?」
いきなり意外な質問をされ、再び戸惑う咲那。
「あたしはさ、疲れたよ。周りに合わせるの。もう、仮面をつけて生きるのは嫌なんだ・・・しかも、これから生きてる限り、それがずっと続くのかと思うと、もう耐えられないよ。ねえ、咲那」
「紗耶香・・・お前、何を言ってるんだ?」
「咲那・・・教えてよ。お前はどうやって、他人とのつながりを実感しているんだい?」
「・・・」
紗耶香の問いかけに、咲那はにわかには答えることができなかった。
他人とのつながりなんて、そんなもの、当たり前に暮らしていればいくらでも・・・。
と、言いかけて、咲那は口を閉ざす。
そういえば、聞いたことがある。極端に共感能力が低すぎるために、他者と生活していても、そのつながりを実感できない者達のことを。
「紗耶香・・・お前、もしかして」
咲那の言葉に、紗耶香は静かにうなずいた。
「そうだよ」
そして、寂寥感の入り混じった笑みを浮かべながら、
「あたしは、他人に共感できないのさ・・・だから、その価値もわからないんだよ。ただ、今まではわかっているふりを演じてきただけなんだ。共感できているふりをしてね・・・でも、所詮は演技に過ぎないから、いつか、どこかで自分が壊れてしまうのではないかって、漠然とした恐怖に駆られることがある。そんなあたしだけど、唯一他人とのつながりを感じられるものがあるんだ、それが・・・」
「他者の怒り、か」
咲那の言葉に静かにうなずく紗耶香だった。
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