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第2章 確かなもの
第42話 続・保健室にて
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保健室で、二人の少女が眠りについていた。
一方は一条紗耶香ー銀色に輝く腰まで届く長い髪の、クオーターの娘。もう一方は天内葉月ーこちらは純粋な日本人だが、顔立ちの彫りの深さはどこか西洋人に近いものがある。
「ん、んんん・・・」
しばらくして、紗耶香の方が先に目を覚ました。カーテンを閉め切った寝台の上で、大きく伸びをしながら、
「何だ、あたしも寝ちまったのか・・・」
同じ寝台の上でかすかな寝息をたてて幸せそうに夢の世界にいる葉月を見て、
「二人して同じベッドの上でおネムしてたってわけか・・・」
葉月は起きる気配がない。いっそのこと、このまま襲ってやろうかーとか不穏なことを考えてしまう紗耶香だった。
「まあ、さっきあれだけかわいがってやったんだ・・・少しは休ませてやるか」
自らは寝台から起き上がり、葉月に布団をかけてやる。
「風邪ひくぞ、馬鹿」
そういう自分も、裸のまま今まで眠りこけていたのだから、人のことは言えないわけだが・・・。
葉月に布団をかけた後、紗耶香は近くに置いてあった制服を着る。
「・・・そういや、生前はあいつのことも犯してやったな・・・」
紗耶香は、かつて妹弟子だった薬師寺咲那の顔を思い浮かべた。
薬師寺咲那の「初めて」を奪ったのは、ほかならぬ紗耶香自身だった。そして、彼女を、いや、彼女たちを殺したのも紗耶香自身である。
「・・・ますます戻れないよね、シャバには」
紗耶香自身は優勝に興味はない。ただ、誰かの手にかかるという屈辱は味わいたくなかった。だから、勝ち続けることにしたのだ。
そもそも、あちらに戻っても自分の居場所など、もはや存在しないだろう。いくら未成年とは言っても、二人も人を殺したのである。おおよそまともな社会生活など営めるはずもない。もはや、刑事罰の対象になるか否かではなく、最終的には「閉鎖病棟」のような場所に送られたとしても、それはそれでおかしくはないはずだ。
「・・・葉月の話じゃあ、あたしは奏多によって殺されたらしいけどさ」
その時の記憶は、運営側の手によって曖昧化されている。葉月が語る通り、その「最期の記憶」がこの大会参加者において枷となりかねない要素だからこそ曖昧化され、本人だけでは思い出せないようにしているのだとしたら、確かにそれは正しいかもしれない。
「・・・あんな奴にやられた時の記憶なんて、屈辱以外のなにものでもないからな」
同じ天元一刀流の道場に通っていた和泉奏多は、双子の姉である和泉鏡香とは異なり、とにかく弱いやつだった。姉はトップクラスの実力者なのに、弟の方はからっきしなのである。
二卵性双生児ゆえに、似てないと言えば似てない双子だったが、やたらと仲が良かったということだけは記憶している。
それ故に、姉を残酷な形で殺された怒りというのはすさまじかったのだろうが、単に怒りだけで奏多が紗耶香に勝ったとは思えなかった。おそらく、何らかの不意を突く形でやったのではないだろうか。
「・・・確かに、思い出さない方がいいのかもしれないな。そう考えると」
もちろん、紗耶香ばかりではなく、薬師寺咲那も和泉鏡香も、自分が誰に、どのように殺されたのか、はっきりとした記憶はもっていないだろう。
「でも、あいつらには、あたしがやったことを思い出してほしいんだよな」
そうだ。あの二人には紗耶香自身こそが自分たちの仇であることを思い出してもらわねばならないのだ。そうしなければー。
「あたしはあいつらのただの姉弟子で終わってしまう」
それは困る。なぜなら、自分が欲しいのはー。
「あいつらの恨みと怒り、そして憎しみだからだ」
それは、紗耶香にとって、相手とはっきりと繋がっているということを実感できるものーゆえに、自分たちの命を理不尽に奪った紗耶香に対して、それを向けてもらわなければ困る。
2人を殺す前、咲那を犯したのも、彼女の怒りを自分に向けさせるためだった。実際、彼女は怒りをぶつけたーが。
「その後、あいつはあたしの言い分も聞いてくれたんだよな」
咲那は、怒りをぶつけながらも、紗耶香になぜこんなことをしたのか、わけを話せと言ってきたのだった。
一方は一条紗耶香ー銀色に輝く腰まで届く長い髪の、クオーターの娘。もう一方は天内葉月ーこちらは純粋な日本人だが、顔立ちの彫りの深さはどこか西洋人に近いものがある。
「ん、んんん・・・」
しばらくして、紗耶香の方が先に目を覚ました。カーテンを閉め切った寝台の上で、大きく伸びをしながら、
「何だ、あたしも寝ちまったのか・・・」
同じ寝台の上でかすかな寝息をたてて幸せそうに夢の世界にいる葉月を見て、
「二人して同じベッドの上でおネムしてたってわけか・・・」
葉月は起きる気配がない。いっそのこと、このまま襲ってやろうかーとか不穏なことを考えてしまう紗耶香だった。
「まあ、さっきあれだけかわいがってやったんだ・・・少しは休ませてやるか」
自らは寝台から起き上がり、葉月に布団をかけてやる。
「風邪ひくぞ、馬鹿」
そういう自分も、裸のまま今まで眠りこけていたのだから、人のことは言えないわけだが・・・。
葉月に布団をかけた後、紗耶香は近くに置いてあった制服を着る。
「・・・そういや、生前はあいつのことも犯してやったな・・・」
紗耶香は、かつて妹弟子だった薬師寺咲那の顔を思い浮かべた。
薬師寺咲那の「初めて」を奪ったのは、ほかならぬ紗耶香自身だった。そして、彼女を、いや、彼女たちを殺したのも紗耶香自身である。
「・・・ますます戻れないよね、シャバには」
紗耶香自身は優勝に興味はない。ただ、誰かの手にかかるという屈辱は味わいたくなかった。だから、勝ち続けることにしたのだ。
そもそも、あちらに戻っても自分の居場所など、もはや存在しないだろう。いくら未成年とは言っても、二人も人を殺したのである。おおよそまともな社会生活など営めるはずもない。もはや、刑事罰の対象になるか否かではなく、最終的には「閉鎖病棟」のような場所に送られたとしても、それはそれでおかしくはないはずだ。
「・・・葉月の話じゃあ、あたしは奏多によって殺されたらしいけどさ」
その時の記憶は、運営側の手によって曖昧化されている。葉月が語る通り、その「最期の記憶」がこの大会参加者において枷となりかねない要素だからこそ曖昧化され、本人だけでは思い出せないようにしているのだとしたら、確かにそれは正しいかもしれない。
「・・・あんな奴にやられた時の記憶なんて、屈辱以外のなにものでもないからな」
同じ天元一刀流の道場に通っていた和泉奏多は、双子の姉である和泉鏡香とは異なり、とにかく弱いやつだった。姉はトップクラスの実力者なのに、弟の方はからっきしなのである。
二卵性双生児ゆえに、似てないと言えば似てない双子だったが、やたらと仲が良かったということだけは記憶している。
それ故に、姉を残酷な形で殺された怒りというのはすさまじかったのだろうが、単に怒りだけで奏多が紗耶香に勝ったとは思えなかった。おそらく、何らかの不意を突く形でやったのではないだろうか。
「・・・確かに、思い出さない方がいいのかもしれないな。そう考えると」
もちろん、紗耶香ばかりではなく、薬師寺咲那も和泉鏡香も、自分が誰に、どのように殺されたのか、はっきりとした記憶はもっていないだろう。
「でも、あいつらには、あたしがやったことを思い出してほしいんだよな」
そうだ。あの二人には紗耶香自身こそが自分たちの仇であることを思い出してもらわねばならないのだ。そうしなければー。
「あたしはあいつらのただの姉弟子で終わってしまう」
それは困る。なぜなら、自分が欲しいのはー。
「あいつらの恨みと怒り、そして憎しみだからだ」
それは、紗耶香にとって、相手とはっきりと繋がっているということを実感できるものーゆえに、自分たちの命を理不尽に奪った紗耶香に対して、それを向けてもらわなければ困る。
2人を殺す前、咲那を犯したのも、彼女の怒りを自分に向けさせるためだった。実際、彼女は怒りをぶつけたーが。
「その後、あいつはあたしの言い分も聞いてくれたんだよな」
咲那は、怒りをぶつけながらも、紗耶香になぜこんなことをしたのか、わけを話せと言ってきたのだった。
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