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第2章 確かなもの
第29話 ご主人様と飼い犬
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「ただいま~っす」
廃校舎ーと言っても、このアルカディア島にあるのは、日本にある建築物をまねただけで、多分この校舎自体は一度も使用されたことがないはずだ。生徒が通ったこともなく、ただこの大会のためだけに建てられたものを廃校舎と呼ぶべきかー。
それでも便宜上、廃校舎と呼ぶことにしてー獲物を仕留めた葉月が朝帰りした。
「ううーん、今回の獲物は、残念ながら完全勝利とはならなかったっすね~」
背伸びしながら葉月は屋上にいた紗耶香に挨拶する。
「おはようございます、先輩・・・昨日は外に出なかったんすか?」
何となく、紗耶香が屋上にいるだろうなとは思っていたので、昨日の夜泊まっていたホテル(もちろん無人である)からそのまま校舎の屋上に向かった葉月は、昨日とほぼ同じ様子の紗耶香を見て尋ねた。
「おう、おはようさん」
紗耶香は適当に挨拶を返しながら、
「いや、出るには出たんだけどな・・・めぼしい獲物もなかったから、すぐに引き上げた」
実際、昨日の時点で一人は殺しているので、今のところ次のペナルティまではまだ余裕があった。少しの間は様子見しようとさえ思っている。
「そうっすか・・・」
葉月の方も、それ以上紗耶香には追求しなかった。
「その様子だと、誰か殺れたんだろ?葉月」
返り血だらけの葉月の制服を見て、口の端を歪める紗耶香。葉月が昨晩誰かを殺めたのは明白であった。
「はいっす・・・成城女学院のお嬢様とかち合って、見事首チョンパしましたっす」
葉月が昨晩の戦いのことを告げる。
「その血だらけの制服みりゃわかるさ。それにしても成城女学院ね・・・いいとこのお嬢様までこんな大会に駆り出されるとは」
「そうっすね・・・あたしも最初はそう思ったっす・・・でも、あのお嬢様、なかなか侮れなかったっすよ」
「ほう?」
葉月が相手をそんな風に評価するなんて珍しいー紗耶香は無言で話の先を促した。
「あたしの擬体に傷をつけるなんて・・・ああ、もう今思い出しても納得いかないっすよ」
三好京子にやられた時の屈辱を思い出したのかー葉月の口調が段々荒く、低いものになっていく。
「もう少しであたしの完全勝利だったのに・・・あのクソアマ」
「何だ、お前不覚取ったのか・・・お前らしくもないな、油断してたのか」
「・・・油断は、そうっすね、あったかもしれないっす」
紗耶香の追求に、いつもの口調に戻りながらうなだれる葉月。
「ふん、まあそれでもお前はきっちり仕留めて来たんだろ?ならいいんじゃないか、当面は」
「あたしとしては完全勝利を目指してたんすよ!・・・まあ、あたしも相手を舐めてたのは確かにありましたが、あそこで予想外の攻撃を食らって・・・」
「予想外の攻撃?」
葉月の言葉に眉を顰める紗耶香。
「あ、はい・・・先輩、スペツナズナイフってご存じっすか?」
聞いたことがある単語だった。
「旧ソ連の特殊部隊スペツナズが使ってたっていうアレだろ?確かナイフの刀身が射出できるとかいう。まあ、その辺りは半都市伝説みたいなところもあるらしいが・・・って、お前が相手にしたのはナイフ使いだったのか?」
「いやあ、あたしが相手にしてた三好って女は、正確には剣士なんすが、スペツナズナイフみたいに、まるで刀身が射出されたような感じで・・・それで」
「ダメージを受けたってわけね」
なるほど、それで予想外の攻撃ってわけか。
「なんつうか、自分よりも格下の相手にしてやられたってのは、あたしにとってはもう腹立たしくて・・・」
「それ、どう言い訳しようが、結局はお前自身の油断が招いたミスって事だろ?」
紗耶香が冷たく言い放つ。
「え、ええ・・・まあ、やっぱりそういうことになりますかね・・・先輩」
紗耶香の口調が変わったことに気が付いたのかー葉月の口調が段々しどろもどろになってくる。何か、紗耶香を不機嫌にさせるようなことを言ってしまったのか、内心の焦りが窺がえた。
そして、そんな葉月を見て、紗耶香は考えた。
これはこれから躾をするためのいい口実になる・・・と。
飼い犬には適度な躾が必要であるー。
廃校舎ーと言っても、このアルカディア島にあるのは、日本にある建築物をまねただけで、多分この校舎自体は一度も使用されたことがないはずだ。生徒が通ったこともなく、ただこの大会のためだけに建てられたものを廃校舎と呼ぶべきかー。
それでも便宜上、廃校舎と呼ぶことにしてー獲物を仕留めた葉月が朝帰りした。
「ううーん、今回の獲物は、残念ながら完全勝利とはならなかったっすね~」
背伸びしながら葉月は屋上にいた紗耶香に挨拶する。
「おはようございます、先輩・・・昨日は外に出なかったんすか?」
何となく、紗耶香が屋上にいるだろうなとは思っていたので、昨日の夜泊まっていたホテル(もちろん無人である)からそのまま校舎の屋上に向かった葉月は、昨日とほぼ同じ様子の紗耶香を見て尋ねた。
「おう、おはようさん」
紗耶香は適当に挨拶を返しながら、
「いや、出るには出たんだけどな・・・めぼしい獲物もなかったから、すぐに引き上げた」
実際、昨日の時点で一人は殺しているので、今のところ次のペナルティまではまだ余裕があった。少しの間は様子見しようとさえ思っている。
「そうっすか・・・」
葉月の方も、それ以上紗耶香には追求しなかった。
「その様子だと、誰か殺れたんだろ?葉月」
返り血だらけの葉月の制服を見て、口の端を歪める紗耶香。葉月が昨晩誰かを殺めたのは明白であった。
「はいっす・・・成城女学院のお嬢様とかち合って、見事首チョンパしましたっす」
葉月が昨晩の戦いのことを告げる。
「その血だらけの制服みりゃわかるさ。それにしても成城女学院ね・・・いいとこのお嬢様までこんな大会に駆り出されるとは」
「そうっすね・・・あたしも最初はそう思ったっす・・・でも、あのお嬢様、なかなか侮れなかったっすよ」
「ほう?」
葉月が相手をそんな風に評価するなんて珍しいー紗耶香は無言で話の先を促した。
「あたしの擬体に傷をつけるなんて・・・ああ、もう今思い出しても納得いかないっすよ」
三好京子にやられた時の屈辱を思い出したのかー葉月の口調が段々荒く、低いものになっていく。
「もう少しであたしの完全勝利だったのに・・・あのクソアマ」
「何だ、お前不覚取ったのか・・・お前らしくもないな、油断してたのか」
「・・・油断は、そうっすね、あったかもしれないっす」
紗耶香の追求に、いつもの口調に戻りながらうなだれる葉月。
「ふん、まあそれでもお前はきっちり仕留めて来たんだろ?ならいいんじゃないか、当面は」
「あたしとしては完全勝利を目指してたんすよ!・・・まあ、あたしも相手を舐めてたのは確かにありましたが、あそこで予想外の攻撃を食らって・・・」
「予想外の攻撃?」
葉月の言葉に眉を顰める紗耶香。
「あ、はい・・・先輩、スペツナズナイフってご存じっすか?」
聞いたことがある単語だった。
「旧ソ連の特殊部隊スペツナズが使ってたっていうアレだろ?確かナイフの刀身が射出できるとかいう。まあ、その辺りは半都市伝説みたいなところもあるらしいが・・・って、お前が相手にしたのはナイフ使いだったのか?」
「いやあ、あたしが相手にしてた三好って女は、正確には剣士なんすが、スペツナズナイフみたいに、まるで刀身が射出されたような感じで・・・それで」
「ダメージを受けたってわけね」
なるほど、それで予想外の攻撃ってわけか。
「なんつうか、自分よりも格下の相手にしてやられたってのは、あたしにとってはもう腹立たしくて・・・」
「それ、どう言い訳しようが、結局はお前自身の油断が招いたミスって事だろ?」
紗耶香が冷たく言い放つ。
「え、ええ・・・まあ、やっぱりそういうことになりますかね・・・先輩」
紗耶香の口調が変わったことに気が付いたのかー葉月の口調が段々しどろもどろになってくる。何か、紗耶香を不機嫌にさせるようなことを言ってしまったのか、内心の焦りが窺がえた。
そして、そんな葉月を見て、紗耶香は考えた。
これはこれから躾をするためのいい口実になる・・・と。
飼い犬には適度な躾が必要であるー。
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