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第2章 確かなもの

第21話 他者と繋がるために

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 他人と繋がるためには、何か「強く、明確なもの」がなければ理解できないー。
 それが一条紗耶香という娘だった。
 それはやがて、彼女の学校生活の至る所に影響を及ぼしていくー。

 もともと、一条紗耶香は他者に対する共感能力が乏しい点を除いて、かなり優秀な生徒だった。勉強、運動神経、どれをとっても、成績だけを見れば優秀ーただ、そんな彼女でも苦手な科目は存在した。
「一条さん、君は現代文だけ極端に成績が悪いね」
 そう、昔から国語が苦手だったのだ。特に、小説を扱った問題はほぼ全滅だった。
「あとそれと・・・もう少しほかの人たちとも協調できないかな」
 いつも指摘される他人との協調性のなさー逆に教師に問いかけてやりたかった。
 なぜそこまで周りと強調しなければならないのかーと。
 尤も、今まで何度もこの手の注意は受けているので、紗耶香自身はもうほとんど気にも留めなくなっていたのだが。
 他者との協調というのは、あのクラスの他の女子どものように、うわべだけの友人ごっこをやれということなのだろうか。あんな「何も感じない」ただ当人たちだけは楽しがっているだけに見えるーごまかしだけの関係。それをやれと強調されても素直にやる気にはなれなかった。
 確かに、一時期他の連中に溶け込もうと思ったこともあるが、そもそもその関係から「何も感じ取ることができなかった」ので、長続きはしなかった。逆に頭がおかしくなりそうとまで思った。
 紗耶香にとっては、もはや学校も進路も将来も興味がなくなっていた。おそらく自分は、それほど遠くない未来においてことをやらかすのではないかと予感はしていた。
 母も、それとなく娘の行く末を案じていたようで、ますます紗耶香への干渉を強めるようになった。
 そんな母に、いつまでも子ども扱いするなと怒鳴り返したことは覚えているが、今となっては母の不安も当然だったのかもしれない。
 不吉な予感は見事的中したーだからこそ、今、この場所にいるのだ。

「・・・またこの夢か」
 どうやら浅い眠りだったのだろう。すぐに目が覚めてしまったようだった。
「・・・最近は、よく母の夢を見るな・・・」
 紗耶香にとって、母がどういう存在だったのか、今となっては理解できない。「優しさ」や「愛情」といった、普通のやつらにとっては尊いもの、ありがたいものであっても、紗耶香自身はそれらを実感できなかったので、いまいちその価値がわからなかった。
「母は、私のことを今でもどう思ってるかな・・・」
 いくら自分の娘とは言え、未成年犯罪史上類を見ない殺人事件を起こした紗耶香を、それでもあの母は愛してくれているだろうか。人を二人も殺した後、自分もまた殺された娘のことを、母は嘆いただろうか。
 もはや、この問いかけに答えてもらえる状況ではない。
「まあ、敢えて今更会いたいとも思わないが、こうして夢にまで出てくるってことは、やはり母親ってのは特別な存在なのかね・・・他の連中にとっても、あたしにとっても」
 廃校舎の屋上には紗耶香一人しかいない。その問いかけに誰も答えてくれるわけでもない。
 それでもなぜか、口にせざるを得なかった。
「さすがに、一度目が覚めたらもう寝られないな・・・少し歩くか」
 空はいまだ漆黒の闇に覆われ、深夜であることが窺える。
「葉月のやつも「いちゃついてる」最中だろう・・・あたしも、今日の獲物は食い足りなかったし、そろそろ繰り出すとするか」
 今日殺した相手は、大した女ではなかった。この大会に出場している以上、「容姿端麗」なのは間違いないが、まさにそれだけの女だった。生前、クラスにいた周りの女子どもと何ら変わらないレベルの相手ー街中を歩いていたところ、半ば力づくで「性行為」に及び(要するにレイプしたわけだが、この大会では強姦和姦は一切問わずとしているので問題はなかった)、その後すぐに首を刎ねてやった。
 ペナルティ回避のためのいけにえくらいにはなったが、そろそろ違うやつも相手にしたいところだった。
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