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第2章 確かなもの
第19話 仇・・・
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「あいつが・・・和泉奏多があたしを殺した・・・?」
紗耶香が驚愕を隠し切れずに叫ぶ。
「そうっす・・・まあ、例によって和泉奏多も未成年なんで、名前や顔写真は、本来非公開のはずなんすが・・・このご時世なので、めでたく流出してしまいました~!・・・んがっ!!」
紗耶香が葉月の胸倉を掴んだ。
「・・・冗談じゃないぞ、なんであんな奴にあたしが殺されたんだ!?・・・あんな、弱っちい奴に」
和泉奏多は、和泉鏡香の双子の弟である。二卵性なので、双子と言えども似てはいないが、大変仲睦まじく、ほとんどの場合、奏多は姉にべったりとしていた。
姉の和泉鏡香は、道場に通う門下生の中でも実力はトップクラスで、紗耶香にさえ迫ることもしばしばあった。さすがに妹弟子に負けるわけにもいかず、とりあえず試合では全勝してはいるものの、毎回冷や汗をかかされていたのを覚えている。
それに対し、和泉奏多はひょろひょろのもやしっ子で、ほとんどの試合で負けてばかりいた。
仲はいいのに、基本的に全く似ていない双子の姉弟である。
「あたしに聞かれても困るっすよぉぉ~先輩、苦しいんでそろそろ離してください」
胸倉を掴まれたまま、もがく葉月。少し冷静さを取り戻した紗耶香が彼女を解放する。
「ふう」
「あんな奴に殺されたってのか・・・」
まだ納得できぬといった様子で、ぶつぶつと何事か呟く紗耶香。
「まあ、事件を扱ったニュース番組では、先輩が二人を首チョンパした後、たまたまその後に現場を訪れて、姉を殺されたのを見てしまった和泉奏多が、先輩を斬りつけたらしいっす・・・その後、先輩が死亡した後に、和泉奏多も自殺・・・なんと、割腹自殺だったらしいっすね」
「割腹自殺・・・あんな臆病な奴がか?」
生前の和泉奏多をよく知る紗耶香にとって、それも信じられないことだった。
「ニュース報道ではそういうことになってるっすね」
「姉貴の仇討ちか・・・そして、あたしを殺して自害・・・あいつに負けたのはさすがに信じられないから、多分あたしの不意を突いて斬りつけたってところだろうね」
「ちなみに、この和泉奏多クンも美形だったので、イケメン剣士、姉の仇を討った後に見事に腹を掻っ捌いて自害・・・と、BL系支持者の連中やなぜか新選組の同人誌なんかのネタになってますね。それで、男も女も大盛り上がりと」
「・・・馬鹿どもの話なんてどうでもいい」
確かに、SNS上ではネタにされそうな話ではある。いや、実際にネタにされている。
最初に首チョンパされた2人の被害者は美人、やった紗耶香も美人、そして、姉の仇を討って自殺した奏多は美少年・・・同人誌のネタ以前に、確かに話題性には事欠かない事件だろう。
「ちなみに先輩、根本的なことを訊いてもいいっすかね?」
興味津々といった顔つきで、葉月が尋ねてきた。
「何だよ?」
「どうして先輩はお二人を首チョンパしたんすか?」
「・・・お前には言っても理解できんよ」
「ええ、教えてくださいよぉ~先輩、テレビやネットじゃいろんなコメンテーターやお偉いさん方が憶測交じりの解説ばかりしてて、結局なんで殺したのか、はっきりしたことは何も明らかになってないんすよぉ~やっぱり、やった本人から訊くのが一番確実じゃないすかぁ」
今度は葉月の方が紗耶香に引っ付いてくる。
「ええい、鬱陶しい・・・離れろ!!」
「ちぇー」
不服そうに唇を尖らせる葉月のことはほっといて、紗耶香は葉月の説明をもとに、何とか記憶を手繰り寄せようとする。だが、相変わらず、思い出そうとすればするほど、頭に霧がかかったような感覚に陥るだけだった。
「・・・駄目だな、さすがに記憶は戻らないか」
「まあ、人から話を聞いただけじゃあ、さすがに記憶のロックは解けないっしょ。やつらにとってもあたしらにとっても、思い出さない方が都合がいいってことっすよ、先輩」
「お前なんか、むしろ思い出しても大したことなさそうな記憶のような気がするけどね」
「うう、先輩、ひどいっす」
ひどいとは全く感じていないような口ぶりで、よよよ・・・泣きまねをし始める葉月のことは、とりあえず放っておくことにする。
「葉月、お前そろそろ狩りに行かないとやばいんじゃないか」
話し込んでいて意識していなかったが、既に日は沈み夜の帳が降り始めている。
「夜行性のお前さんに合う獲物なら蝙蝠女かね・・・?」
「せめて吸血鬼カーミラにしてほしいっすね・・・まあ、あたしの血は1滴たりとて飲ませませんが」
屋上の入口へと向かう葉月ーさあ、長い狩りの時間の始まりだ。
葉月は獲物を求めて夜の町へと繰り出したー。
紗耶香が驚愕を隠し切れずに叫ぶ。
「そうっす・・・まあ、例によって和泉奏多も未成年なんで、名前や顔写真は、本来非公開のはずなんすが・・・このご時世なので、めでたく流出してしまいました~!・・・んがっ!!」
紗耶香が葉月の胸倉を掴んだ。
「・・・冗談じゃないぞ、なんであんな奴にあたしが殺されたんだ!?・・・あんな、弱っちい奴に」
和泉奏多は、和泉鏡香の双子の弟である。二卵性なので、双子と言えども似てはいないが、大変仲睦まじく、ほとんどの場合、奏多は姉にべったりとしていた。
姉の和泉鏡香は、道場に通う門下生の中でも実力はトップクラスで、紗耶香にさえ迫ることもしばしばあった。さすがに妹弟子に負けるわけにもいかず、とりあえず試合では全勝してはいるものの、毎回冷や汗をかかされていたのを覚えている。
それに対し、和泉奏多はひょろひょろのもやしっ子で、ほとんどの試合で負けてばかりいた。
仲はいいのに、基本的に全く似ていない双子の姉弟である。
「あたしに聞かれても困るっすよぉぉ~先輩、苦しいんでそろそろ離してください」
胸倉を掴まれたまま、もがく葉月。少し冷静さを取り戻した紗耶香が彼女を解放する。
「ふう」
「あんな奴に殺されたってのか・・・」
まだ納得できぬといった様子で、ぶつぶつと何事か呟く紗耶香。
「まあ、事件を扱ったニュース番組では、先輩が二人を首チョンパした後、たまたまその後に現場を訪れて、姉を殺されたのを見てしまった和泉奏多が、先輩を斬りつけたらしいっす・・・その後、先輩が死亡した後に、和泉奏多も自殺・・・なんと、割腹自殺だったらしいっすね」
「割腹自殺・・・あんな臆病な奴がか?」
生前の和泉奏多をよく知る紗耶香にとって、それも信じられないことだった。
「ニュース報道ではそういうことになってるっすね」
「姉貴の仇討ちか・・・そして、あたしを殺して自害・・・あいつに負けたのはさすがに信じられないから、多分あたしの不意を突いて斬りつけたってところだろうね」
「ちなみに、この和泉奏多クンも美形だったので、イケメン剣士、姉の仇を討った後に見事に腹を掻っ捌いて自害・・・と、BL系支持者の連中やなぜか新選組の同人誌なんかのネタになってますね。それで、男も女も大盛り上がりと」
「・・・馬鹿どもの話なんてどうでもいい」
確かに、SNS上ではネタにされそうな話ではある。いや、実際にネタにされている。
最初に首チョンパされた2人の被害者は美人、やった紗耶香も美人、そして、姉の仇を討って自殺した奏多は美少年・・・同人誌のネタ以前に、確かに話題性には事欠かない事件だろう。
「ちなみに先輩、根本的なことを訊いてもいいっすかね?」
興味津々といった顔つきで、葉月が尋ねてきた。
「何だよ?」
「どうして先輩はお二人を首チョンパしたんすか?」
「・・・お前には言っても理解できんよ」
「ええ、教えてくださいよぉ~先輩、テレビやネットじゃいろんなコメンテーターやお偉いさん方が憶測交じりの解説ばかりしてて、結局なんで殺したのか、はっきりしたことは何も明らかになってないんすよぉ~やっぱり、やった本人から訊くのが一番確実じゃないすかぁ」
今度は葉月の方が紗耶香に引っ付いてくる。
「ええい、鬱陶しい・・・離れろ!!」
「ちぇー」
不服そうに唇を尖らせる葉月のことはほっといて、紗耶香は葉月の説明をもとに、何とか記憶を手繰り寄せようとする。だが、相変わらず、思い出そうとすればするほど、頭に霧がかかったような感覚に陥るだけだった。
「・・・駄目だな、さすがに記憶は戻らないか」
「まあ、人から話を聞いただけじゃあ、さすがに記憶のロックは解けないっしょ。やつらにとってもあたしらにとっても、思い出さない方が都合がいいってことっすよ、先輩」
「お前なんか、むしろ思い出しても大したことなさそうな記憶のような気がするけどね」
「うう、先輩、ひどいっす」
ひどいとは全く感じていないような口ぶりで、よよよ・・・泣きまねをし始める葉月のことは、とりあえず放っておくことにする。
「葉月、お前そろそろ狩りに行かないとやばいんじゃないか」
話し込んでいて意識していなかったが、既に日は沈み夜の帳が降り始めている。
「夜行性のお前さんに合う獲物なら蝙蝠女かね・・・?」
「せめて吸血鬼カーミラにしてほしいっすね・・・まあ、あたしの血は1滴たりとて飲ませませんが」
屋上の入口へと向かう葉月ーさあ、長い狩りの時間の始まりだ。
葉月は獲物を求めて夜の町へと繰り出したー。
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