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第1章 開幕
第16話 晒しな日記・洋子と美奈
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「美奈、あたしは痛いのとか苦しいのとか苦手だからさ・・・なるべくなら一発で頼むよ」
洋子が自虐的な笑みを浮かべながら、そのうなじを美奈へと向ける。
美奈は、右手に構えたチャクラムを洋子の首筋にあてがいながら、
「洋子・・・ごめん」
洋子の首を刎ねるべく、振り上げる。
そんな美奈に対し、洋子は最後、どんな言葉を贈るべきか迷っていた。
ーー頑張れーー
いや、これでは、美奈に対してこれからも殺戮の道を歩めと言っているようなものだろう。戦いを勝ち進めれば進めるほど、彼女の手は血で汚れていく。そんな美奈の姿を想像するのは心苦しくあり、とてもではないがこれは贈る言葉にはならなかった。
かといって、美奈が誰かに首を刎ねられるのを良しとはできない。それもやはり考えたくもなかった。
「ありがとう」
結局、こんな月並みな言葉しか出てこない自分を情けなく思った。だが、これくらいしか、美奈に送る言葉は思いつかなかった。
「うわあぁぁぁ!!」
美奈が、そのチャクラムを洋子の首に振り下ろしたー。
ーー
戦いの最中も、終わった後も、洋子は考えていたことがある。この戦いの参加者の末路だ。
優勝者は、本人が「死亡していた」事実を取り消し、元の生活に戻れるー。
しかし、そこは本当に、かつてのような元通りの生活ではありえなかった。
無数の殺戮の果てに勝利をつかみ、血にまみれた手で、弟たちの頭を撫でられるのか。人を殺し続けてもなお、自分はあの優しい家族の中で、「人の道」を歩み続けていられるだろうかー。
絶対無理だー。
結局、元に戻る術など、最初からなかったのだ。この大会に参加する前ーつまりは一度「死んだ」段階で、もう彼女に居場所はなくなっていた。
そのことに気が付いた時、彼女の中の闘気が揺らいだ。おそらくは、それが今回の戦いの敗因の一部ではあるのだろう。
だが、そのことに悔いはない。唯一心残りがあるとすれば、美奈に対して辛い役目を押しつけることになってしまったくらいだろうか。
ーごめん、美奈・・・そして、ありがとうー
美奈のチャクラムが、洋子の首を切り裂く。その刃が彼女の首を切断した直後、ほんの一瞬だけ目を見開いた洋子だったが、その後、石畳の上に落ちた彼女の首の瞳には、もはや生命の輝きは宿ってはいなかったー。
その表情は「納得」であった。
「勝利者は速やかに勝利宣言を行ってください」
ジャッジの無機質な音声が辺りに木霊する。たいして美奈は、口元を抑えてその場にうずくまる。
胃の内容物が逆流しそうになるが、かろうじて抑え、かつては洋子だった骸を見やった。
首を失い、その分行き場を失った鮮血が、洋子の胴体から吹き上げ、まるで天へと届けと言わんばかりに蒼穹の空へ向かって赤く染め上げる。その返り血が、美奈の制服にも付着し、鉄分を含んだ匂いが辺りに充満する。洋子の胴体が横倒しになり、しばらく痙攣していたが、ついに動かなくなった。
吐きそうになるが、それを何とか抑え込むー自分の吐瀉物で、洋子の死を汚したくはなかった。
「洋子・・・洋子」
洋子の首を見つめる。洋子の瞳にはもはや命の輝きはなく、こちらを覗き込む美奈が映るだけだ。半開きの口が、何かを伝えようとしていたのだろうか・・・だが、それはもはや永遠にわからないのだ。
大会運営側により、参加者全員は死後その遺体が腐敗することがないように特殊な措置が施されている。おそらく、洋子はたとえ魂をなくしたとしても、このままその美しい面差しを保ち続けるのだろう。
戦いに勝てばこうなることはわかっていた。だが、洋子との戦いが楽しいと感じていた自分がいた。
なぜ自分は、あれほどの高揚感に包まれていたのか。なぜ自分は、迫っていた現実から目を背けていられたのか。
頭を振り、洋子の名前を呼びながら、彼女の首に手を伸ばす。
もはや、洋子が美奈の名を呼ぶことはないー永遠に。
「勝利者は速やかに勝利宣言を行ってください」
ジャッジの無機質な音声が、再び響き渡る。それを憎しみのこもった眼差しで一瞬睨みつつも、美奈は洋子の首を両手で愛おし気に抱えた。
「洋子、ごめんね・・・」
本当は、目や口を閉じてやりたかったが、大会ルールにつき、それはできない。洋子としばしの間見つめ合い、そしてー美奈はその首をそのまま高く掲げた。
「勝利者、川村美奈」
ーー今回の戦績ーー
東第一高校2年 川村美奈 〇 ー × 天童高校2年 荒垣洋子
荒垣洋子-享年16歳
洋子が自虐的な笑みを浮かべながら、そのうなじを美奈へと向ける。
美奈は、右手に構えたチャクラムを洋子の首筋にあてがいながら、
「洋子・・・ごめん」
洋子の首を刎ねるべく、振り上げる。
そんな美奈に対し、洋子は最後、どんな言葉を贈るべきか迷っていた。
ーー頑張れーー
いや、これでは、美奈に対してこれからも殺戮の道を歩めと言っているようなものだろう。戦いを勝ち進めれば進めるほど、彼女の手は血で汚れていく。そんな美奈の姿を想像するのは心苦しくあり、とてもではないがこれは贈る言葉にはならなかった。
かといって、美奈が誰かに首を刎ねられるのを良しとはできない。それもやはり考えたくもなかった。
「ありがとう」
結局、こんな月並みな言葉しか出てこない自分を情けなく思った。だが、これくらいしか、美奈に送る言葉は思いつかなかった。
「うわあぁぁぁ!!」
美奈が、そのチャクラムを洋子の首に振り下ろしたー。
ーー
戦いの最中も、終わった後も、洋子は考えていたことがある。この戦いの参加者の末路だ。
優勝者は、本人が「死亡していた」事実を取り消し、元の生活に戻れるー。
しかし、そこは本当に、かつてのような元通りの生活ではありえなかった。
無数の殺戮の果てに勝利をつかみ、血にまみれた手で、弟たちの頭を撫でられるのか。人を殺し続けてもなお、自分はあの優しい家族の中で、「人の道」を歩み続けていられるだろうかー。
絶対無理だー。
結局、元に戻る術など、最初からなかったのだ。この大会に参加する前ーつまりは一度「死んだ」段階で、もう彼女に居場所はなくなっていた。
そのことに気が付いた時、彼女の中の闘気が揺らいだ。おそらくは、それが今回の戦いの敗因の一部ではあるのだろう。
だが、そのことに悔いはない。唯一心残りがあるとすれば、美奈に対して辛い役目を押しつけることになってしまったくらいだろうか。
ーごめん、美奈・・・そして、ありがとうー
美奈のチャクラムが、洋子の首を切り裂く。その刃が彼女の首を切断した直後、ほんの一瞬だけ目を見開いた洋子だったが、その後、石畳の上に落ちた彼女の首の瞳には、もはや生命の輝きは宿ってはいなかったー。
その表情は「納得」であった。
「勝利者は速やかに勝利宣言を行ってください」
ジャッジの無機質な音声が辺りに木霊する。たいして美奈は、口元を抑えてその場にうずくまる。
胃の内容物が逆流しそうになるが、かろうじて抑え、かつては洋子だった骸を見やった。
首を失い、その分行き場を失った鮮血が、洋子の胴体から吹き上げ、まるで天へと届けと言わんばかりに蒼穹の空へ向かって赤く染め上げる。その返り血が、美奈の制服にも付着し、鉄分を含んだ匂いが辺りに充満する。洋子の胴体が横倒しになり、しばらく痙攣していたが、ついに動かなくなった。
吐きそうになるが、それを何とか抑え込むー自分の吐瀉物で、洋子の死を汚したくはなかった。
「洋子・・・洋子」
洋子の首を見つめる。洋子の瞳にはもはや命の輝きはなく、こちらを覗き込む美奈が映るだけだ。半開きの口が、何かを伝えようとしていたのだろうか・・・だが、それはもはや永遠にわからないのだ。
大会運営側により、参加者全員は死後その遺体が腐敗することがないように特殊な措置が施されている。おそらく、洋子はたとえ魂をなくしたとしても、このままその美しい面差しを保ち続けるのだろう。
戦いに勝てばこうなることはわかっていた。だが、洋子との戦いが楽しいと感じていた自分がいた。
なぜ自分は、あれほどの高揚感に包まれていたのか。なぜ自分は、迫っていた現実から目を背けていられたのか。
頭を振り、洋子の名前を呼びながら、彼女の首に手を伸ばす。
もはや、洋子が美奈の名を呼ぶことはないー永遠に。
「勝利者は速やかに勝利宣言を行ってください」
ジャッジの無機質な音声が、再び響き渡る。それを憎しみのこもった眼差しで一瞬睨みつつも、美奈は洋子の首を両手で愛おし気に抱えた。
「洋子、ごめんね・・・」
本当は、目や口を閉じてやりたかったが、大会ルールにつき、それはできない。洋子としばしの間見つめ合い、そしてー美奈はその首をそのまま高く掲げた。
「勝利者、川村美奈」
ーー今回の戦績ーー
東第一高校2年 川村美奈 〇 ー × 天童高校2年 荒垣洋子
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