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第1章 開幕
第6話 神社にて・・・
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「まさか、こんなところに神社なんてあるとは思わなかったわ・・・」
大きな鳥居をくぐりながら、おもむろに周囲を見渡す美奈。
「あたしは、気が付いたらここにいたんだ」
「・・・?あんた、まさか、ここまで来たときの記憶がないの?」
美奈が、洋子の言葉に振り返る。そして、
「あたしも、この近辺にいつの間にか立っていたのよね。他に誰もいなくて、仕方なしに歩いていたら、道でアンタと出くわした」
「何だ、美奈もここまで来た時の記憶がなかったのか」
どうやら、美奈も洋子も境遇は同じらしい。もしかしたら、今はまだ見ぬ他の参加者たちも同じなのかもしれない。
「それにしても・・・神社か」
「あたしは今年の初もうでに行ったきりだなあ。弟たちがうるさくてさ・・・」
「あら、荒垣はお姉さんなんだ?」
生前の家族のことを語り始める洋子に、興味を示す美奈。
「まあ、3人の弟がいてね・・・どいつも手のかかるやつだったけど、やっぱり可愛いんだよな・・・」
とはいえ、その家族の中にはもはや自分がいない。既に「死亡」している自分は、もう家族に会いに行くことさえできないのだろうか。
この大会での優勝者には無事に生き延びる権利が与えられるという話を聞いたが、それは、かつての暮らしに戻れることを果たして意味しているのかー?
そもそも、殺戮の果てにかつての平凡な日常を取り戻したとして、それは果たして今の自分が望むものなのだろうか・・・?
相手の首を刎ね、その返り血を多量に浴び、血まみれの手で、弟たちの頭を撫でてあげられるのか・・・?
それは、今の自分には答えのわからないものだった。
これ以上は考えないようにする。そこで、美奈に話を振ることにした。
「そう言う美奈の方は?ご家族とかは?」
美奈は、軽く頭を振ると、
「あたしは兄貴が一人いたな・・・年は8つ離れてるし、それほど一緒に生活したわけでもないから、あまり兄妹って感じはなかったんだよね」
「ふうん、そうか」
これから、戦うことになるはずの相手だというのに、なぜか二人は仲のいい友達であるかのように、お互いのことを語り合った。
「ああ、あたしのことは荒垣・・・じゃなくて、洋子って名前で呼んでよ」
「・・・?」
「なんていうかさ、アラガキって、なんかワルガキとかクソガキとかと似てて語感が悪いっていうか・・・自分でもあまり好きじゃないんだよね、この苗字は」
「なるほど」
美奈がふっと笑う。
「じゃあ、洋子って、これからは呼ぶから」
「そうしてくれ」
二人は、鳥居をくぐり御社殿を目指して参道を歩いていく。途中、美奈が参道の中央を歩きそうになったが、洋子に併せて脇を歩くことになった。
参道の中央は神の通り道ー人はその道を邪魔しないように脇を歩くべきだった。
御社殿の前にたどり着く二人。二人の間を涼やかな風が流れていく。この清涼な空気も、やがてどちらかの血で汚すことになるー。
「ここなら、誰にも邪魔はされないか」
戦うためのスペースもある程度は確保できる。とはいえ・・・。
「さすがにこんなところでやり合うのは気がひけるなぁ」
「まあ、でも近場でいったら結局ここしかないよ。近くは田んぼばかりで、道路は狭いし、泥だらけで勝負する気にはなれないしな」
鳥居をくぐる前に改めて周囲は確認しているが、結局ここしか戦えるような場所がなかったのだ。
「美奈・・・最後に確認するけど、あたしとここで戦うーそれでいいんだよね」
洋子の強い視線を受け、美奈の方も力強く頷いた。
「出会ったばかりで申し訳ないけど、あたしはアンタとやりたい。その気持ちに偽りはないよ」
「・・・わかった」
洋子と美奈がお互いの背中に手をまわした。顔を近づけ、瞳を閉じる。お互いの唇に、柔らかな感触が伝わる。
「・・・んん」
洋子も美奈も、誰かと接吻するのは初めてだ。ましてやそれが同性同士でやることになるとは夢にも思っていなかった。
誰に見られているというわけでもないのに、この行為がこんなにも恥ずかしく、そして愛おしく思えるとはー。
「・・・」
どちらからというわけでもなく、唇を離す。
「・・・あれ?」
洋子が異変に気が付く。
「擬体を纏えない?」
本大会では、「性行為」によって擬体を纏い、戦闘行為を行うことになるはずだがー。
「もしかして、「これだけじゃ足りない」んじゃないの?」
頬を紅潮させながら、美奈が視線を恥ずかし気に下に向けていた。その仕草がいじらしく、思わず息を呑んでしまう洋子。尤もその洋子自身も、唇を抑えつつ、美奈から目を反らしている。視線は空を泳いでいた。
「・・・そういえば、大会運営側の説明では、「接吻などの粘膜接触は最低限必要」と言ってたっけ?つまり・・・」
「そう、これだけじゃ足りないってことよ」
擬体を纏うには、それなりの性的な高ぶりが必要だと、確か説明されていた気がする。つまりは、全くの初対面の相手に、体全部をさらけ出すくらいの性行為が必要となるのではなかろうかー。
「・・・ここで、裸で愛し合えってこと・・・?」
「つまりは、そう言うことになるってわけだよね」
自分たちで出した結論に、二人とも赤面して黙り込んでしまう。近くには誰もいなさそうではあるが、それでもこんな屋外で裸で性行為をするなんて、とてもではないが恥ずかしくて耐えられない。
「・・・いや、他の誰かに見られる恐れがない場所なら、あるぞ」
「・・・え?」
洋子はおもむろに近くの御社殿を指さした。
「この中であれば、外からは見られないはずだ、多分」
御社殿は、その構造上、中から外の状態を確認することができても、外からは中の様子をうかがい知ることはできない。つまりは、万が一に誰かがこの近辺にいたとしても、この中での秘め事であれば見られる恐れはないということだ。
大きな鳥居をくぐりながら、おもむろに周囲を見渡す美奈。
「あたしは、気が付いたらここにいたんだ」
「・・・?あんた、まさか、ここまで来たときの記憶がないの?」
美奈が、洋子の言葉に振り返る。そして、
「あたしも、この近辺にいつの間にか立っていたのよね。他に誰もいなくて、仕方なしに歩いていたら、道でアンタと出くわした」
「何だ、美奈もここまで来た時の記憶がなかったのか」
どうやら、美奈も洋子も境遇は同じらしい。もしかしたら、今はまだ見ぬ他の参加者たちも同じなのかもしれない。
「それにしても・・・神社か」
「あたしは今年の初もうでに行ったきりだなあ。弟たちがうるさくてさ・・・」
「あら、荒垣はお姉さんなんだ?」
生前の家族のことを語り始める洋子に、興味を示す美奈。
「まあ、3人の弟がいてね・・・どいつも手のかかるやつだったけど、やっぱり可愛いんだよな・・・」
とはいえ、その家族の中にはもはや自分がいない。既に「死亡」している自分は、もう家族に会いに行くことさえできないのだろうか。
この大会での優勝者には無事に生き延びる権利が与えられるという話を聞いたが、それは、かつての暮らしに戻れることを果たして意味しているのかー?
そもそも、殺戮の果てにかつての平凡な日常を取り戻したとして、それは果たして今の自分が望むものなのだろうか・・・?
相手の首を刎ね、その返り血を多量に浴び、血まみれの手で、弟たちの頭を撫でてあげられるのか・・・?
それは、今の自分には答えのわからないものだった。
これ以上は考えないようにする。そこで、美奈に話を振ることにした。
「そう言う美奈の方は?ご家族とかは?」
美奈は、軽く頭を振ると、
「あたしは兄貴が一人いたな・・・年は8つ離れてるし、それほど一緒に生活したわけでもないから、あまり兄妹って感じはなかったんだよね」
「ふうん、そうか」
これから、戦うことになるはずの相手だというのに、なぜか二人は仲のいい友達であるかのように、お互いのことを語り合った。
「ああ、あたしのことは荒垣・・・じゃなくて、洋子って名前で呼んでよ」
「・・・?」
「なんていうかさ、アラガキって、なんかワルガキとかクソガキとかと似てて語感が悪いっていうか・・・自分でもあまり好きじゃないんだよね、この苗字は」
「なるほど」
美奈がふっと笑う。
「じゃあ、洋子って、これからは呼ぶから」
「そうしてくれ」
二人は、鳥居をくぐり御社殿を目指して参道を歩いていく。途中、美奈が参道の中央を歩きそうになったが、洋子に併せて脇を歩くことになった。
参道の中央は神の通り道ー人はその道を邪魔しないように脇を歩くべきだった。
御社殿の前にたどり着く二人。二人の間を涼やかな風が流れていく。この清涼な空気も、やがてどちらかの血で汚すことになるー。
「ここなら、誰にも邪魔はされないか」
戦うためのスペースもある程度は確保できる。とはいえ・・・。
「さすがにこんなところでやり合うのは気がひけるなぁ」
「まあ、でも近場でいったら結局ここしかないよ。近くは田んぼばかりで、道路は狭いし、泥だらけで勝負する気にはなれないしな」
鳥居をくぐる前に改めて周囲は確認しているが、結局ここしか戦えるような場所がなかったのだ。
「美奈・・・最後に確認するけど、あたしとここで戦うーそれでいいんだよね」
洋子の強い視線を受け、美奈の方も力強く頷いた。
「出会ったばかりで申し訳ないけど、あたしはアンタとやりたい。その気持ちに偽りはないよ」
「・・・わかった」
洋子と美奈がお互いの背中に手をまわした。顔を近づけ、瞳を閉じる。お互いの唇に、柔らかな感触が伝わる。
「・・・んん」
洋子も美奈も、誰かと接吻するのは初めてだ。ましてやそれが同性同士でやることになるとは夢にも思っていなかった。
誰に見られているというわけでもないのに、この行為がこんなにも恥ずかしく、そして愛おしく思えるとはー。
「・・・」
どちらからというわけでもなく、唇を離す。
「・・・あれ?」
洋子が異変に気が付く。
「擬体を纏えない?」
本大会では、「性行為」によって擬体を纏い、戦闘行為を行うことになるはずだがー。
「もしかして、「これだけじゃ足りない」んじゃないの?」
頬を紅潮させながら、美奈が視線を恥ずかし気に下に向けていた。その仕草がいじらしく、思わず息を呑んでしまう洋子。尤もその洋子自身も、唇を抑えつつ、美奈から目を反らしている。視線は空を泳いでいた。
「・・・そういえば、大会運営側の説明では、「接吻などの粘膜接触は最低限必要」と言ってたっけ?つまり・・・」
「そう、これだけじゃ足りないってことよ」
擬体を纏うには、それなりの性的な高ぶりが必要だと、確か説明されていた気がする。つまりは、全くの初対面の相手に、体全部をさらけ出すくらいの性行為が必要となるのではなかろうかー。
「・・・ここで、裸で愛し合えってこと・・・?」
「つまりは、そう言うことになるってわけだよね」
自分たちで出した結論に、二人とも赤面して黙り込んでしまう。近くには誰もいなさそうではあるが、それでもこんな屋外で裸で性行為をするなんて、とてもではないが恥ずかしくて耐えられない。
「・・・いや、他の誰かに見られる恐れがない場所なら、あるぞ」
「・・・え?」
洋子はおもむろに近くの御社殿を指さした。
「この中であれば、外からは見られないはずだ、多分」
御社殿は、その構造上、中から外の状態を確認することができても、外からは中の様子をうかがい知ることはできない。つまりは、万が一に誰かがこの近辺にいたとしても、この中での秘め事であれば見られる恐れはないということだ。
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