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第1章 開幕

第5話 戦いの始まり

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 突如として、自分が神社の前に立っていたことに気が付いた一人の少女ー。
「・・・?」
 何が起こったのか、気が付いたら、自分は「ここにいた」のである。先ほどまで、この大会の参加者の一人として、競技会場で説明を聞いていたはずだった。彼女が属しているグループは朱雀であった。
「ここは・・・いったい・・・?」
 誰に問うわけでもなく、思わず口をついて出てしまう疑問。自分はいつのまにここに来たのだろう。不思議な感覚で、まるでここに来るまでの記憶だけが抜け落ちているのではないかとさえ思えてくる。
 自分が今いるのは、御社殿の前だった。つまり、鳥居をくぐって参道を通り、ここまで来たということになるわけだが、その記憶は全くない。むしろ、競技会場から瞬間移動してここまで来たのではないかと錯覚してしまう。
「・・・錯覚・・・?」
 少女が、額を抑えて自らの記憶を念入りに確認し始める。
 錯覚というか、本当に場所を移動した際の記憶がない。グループ分けで朱雀の参加者たちと顔合わせし、それから説明が完全に終わったところで、それぞれのグループの移動を指示されたのだ。そこまでは覚えがあるが・・・。
「・・・なんで、私はここに一人でいるんだ・・・?」
 とにかく、今の状況を確認する必要がある。少女は、目の前の御社殿の周りを歩いて周囲の様子を確認してみた。
 至って普通の神社だろう。ただ、社務所には特に巫女などがいるわけでもなく、無人だった。
 ここにいるのは、自分一人だけなのだろうか・・・?
 それを確認するため、今度は鳥居方面へと足を向けてみる。ちなみに、参道の中央は神の通り道とされている。その少女には直接その知識はなかったものの、なぜか無意識のうちに参道の脇を歩いていた。
「・・・」
 普通の神社と同じくらいの大きさの鳥居ーもっとも、この神社も、見た目は普通の神社なのだがーまでたどり着き、そこに続く道路へと足を運ぶ。その景色は、どう見ても日本の片田舎にある田園風景としか思えなかった。過疎地の田舎道といった印象を受けた。
「ここは・・・?」
 ますますわけがわからない。あのスポーツ競技場のような場所から、なんで一瞬でこんなところに飛ばされてしまったのか(実際に移動時の記憶がないため、「飛ばされた」としか思えなかった)ー。
「まあ、考えてもわからない・・・か」
 溜息交じりに呟き、少女ー荒垣洋子はこれ以上考えるのをやめることにした。
 亜麻色の髪を肩くらいの位置まで伸ばし、首にはヘッドホンをかけている。小顔で小柄、その顔立ちは言うまでもなく端正だった。この大会出場者であることからもわかる通り、なかなかの美少女である。
「まあ、いつの間にかここまで来てました・・・と、無理やり納得するしかなくねって話かな?」
 もともと、煩雑な性格である彼女は、あまり細かいことには気にせず、その場のノリや成り行きで判断してしまうところが多い。だが、こういう場合はむしろその方がいいのかもしれない。下手に混乱して騒ぐよりも、その場の状況にすぐさま適応できる「大雑把さ」こそが、求められている状況だからだ。
 尤も、その「大雑把さ」も良し悪しで、生前にはいつも一緒だったルームメイトにはよく窘められていたものだった。
「あいつは・・・いるわけないか。別に一度死んだわけじゃないだろうし」
 この大会の参加者は、一度「死亡している」者たちばかりだ。洋子のルームメイトは、その時点で対象外だろう。尤も、彼女が死んでいたらわからないが。
「あいつも結構・・・つうか、私よりも可愛いんじゃねってな感じだったからな。まあでも」
 あいつが、こんなわけのわからない大会に出てなくて本当に良かったー。
 そう心の中でつぶやいた時だった。
「・・・あなたも、参加者なの?」
 ふいに、背後から声をかけられた。

ーー

「え?」
 いきなりの声に、驚いて振り向く。まさか、自分以外の参加者が近くにいるとは思いもよらなかった。いや、仮に近くにいたとしても、そう簡単に見つかるとも思っていなかった。
 洋子が振り返った先にいたのは、ツインテールの少女だった。顔立ちも洋子同様整っている。高い鼻梁が、彼女のプライドの高さを示しており、洋子よりも若干目元がキツイ印象を受けるが、洋子と同じくらいの小柄さのためか、勝気さよりも愛らしさの方が際立つ存在だった。
 ツインテールの少女が少しずつ近づいてくる。それに対し、警戒を強める洋子。
 この大会では、他人は最終的には全て「敵」である。殺らなければ殺られて首を取られる。そんな中では、いささかお人好しな性格の洋子でも警戒を示すのは当たり前だ。
「今からそんなに構えないで。いきなり斬りかかったりはしないよ」
 ツインテールの少女が、両手をヒラヒラさせながら近づいてきた。
「私は、東第一高校2年の川村美奈。あんたは?」
 洋子は、警戒心を向けたまま、
「私は、天童高校2年の荒垣洋子」

ーー

「天童高校ー少なくとも、私のいた県にはそういう名前の高校はなかったわね・・・」
「それは私も同じだね・・・東第一高校なんて聞いたこともないよ」
 突然の邂逅だったが、どちらもまるで以前からの親友であるかのような口ぶりで応対していた。目の前にいるのは、もしかしたらこれから「首をかけて戦う敵」になるかもしれないというのに、なぜかそこまでの緊張感が湧かない。
 もちろん、警戒心はあるーが、それよりもまず、相手のことを知りたいという好奇心が勝ったというところだろうかー。
「それ・・・」
「・・・うん?」
 美奈が、洋子が首にかけているヘッドホンを指さす。
「戦う時に邪魔にならない?」
「ああ・・・」
 洋子は、合点がいったようにヘッドホンに手を伸ばす。
「首さえ取られるようなことがなければ邪魔にはならないよ・・・要するに」
 そこで、洋子はにっと口の端を釣り上げた。
「あたしが負けなきゃいいんだから」
 余裕を見せる洋子に対し、
「へえ、あんた、結構自信あるんだね・・・」
 腰に両手をあてがい、これまた挑戦的な笑みを浮かべながら、洋子に相対した。
「まあ、今出会ったばかりだし、いきなりやり合うこともないんじゃないかな?」
「あら、怖気づいたのかしら・・・戦争だって、敵と「出会えば」すぐに撃ち合いよ」
「なら、あんたはここであたしとやるのかい?さっそく」
 洋子は、美奈の方に歩み寄る。それに対し、美奈の方も歩み寄ってきた。
 まるで、お互いが惹かれ合うかのように。
 そしてー。
 お互いを抱擁する。それは、傍から見ていれば、まるで、恋人にでも再会したかのような振舞だった。
 洋子も美奈も頬が紅潮していた。それは、恋人たちが接吻を求めているかのような、甘くそして美しい光景だった。
 しかしー。
「ここではやれないでしょう・・・こんな道の往来で」
「まあ、人が来そうにない場所だけど・・・でも心配なら」
 洋子が、今さっき自分が出てきた神社の方へ目を向けた。
「神社の中ならどう?さっき見てみたけど、誰もいなかったようだし」
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