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咲那と鏡香(第9話)

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「さて・・・とはいえ、確かに定期便が出るまで、まだ時間があるな・・・」

 モリガンのいる浮遊大陸に行くための定期便は午後に出る。着くまでに一夜を船の中で明かす必要もあった。

「確認しておきましょうか・・・あちらに着いた時になすべきことを」

 せっかく時間があるのだ。今までの状況を整理しておいた方がいいだろう。

「そうだな・・・あの低級女神の言葉ではないが、かなりやばい連中があの大陸に集まっているんだろ?冥府だの悠久王国だのと」

「・・・そうですね」

 鏡香は、幼い頃に悠久王国に所属していたこともあり、ある程度彼らのことは把握しているつもりだ。しかし、冥府についてはほとんど知識がない。一般的な知識として、アンデッドの集団ということと、死を超越しているがゆえに通常の手段では彼らを倒すことはできないということくらいしか知らなかった。

「アンデッドなんて・・・なんともまあ、厄介な連中が首を突っ込んできたもんだよな」

 咲那が、いかにも面倒くさそうな顔つきで愚痴をこぼす。通常の手段でやり合える相手なら、咲那は誰であろうとも勝負を挑む。たとえそれが、亜人種型デミヒューマンタイプの害蟲であったとしてもだ。

 しかし、アンデッドとなると話は違ってくる。死という概念を超越している彼らには、通常の攻撃手段は全て無効化されてしまう。あのヴァルキリーなら、死者の魂であるエインヘリヤルを駆使して倒すこともできるだろうが、さすがに先ほど啖呵を切った手前、彼女の手を借りるわけにはいかないし、元から借りるつもりもなかった。

「・・・となれば、教会の連中の聖十字魔法辺りが必要になるな・・・」

「前に、モリガンちゃん達が地下都市で教会の方々と接触したようですが・・・」

 モリガン達が、巨大土竜であるベンジャミンに導かれて地下都市を探索したことについて、咲那も鏡香も大体の内容は窺っている。そこで、ゼクス、イリアという教会関係者と共に、魔物と蟲憑きを相手に共闘したということも聞いていた。晶や早苗、モリガンは、元からゼクス、イリアとは顔見知りだったらしく(ただ、モリガンとイリアの相性は悪かったらしいが)、多少のいざこざはあっても何とか共闘することができたという話だった。

「あいつらみたいな教会関係者があの浮遊大陸にいるのなら、そいつらに協力を仰ぐって手もありだとは思うが・・・」

「教会は、世界中のあちこちに活動範囲を広げていると聞いたことがあります。もしかしたら、既に浮遊大陸に入り込んでいる冥府の手の者達ともう接触している可能性もありますね」

「お互いが天敵同士だからな・・・もしかち合ったら、間違いなくバトってるだろう」

 教会にとって冥府は天敵だった。もちろん、それは冥府の側にも当てはまることだ。

「冥府の方は教会に任せるとしてだ・・・あとは悠久王国の連中だな」

 咲那が悠久王国の名を口にしたとき、鏡香の顔に緊張が走った。

「そう、ですね・・・」

 幼い頃とは言え、古巣には違いない。かつての仲間とやり合うことになるかもしれないーそのことに覚悟を決める鏡香であったー。
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