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咲那と鏡香(第5話)

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「これはこれは・・・またお会いしましたね、咲那さん」

「いい加減、しつこいんだよ、アンタも」

 咲那と鏡香の目の前に、翼を広げたヴァルキリーが降り立ったー。

「何度来ても無駄だぜ・・・アンタに手を貸すつもりなんぞ、これっぽっちもないね」

 うっすらと笑みを浮かべるヴァルキリーを睨みつける咲那。

「やれやれ・・・私も嫌われたものですね」

 言葉とは裏腹に、どこか楽しそうな口ぶりのヴァルキリー。

 そんな咲那とヴァルキリーを交互に見やりながら、鏡香は問いかける。

「これはこれは・・・天上の方が何故こちらに?」

 ヴァルキリーは、表情はそのままに今度は鏡香の方に視線を向けた。

「和泉鏡香さんですね・・・あなたの魂もエインヘリヤルとして、いずれは私と共にあってほしいものですね」

 口調こそ穏やかで丁寧だが、その視線には、まるでこちらを実験動物でも観察するかのような独特のいやらしさが伴っていると感じた。なるほど、これでは咲那がこの女を毛嫌いするのも無理はないと、鏡香は納得した。

「・・・御安心なさい、鏡香さん、咲那さんも・・・今すぐに我がもとへ、ということではありませんから」

 低級とは言え、相手は神族ーもちろん、人間よりもはるかに上位にある存在とは言え、さすがにこの目の前の女神を敬う気にはなれなかった。自然と、表情が強張るのを、鏡香が自覚する。

 そんな2人の敵意ある視線を悠然として受け流しながら、ヴァルキリーは告げた。

「あなた方がこれから向かおうとしている先には、今までにない戦いが待っているでしょう・・・どうです?一時的にではありますが、ここでお互い共同戦線を張りませんか、お二人とも?」

「・・・なんだと」

「・・・どういうつもりかしら」

 咲那と鏡香がほぼ同時にヴァルキリーに問うた。

「簡単なことですよ」

 そう前置きして、ヴァルキリーは理由を説明し始める。

「あの浮遊大陸には、我々神族にとっても放置できない輩が入りこんでおりまして・・・ただ、生者には直接干渉できないのが、我ら神族の弱点でもあります」

「なるほどな・・・自分らでは対処できないから、あたしらに力を貸せってのか」

「一方で、あなた方では倒すことのできない者達も、私とエインヘリヤルであれば倒すことができます」

「・・・お互い、手が出せないであろう相手があの浮遊大陸にいるので、役割分担して戦おうとおっしゃるのですか?」

「そう言うことです」

 ヴァルキリーの言をまとめるなら、ヴァルキリーも咲那たちも、お互いに手を出せない相手があの大陸に入るらしく、ここは一旦共同戦線を張り、相手に対処しようということだがー。
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