テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

黒羽一人旅（第1話）

　モリガンと楓が、メリルとアメリアという女性に姿と名前を変え、ゼルキンス村の民宿「涼風」に宿泊していた頃ー。

　黒羽は、一人だけチーム《ラピュタ》とは別行動をとっていた。どうしても確認しておきたいことがあったためだ。《ラピュタ》の面々には話をつけてある。

「先ほど感じた魔力の蠢動・・・あれは、かなりの使い手のものですね」

　邪術師である黒羽は、魔法の専門家でもある。モリガンが使用した「転送魔法陣」や「位相操作」についても、それらを俊敏に感じ取っていた。

　高度な魔法ゆえ、いくら使い手が優れていようが、隠し切れない痕跡は残る。ただ、それを感じ取れるのも上級の魔法の使い手のみに限られる。

　黒羽は、モリガン達とは逆に、かつて楓のアトリエがあった場所を目指して疾走していた。夜の闇の中、さらに漆黒のローブを纏った黒羽の姿に気が付くものは皆無だった。

「あの森の中で、いったい何が行われていたのでしょうか・・・？」

　それを確認するために、黒羽は今向かっている。あの「転送魔法陣」や「位相操作」の後、何やら凄まじい力のぶつかり合いがあったというのも感じ取っていた。そして、その力は、以前彼女が互角に戦ったあの東方の女剣士ーアサギのものに酷似していた。

　いや、アサギのものに間違いはなかった。

「私との戦いの後、それほど時間が経っていないというのに、すぐまた戦闘ですか・・・大したお方です」

　口の端に、思わず笑みを浮かべつつ、黒羽は好敵手が戦っていたであろう場所を目指して疾走した。

「今は、アサギもその場を離れてしまっているようですが、せめて確認だけはしておかなければ・・・」

　アサギとは、戦いの中で絆が生じていた。もちろん、彼女はまだ自分のことを狙ってはいるだろうが、以前のように一方的に排除すべき相手だという認識は、かなり薄れていたように思う。

「一度は命を奪い合った相手でも、気にはなるものですね・・・」

　そんな自分に苦笑しながら、黒羽はさらに深い闇に覆われた森の入口へと向かったー。