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続・モリガン一人旅(第31話)

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 夜の綿花畑というのは、幻想的である一方、言い表せぬ怖さもあるー。

 風に揺られる綿花は、美しいと言えば美しいが、どことなくはかなさを感じさせるものだった。それが、まるでこの村の行く末を示しているかの如くー。

 ゼルキンス村の中に入り、辺りを見回してみるが、どうやら目的としている民宿「涼風」は、ここから歩いても10分程度の場所にあるようだった。村に入る前に、「涼風」の連絡番号を調べ、生体端末を通して今から宿泊できるかどうかを確認しておいた。「涼風」側も、久しぶりの客に喜びを隠せない様子で応じてくれた。

「まあ、しばらくの間は滞在することになりそうじゃからのう」

「とはいっても、そう何日もはさすがに泊まれないだろ?」

 いくらアサギやガレスから身を隠すためとは言え、そうそう何日も同じ場所にはいられない。それに、手持ちの問題もある。

「・・・まあ、わしとてこんな退屈極まりない村に何日も居座るつもりもないんじゃが・・・しかし、こればっかりは、わしらだけの問題でもないからのう・・・あやつらのことじゃ、そう簡単には諦めんじゃろうしな」

 モリガンは、アサギを追跡させていた使い魔からの映像を再度見てみた。アサギは、今は彼女の飛空鎧紫の牙ズーツァオリャのコックピットに降り、水無杏里たちの町の付近まで来ている。どうやら、空から飛空鎧が降りられるような場所を探っているみたいだった。

「どうやら、アサギの方は、杏里の町へ着いたようじゃな・・・多分、カイトの飛空鎧が回収されている工場を探しに行くつもりじゃろう」

「カイトの飛空鎧が牽引されていった場所か・・・」

「まあ、今更カイトの飛空鎧を確認したところで、本人がいない以上は何もできることはないじゃろうが・・・あやつも一度はきちんと確認しておきたいというのが本音なんじゃろうな」

 使い魔を通じ、空の戦いを見ていたモリガンは、カイトの先輩たちをいともたやすく破った彼女の戦いぶりを美しいとさえ思った。もちろん、それをカイトの前でいうつもりはないが、ほんの一瞬で2機を葬り去ったあの戦いぶりは、見事というほかなかった。

 しかしーだからこそ、その彼女の技量をもってしても葬り去ることのできなかったカイトもまた凄腕なのではないかー飛空鎧の戦い方に関してはほとんど知識がない彼女でもそう思えた。

「・・・いずれ、カイトとアサギは戦うことになりそうじゃな・・・」

 わかり切っていることではある。カイトにとって、アサギは先輩たちの仇だ。アサギにとっては、自分が仕留めきれなかった相手だ。必ず衝突する日が来る。

 だが、それまではカイトを大樹に匿っておく必要がある。今は、戦うにはまだ、早いー。

「さて、そろそろ民宿に着くぞ、楓」

 綿花畑を貫くかのような細い道を通った先に、民家が見えてきた。目的地の「涼風」だったー。

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