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続・モリガン一人旅(第30話)

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 ゼルキンス村ー。

 アサギが邪術師黒羽と戦った場所にほど近いところにある、綿花畑が有名な村。しかし、若者の村からの流出が相次ぎ、過疎地に数えられる場所の一つでもあった。

「まあ、ここなら見つかるようなこともなかろうて」

「しかし、それにしても綿花畑だけで本当に何にもない村だよな、ここは」

 楓が、辺りを見回してため息をついた。

「いるのは老人ばかりか・・・」

 過疎地に数えられる村である以上は、その住人のほとんどが老人だらけなのも仕方のないことである。

「しかし、村というだけでまだましじゃぞ・・・お主なんて、森の中の一軒家に暮らしておったのじゃしのう」

 モリガンにずばりと指摘され、うーと唸ることしかできない楓。

「じゃが、だからこそ、お主にはここが合っているのではないか、とも思うんじゃよ。人は少ないし、お主のような人嫌いの偏屈者が暮らすにはもってこいの場所ではないかのう?」

「・・・偏屈者は余計だぞ、モリガン」

 ニヒヒ・・・と笑いを噛みしめるモリガンを横目に、改めてゼルキンス村を見回してみる。

「なあ、モリガン・・・ここに泊まる場所はあるのか?」

 それが一番の問題だ。外部から人が滅多に来ない場所であるだけに、宿泊できる施設があるのかどうか・・・。

「ああ、それなら・・・」

 モリガンが、生体端末を起動させ、ゼルキンス村の検索情報を空間に投影した。

「一応、民宿はあるようじゃ・・・ええと、名前は・・・民宿「涼風」か。なかなか風流のわかる名前ではないかのう」

「へえ・・・民宿なんてあるのか」

「まあ、いくら人が来ないとは言っても、外部から全く来ないというわけでもないからのう・・・例えば、村に来る役人とか、そういう連中が一時的に滞在するためにあるようじゃ・・・と言っても、年に数回くらいの話なんじゃろうが」

 モリガンの説明に、楓がうなずきながら、

「まあ、金さえ払えば少しの間は何とかなるか・・・これで、あのアサギとかガレスとかいう連中が諦めるまで待つってわけか」

 アサギもガレスも、正面切ってやり合うには分が悪い相手でもある。アサギは、北方の町ー水無杏里の暮らしていた町に向かったようだが、ガレスの方の動向はいまいちわからない。まさか、こちらの変装がばれるということはないだろうが、それでもモリガンの「位相操作」を見破り、無効化した点を考えれば、決して楽観できるような状況にはない。

 可能な限り、あまり目立たない場所で待機する必要がありそうだった。

「この変装魔法なら、維持するのはたやすいことじゃ・・・あとは、わしらがおとなしくできる場所の確保ーというわけじゃよ」

 モリガンが左目を軽く瞑り、悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。それを見て、楓は、

ーこいつ、他になんか企んでないか?ー

と、疑いの目を向けたのであったー。
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