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咲那・全裸の逃避行(第20話)

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 場面は変わって、再び飛行船の中ー。

 鏡香の乗った飛行船も、そろそろ浮遊島に到着する頃だった。ただ、ここからさらに、咲那が待っている冬小島に行くには別な飛空艇に乗らねばならない。そして、それは明日の便になるのだ。

「そろそろ、降りる準備をしないといけませんね・・・」

 予定では、あと数分くらいで到着する。ちょうどそのアナウンスも流れ始めた頃合だ。

「咲那さん、今日は大丈夫だったかしら・・・降りたら、後で連絡してみないと」

 モリガンの方も心配だが、今はやはり咲那だ。咲那のことだから、大丈夫だとは思うが、一応確認はしておいた方がいいだろう。

「それにしても、久しぶりの空の旅で、少し疲れたわね・・・」

 双子の弟である奏多なら、仕事の関係上空の世界へ行くことも多いのだが、鏡香自身はあまり大樹から離れることはない。去年以来だろうか、飛空船に乗るのは・・・。

「でも、たまに空の世界を見るのも悪くはないわね」

 だからこそ、たまに見る天空世界というのも新鮮な気持ちにさせられる。もっとも、今は咲那が大変な時なので、ゆっくりと観光旅行というわけにもいかないのだが。

「咲那さんに服を届けた後は、モリガンちゃんのいる惑星Σ-11にも行かなきゃ・・・」

 モリガンとは相変わらず連絡を取ることができていない・・・咲那と合流次第向かうことになりそうだ。

 この空域から惑星Σ-11を目指すとなると、さらに1日くらいかかることになる。

 ・・・そろそろ到着時刻だ。鏡香は窓の外の光景に目をやる。

 時刻は夕刻ーおそらく、荒廃した大地を移動し続ける甲虫都市から見れば、太陽が地平線に沈む頃で、周囲が鮮やかな夕焼けに染まっている頃だろうが、この飛空船は雲海の上を飛んでおり、既に太陽は雲海の下に隠れてしまい、窓から空を見渡せば、漆黒の闇が迫りつつある群青色の光景が広がっている。確か、咲那のいる浮遊小島は、この雲海の遥か下になるだろうから、おそらくそこはまだ夕焼け色に染まっているはずだ。高低差によって見える光景が違うというのも、天空世界ならではの特徴と言えるだろう。

 ・・・到着を告げるアナウンスが入る。とりあえず、今日は近くの浮遊島で宿をとり、明日の朝の便で咲那の待つ浮遊小島へと向かうことになるー。

 この辺りの空域にある島は、天空世界の中では田舎の方だろう。少なくとも、モリガンが向かった惑星Σ-11の浮遊大陸に比べれば、その規模はかなり小さい。点々と、まるで小さな島が飛び地のように点在している。その光景は、離れてみれば幻想的なものに映る。

「・・・今度、奏多君と一緒に空の世界をめぐってみてもいいかもしれないわね・・・」

 久しぶりの空の旅で、これまた仕事で天空世界を訪れている双子の弟のことを想いながら、思わず独り言ちる鏡香であったー。
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