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カイトと杏里、大樹へ(第4話)

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 その後、モリガンの使い魔である執事君グレートが紅茶を持ってきて二人に振舞った。

「さぞ、お疲れでしょう。我が主より事情は窺っております。しばらくの間、必要な事柄についてはどうか私の方へ」

 主人であるモリガンには似ずに、なんとも執事らしく礼儀正しい使い魔である。まあ、だからこそ、モリガンも安心してこの場を任せていられるのだろうが。

「むむ、鏡香よ・・・お客さんですかニャ?」

 執事君グレートの挨拶が終わったところへ、1匹の猫・・・みたいな、なんとも肥満体で糸目の生物が現れ、和泉鏡香に尋ねていた。

「喋る猫さん・・・?」

 杏里が、小首をかしげながら、目の前に現れた胴長短足の二足歩行猫型生物を見つめる。人間でいえば、腰に当たる箇所に、巾着袋をぶら下げていた。

 尤も、杏里も楓の家で魔法フクロウのホルルと付き合いがあるので、しゃべる猫のような魔法生物がいたとしてもさほど驚くことはなかった。それは、カイトも同様のことだ。

「ああ、こちらは・・・」

 不思議そうに猫?を見つめる二人に対して、鏡香が簡単に紹介しようとする・・・が、その前に当の猫?自体が自己紹介を始めた。

「我輩は、ミケと申しますニャー。みんニャ、我輩ニョことを「ミケさん」と呼んでおりますニャー。お二人にもそう呼んでもらえるとありがたいですニャー」

 腰に巾着袋をぶら下げた猫もどきは「えっへん」と言わんばかりに腰ーに当たる部分に前足ー両手を当ててふんぞり返った。

「ミケさんというのね・・・初めまして。私は水無杏里と言います」

 その愛くるしい(見るものによって評価は異なるものの)見た目に、思わず微笑を浮かべながら、杏里は自己紹介をする。

「僕はカイトだよ・・・よろしく、ミケさん」

 杏里に続き、カイトもミケさんに対して自己紹介した。

「ミケさんは、蟲さんなんですよ」

 鏡香が、近寄ってきたミケさんの頭を軽くナデナデしながら告げる。

 ・・・例の如く、ミケさんが「フフフ・・・」と不敵に笑うが、特に意味は感じられなかった・・・。

「蟲さんなんですか・・・てっきり魔法生物さんなのかと思ってました」

 杏里が少し驚いたように、ミケさんを見つめ直す。彼女は、ミケさんがてっきりホルルと同じ魔法生物だと思っていたのだ。

 蟲ーというと、どうしても害蟲の存在を思い起こさせる。もちろん、こうして「日向荘」で鏡香やモリガンと一緒に暮らしているミケさんが、害蟲であるとは思えないとしてもだ。

「ミケさんは益蟲さんですね・・・うちのチームにはなくてはならない存在なんですよ」

 鏡香がミケさんを抱っこする。ミケさんが再び不敵な笑みを浮かべた。

 見ようによっては、猫型の抱っこちゃん人形を抱きかかえているように見える光景でもあった。

 その微笑ましい光景に、思わず微笑する杏里。その傍らで、「ははは・・・」と所在気なく笑うカイトの姿があったー。
 
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