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アサギと黒羽(第23話)

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 黒羽を今後どうするのかーで、盛り上がっているチーム《ラピュタ》の面々に気が付かれぬように、アサギはその場を後にした。もう、彼らもこちらに関心は無いだろう。唯一、黒羽だけが去り行こうとするアサギに声をかけてきたが、もう戦う意志も余力も残っていないことを告げて、その場を離れた。

 邪術師ー西方では「悪魔憑き」と呼ばれる者どもに対する学術的研究ー。

 まさか、西方の方では既にそのような研究が行われていたとは。

 少なくとも、東方においては、邪術師は滅ぼすべき存在だ。そうしなければ、さらなる災禍と犠牲を生むことになってしまうからだ。それは、アサギ自身が自分の故郷において経験している。二度と、あのような災禍を繰り返してはならないのだ。

 したがって、邪術師に対するその判断は間違っていないはずだ。今まで燎原リンイェンが、そして自分がやってきたことに間違いはないはずーそう信じたかった。

「・・・一旦、紫の牙ズーツァオリャに戻るか」

 今は、とにかく体を休めたかった。あれこれと、考えるのもつらい状態だ。

 どのみち、この付近で体を休める場所など自身の飛空鎧の中くらいしかない。あのゼルキンス村は、今はまだ《ラピュタ》の面々も付近にいる以上は長居はできないだろう。彼らとて、仲間の命を奪おうとした敵が近くにいたとなれば、心穏やかではあるまい。

「しばしの休息の後、この浮遊大陸に墜落したであろう飛空鎧の確認をしないとな・・・」

 この浮遊大陸に降り立つ前、3機の飛空鎧と戦った。うち2機は撃墜したが、残りの1機は完全には仕留められず、戦った位置から考えて、おそらくこの浮遊大陸に落下したものと推測される。

「とはいえ、体力が戻るまでは、結局のところ動くこともままならないのだがな・・・」

 自嘲気味に言いながら、黒羽と戦った丘から離れた場所にある窪地を目指す。窪地の中に自身の飛空鎧を隠してあるため、よほど近くまで接近されない限り、誰かに発見される心配はない。ましてやここは過疎地だ。人の往来などほとんどないだろう。

 いくらかでも体力が戻るまでは、その中でおとなしくしている必要がある。

 体力さえ万全ならすぐの距離を、とぼとぼと一人歩きながら、アサギは、自分の仲間たちに今日のことをどのように報告しようとかと思案を巡らせていたー。

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