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水無杏里の物語(第18話)
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水無杏里ー蟲生みの魔女ー。
彼女がそう呼ばれるに至ったのには、いくつかの過程があった。
本来、杏里が持っていた異能力は治癒能力だけだった。それにより多くの人々を治療してきた彼女は、魔女というよりもむしろ聖女といった方が正しい存在だったはずだ。
だが、彼女はある出来事から、新たなる能力を目覚めさせることになる。それが、彼女が「小人さんたち」と呼称する、超小型機械ーすなわちナノマシンを制御し、支配する能力だった。
もともと、ナノマシンは前文明時代につくられた最先端技術の結晶だった。ただ、前文崩壊後も、ナノマシンだけは残り、人の知らぬところで密かに活動し続けていたのだ。
水無杏里は、あることから、この「小人さんたち」を操ることができる能力を獲得した。最初、彼女は「小人さんたち」を医療活動に活用していた。これで、ケガや病に悩まされる人々を救うことができるー少なくとも、彼女の最初の動機は、人々の救済にあったはずなのだ・・・が。
「前文明時代の遺産に、簡単に手を出してしまった報いが、これか・・・」
世羅姫は、うつろな瞳で自分を見つめ返してくる杏里の頬に手を伸ばしたーその時。
「・・・っつぅ!」
実際に触れたわけでもないはずだが、指先に鋭い痛みが走るー荊だ。いや、荊そのものに触れたわけではないのだが、杏里の傍に近寄ろうとするだけで、どうやら相手に痛みを与えてくるようだった。
「荊自身の意志か・・・」
それは、あたかもあらゆるものから杏里を遠ざけるかのようにーそして、荊自身がその意思でもって杏里を締め上げ続けているかのように。
「・・・誰も近寄らせないが、自らも拘束から逃れることがかなわない・・・か」
指先に赤く血の塊が浮き出たのを確認しながら、世羅姫は独り言つ。
「究極の引きこもり・・・というわけね。蟲生みの魔女と呼ばれたお前も、こうなれば何もできないというわけか」
現実の世界において、水無杏里は光り輝く樹木に、その半身をうずめられている。結局は、この世界での彼女と同じだ。無理やり樹木から引きはがそうとすれば、その樹木からの攻撃を受けてしまう。かといって、意識のない杏里自身は樹木から離れられないーただ、現実の世界での杏里は、冬眠状態に近いので、こちらのように意思疎通を図ることができないというだけのことだ。
「これは・・・まだしばらくかかりそうね」
少なくとも、彼女を拘束するこの荊自身の力を弱めなくては、とてもではないが彼女の復活は到底不可能だ。
蟲生みの魔女の復活ーそれが、世羅姫の望みだった。
「仕方がないわね。もう少しだけ、お前の記憶をのぞかせてもらうとしましょうか」
世羅姫は、薄く微笑むと、再び意識を集中し始めた。
彼女がそう呼ばれるに至ったのには、いくつかの過程があった。
本来、杏里が持っていた異能力は治癒能力だけだった。それにより多くの人々を治療してきた彼女は、魔女というよりもむしろ聖女といった方が正しい存在だったはずだ。
だが、彼女はある出来事から、新たなる能力を目覚めさせることになる。それが、彼女が「小人さんたち」と呼称する、超小型機械ーすなわちナノマシンを制御し、支配する能力だった。
もともと、ナノマシンは前文明時代につくられた最先端技術の結晶だった。ただ、前文崩壊後も、ナノマシンだけは残り、人の知らぬところで密かに活動し続けていたのだ。
水無杏里は、あることから、この「小人さんたち」を操ることができる能力を獲得した。最初、彼女は「小人さんたち」を医療活動に活用していた。これで、ケガや病に悩まされる人々を救うことができるー少なくとも、彼女の最初の動機は、人々の救済にあったはずなのだ・・・が。
「前文明時代の遺産に、簡単に手を出してしまった報いが、これか・・・」
世羅姫は、うつろな瞳で自分を見つめ返してくる杏里の頬に手を伸ばしたーその時。
「・・・っつぅ!」
実際に触れたわけでもないはずだが、指先に鋭い痛みが走るー荊だ。いや、荊そのものに触れたわけではないのだが、杏里の傍に近寄ろうとするだけで、どうやら相手に痛みを与えてくるようだった。
「荊自身の意志か・・・」
それは、あたかもあらゆるものから杏里を遠ざけるかのようにーそして、荊自身がその意思でもって杏里を締め上げ続けているかのように。
「・・・誰も近寄らせないが、自らも拘束から逃れることがかなわない・・・か」
指先に赤く血の塊が浮き出たのを確認しながら、世羅姫は独り言つ。
「究極の引きこもり・・・というわけね。蟲生みの魔女と呼ばれたお前も、こうなれば何もできないというわけか」
現実の世界において、水無杏里は光り輝く樹木に、その半身をうずめられている。結局は、この世界での彼女と同じだ。無理やり樹木から引きはがそうとすれば、その樹木からの攻撃を受けてしまう。かといって、意識のない杏里自身は樹木から離れられないーただ、現実の世界での杏里は、冬眠状態に近いので、こちらのように意思疎通を図ることができないというだけのことだ。
「これは・・・まだしばらくかかりそうね」
少なくとも、彼女を拘束するこの荊自身の力を弱めなくては、とてもではないが彼女の復活は到底不可能だ。
蟲生みの魔女の復活ーそれが、世羅姫の望みだった。
「仕方がないわね。もう少しだけ、お前の記憶をのぞかせてもらうとしましょうか」
世羅姫は、薄く微笑むと、再び意識を集中し始めた。
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