テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

ミケとポン太

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水無杏里の物語(第10話)

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「な、なな、なんですかこの飲み物は!? 癖もないのにさっぱりとした味わいに、甘味料とは違う果実由来の甘味がとても強くて……。それに氷も入ってないのに冷えてるです!? は、初めてこんなに美味しい飲み物を飲みましたですよ……!」

 ファルマーは立ち上がったかと思うと、奏が出したトマトジュースを絶賛して、残りも立ったまま飲み干してしまった。

「ええと……、それは良かったわ。……おかわりあるけどいる?」

「いただくです!」

 一気に飲み干したせいか、唇の上に赤い髭を生やしながらコップを付き出す。奏は受け取りながら、新しくジュースを注いであげる。
 ファルマーは受け取ったコップを、今度は大事そうに抱えながら味わうように飲み出した。

「美味しい……。これはなんなのですか……」

(気に入ってくれたみたい……良かったわ)

 奏はそっと胸を撫で下ろす。こうして見ている分には普通の女の子と変わらないのだが、この子はこの森を抜けてここまで来たことを奏は思い出す。奏が勝手に怖がっているだけの可能性もあるが、この森から聞こえる獣の叫び声や、悲鳴にも似た音を聞いている奏にとってはそれだけでも警戒してしまう。大きな杖を持った不思議な少女を、普通の女の子として対応してもいいのか不安ではあったのだが、この反応を見ただけできっと怖い人ではないとわかる気がする。
 お互いに座り直し、奏も一緒になってジュースを飲む。

 ……。

 ファルマーがジュースに夢中になってしまって肝心の話が全然できてない。かといってこんなに自ら作ったものを絶賛してくれる子の集中を途切れさせてしまうのは、少し忍びなかった。

「……っは! ち、違うです。私は話をしにきたのでした!」

「ブッフォ!」

 急に歯車が噛み合ったように動き出したファルマーを見て、つい口に含んだジュースを吹きかけそうになった奏。少し口からでてしまったのだが、それでもギリギリ堪えることができ、最悪の事態を回避することはできた。

「ごほんごほん……ごめんね? それで、何が聞きたかったんだっけ?」

「はいです……。あの、カナデは何者なのですか?」

 ファルマーは奏の目を見つめながら問いかけてくる。

「私? 至って普通の女の子よ?(異世界から転移してきたことを除けば)」

「そんなわけがないのです。ならどうしてこんなところに住んでるんですか?」

「……こんなところ?」

「ここは【幻惑の森】の中なんですよ? この森には人を狂わせるほど凶悪な魔物も生息している不吉な森なのに、わざわざ家を構える人を普通とは思えないです」
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