210 / 464
水無杏里の物語(第9話)
しおりを挟む
杏里たちを乗せた自動走行車は、そのまま街道を北へと進んでいく。聞いたところによると、杏里たちの街は浮遊大陸の中でも北方に位置しているらしかった。
「町・・・と言っても、そう大きな場所ではなくてね。みんな家族みたいなもんさ」
ははは・・・と笑いながら、杏里の父・壮太が町について語り始めた。
「もっとも、町からさらに北に行けば大きい都市もあるけどね・・・さて、もうすぐだ」
自動走行車は、浮遊大陸の決められたルートを走行する現文明の主要交通手段だ。そして、今カイトたちの車が走っている街道は、左手に湖と、その先は浮遊大陸の端ーつまりは断崖を臨む、浮遊大陸の中でも周縁部に近いルートでもある。
湖の先は断崖ーつまりは、湖の水が、滝のように浮遊大陸から流れ出ており、その受け皿が、さらに下方に位置する浮遊島の湖となっている。いや、下方の浮遊大陸の方が実は大きいので、ちょっとした海と表現した方がいいのかもしれない。おそらく、空から飛空船や飛空鎧で見れば、その光景がいかに幻想的な物なのかよくわかるだろう。
杏里も、小さい頃からよく父に聞かされていた話だが、実際にその光景を見たことはない。せいぜい、動画や写真で見たことがあるくらいで、実物を見たわけではなかった。彼女が、空にこだわるのも、実際に自分たちの住んでいる浮遊大陸が、外から見ればどのようなものなのか知りたいというのもあるのかもしれない。
「カイト、町についたら、さっそくお医者様に診てもらいましょう。念のためよ」
「そうだね・・・娘の能力を信用していないわけではないが、一度きちんと診てもらった方がいいだろう。グエン爺さんのところに行くか」
グエン爺さんーというのは、町で診療所を開いている老医者だ。元々は他の町で診療していたらしいが、数年前からこちらに診療所を開いて、町のみんなの面倒を見てくれている。人柄もよく、町中の人から慕われている人物だった。
杏里も、持ち前の治癒能力を生かして、しばしばグエン爺さんの手助けをしていたりする。この前など、このまま看護師にならんかと誘われたくらいだった。実際のところ、杏里の治癒能力はかなり高く、それゆえ人手不足になりがちな診療所にとって杏里がいかにありがたい存在であるかは、改めて語るまでもないことだ。
ただ、杏里にもやりたいことはある。それは、カイトとの出会いで、単なる憧れから、将来の夢へと強化されていった。
ーー
少しして、街道も終わりが近づいてきた。門が見える、どうやら、町の入り口に到着したようだった。
「よし、ここが町の入り口だ、ようこそ、カイト君。僕たちの町ナジェーツァへ」
「町・・・と言っても、そう大きな場所ではなくてね。みんな家族みたいなもんさ」
ははは・・・と笑いながら、杏里の父・壮太が町について語り始めた。
「もっとも、町からさらに北に行けば大きい都市もあるけどね・・・さて、もうすぐだ」
自動走行車は、浮遊大陸の決められたルートを走行する現文明の主要交通手段だ。そして、今カイトたちの車が走っている街道は、左手に湖と、その先は浮遊大陸の端ーつまりは断崖を臨む、浮遊大陸の中でも周縁部に近いルートでもある。
湖の先は断崖ーつまりは、湖の水が、滝のように浮遊大陸から流れ出ており、その受け皿が、さらに下方に位置する浮遊島の湖となっている。いや、下方の浮遊大陸の方が実は大きいので、ちょっとした海と表現した方がいいのかもしれない。おそらく、空から飛空船や飛空鎧で見れば、その光景がいかに幻想的な物なのかよくわかるだろう。
杏里も、小さい頃からよく父に聞かされていた話だが、実際にその光景を見たことはない。せいぜい、動画や写真で見たことがあるくらいで、実物を見たわけではなかった。彼女が、空にこだわるのも、実際に自分たちの住んでいる浮遊大陸が、外から見ればどのようなものなのか知りたいというのもあるのかもしれない。
「カイト、町についたら、さっそくお医者様に診てもらいましょう。念のためよ」
「そうだね・・・娘の能力を信用していないわけではないが、一度きちんと診てもらった方がいいだろう。グエン爺さんのところに行くか」
グエン爺さんーというのは、町で診療所を開いている老医者だ。元々は他の町で診療していたらしいが、数年前からこちらに診療所を開いて、町のみんなの面倒を見てくれている。人柄もよく、町中の人から慕われている人物だった。
杏里も、持ち前の治癒能力を生かして、しばしばグエン爺さんの手助けをしていたりする。この前など、このまま看護師にならんかと誘われたくらいだった。実際のところ、杏里の治癒能力はかなり高く、それゆえ人手不足になりがちな診療所にとって杏里がいかにありがたい存在であるかは、改めて語るまでもないことだ。
ただ、杏里にもやりたいことはある。それは、カイトとの出会いで、単なる憧れから、将来の夢へと強化されていった。
ーー
少しして、街道も終わりが近づいてきた。門が見える、どうやら、町の入り口に到着したようだった。
「よし、ここが町の入り口だ、ようこそ、カイト君。僕たちの町ナジェーツァへ」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる