テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

ミケとポン太

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水無杏里の物語(第6話)

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 杏里の暮らしている町までは、歩いて1時間ほどー。

 治癒能力により、カイトのけがについてはほとんど治ったものの、体力的には万全というわけでもなく、さすがに1時間も歩かせるわけにもいかなかった。

 杏里は、自らの生体端末で町にいる家族に連絡を取り、事情を説明して、迎えに来てもらうことにした。

「もう少し待っててね、カイト。今、父の車が迎えに来てくれるわ」

 杏里からの連絡を受けて、父が自動走行車をよこしてくれるらしい。

「町までは・・・車だと15分くらいかしら・・・この辺りは、何にもないところだから、そんなにかからないかも」

 春の心地よい風に、その黒髪を靡かせながら、杏里は空を見上げる。星形の髪飾りが、日の光を反射して煌いていた。

 カイトが空のハンターのチームの一員だということを知り、自分も一度でいいから、天空の世界を見てみたいという気持ちが沸き起こってきた。もちろん、自分たちが暮らしている町が、空の上ー浮遊大陸内に存在していることくらいは把握している。だが、生まれてこの方、この浮遊大陸はおろか、町から出たことさえ数えるくらいしかない彼女にとっては、ほとんど空の世界を知らないのと同じことだった。

 一度でいいから、外の世界を見てみたいー少女のささやかな願いは、しばらくしてから、思いもよらぬ形で叶えられることとなるー。

「杏里の町かぁ。どんなところだろうな」

 カイトはカイトで、チームの性質上あまり人の多い集落では生活したことがなく、その生活圏のほとんどが空の上だったので、杏里の住まう町がどのようなものか、期待に胸を膨らませていた。

「町・・・と言っても、小さい町よ。村に近いかなぁ」

 杏里は、そんなカイトの姿を見て、くすくすと笑いながら、自分の町について簡単に説明する。

「一応、学校とか教会とかもあるんだけどね。規模としてはそんなに大きくはないわ。おかげで、町全体が一つの家族みたいなところもあるわね」

 実際、規模の大きくない町だけに、近所はみんな親戚みたいな雰囲気はある。かといって、よそ者に対して閉鎖的ーというわけでもない。

「でも、町に行くなんていつ以来かなぁ。僕は生まれてこの方、ほとんど空の上で暮らしてきたからね」

「大丈夫、みんないい人たちばかりだから、すぐにカイトのことを受け入れてくれると思うよ」

 カイトの生涯は、そのほとんどが空の上である。元々孤児だったのを、チームマスターの気まぐれにより拾われ、それ以降は子供のころからハンターとなるべく常に空の上で訓練ばかりの日々だった。チームの面々は男ばかりで、常に喧騒が絶えない毎日を送っていた。

 したがって、町なんてほとんど訪れたことはない。買い出しの時に、行かされたことは確かにあったが、それも数えるくらいしかなかった。

「あ、もう車が来たみたいよ」

 杏里が、こちらに向かって走ってくる自動走行車を見つける。中には、男性が乗っているが、おそらく彼が杏里の父なのだろう。自動走行車というだけあって、杏里の父は特に運転している様子もなく、車の中でゆったりとしているようだった。

 車が杏里たちの前に止まると、中から杏里の父親が出てきた。

「やあ、君がカイト君、だね?」

 人のよさそうな笑顔を浮かべながら、杏里の父は手を差し出してきたー。
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