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カルミナとブラーナ(第3話)

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 武人から、残りの男どもはまだ寝ているのではないかと聞かされ、カルミナとブラーナは仕方なく、操舵室を後にして、彼らの部屋へと赴くことにした。

「まったく、あいつらときたら、いつまで寝てるつもりなのよ」
 
 憤慨するカルミナに対し、隣を歩いていたブラーナが、

「あら、カルミナだって、私が起こしてあげなければ寝坊していたかもしれないわよ?すごーく、寝入っていたから」

と、カルミナをからかい始めた。うっ・・・と痛いところを突かれたといった感じで、思わずカルミナが息を呑む。

「でも、おかげでカルミナの可愛い寝顔もばっちり見れたし、目覚めのチューも・・・」

「って、やめてブラーナ!!」

 今朝のことを思い出したのか、顔を赤らめてブラーナを制するカルミナ。

「それに、あれは「チュー」じゃなくてもはや「人工呼吸」じゃないのよ・・・あたしの鼻を抑えて息を思いっきり吹き込むなんて」

 思い出しただけで、顔から火が出そうな感じになる。

「その方が、朝の目覚めには刺激的かな~と思って」

 全く悪びれることなく、ブラーナがにんまりとした顔で返す。

「それに、私の吐息がカルミナの中に吹きこまれるなんて、なんていうか、すごくゾクゾクしちゃうわ・・・」

「ああ、もう!」

 ・・・いつものことではあるのだが、カルミナは大抵、年上のブラーナに言い負かされ、いじられる結果となる・・・が、それもあとで思い返せばこんなおふざけじみたやり取りですら、二人にとってはとても心地が良い時間でもあったのだ。

「刺激って言うなら、夜で十分でしょ」

 そう言って、プイっと顔を背けるカルミナ。

 同室で寝泊まりする彼女たちにとって、もはや寝床は愛の巣ともいうべき状態となっていた。部屋は、狭い船室ながら外部に音が漏れない防音ー。

 これなら確かに、彼女たちがどれだけ喘いだとしても、その声が外部に漏れるということはないー。

「そうねえ、夜のカルミナって、とても激しいものねえ」

 またからかうようにブラーナがつぶやく。そんなブラーナの口元に人差し指を押し当て、

「だ~か~ら~、周りにあたしたちの関係が知られないようにしないと!誰が見てるか聞いてるかわからないんだから、不用意に恥ずかしいことは言わないの!」

 昨晩のことを思い出し、さらに顔を紅潮させながら、ブラーナに制止を求めた。

「んもう、残念ねえ、私たちの関係を見せつけてやりたいのにぃ」

 ・・・これもブラーナのおふざけなのだろうが、冗談ではない。あくまでも、二人だけの秘密にしておきたいー少なくとも、今のうちは。

「ふふ、冗談よカルミナ。ちょっと、いじめ過ぎたかしらね」

 カルミナに寄りかかりながら、その頬に軽く接吻する。

「・・・!言った傍から・・・」

 すぐにカルミナの傍から離れ、軽く手を振りながら先に男どもの部屋へと向かうブラーナ。そんな彼女の後姿を、ため息交じりで見やりながら、

「まあ、今のうちは、まだこのくらいの関係にしておこうよ、ブラーナ」

と、独り言ちたー。

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