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チーム《ユグドラシル》と教会騎士たち(第18話)

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「私が操るのは・・・毒なんだよ」

 早苗の言葉通り、魔力化した根っこから神経毒が蟲憑きに注がれていった。

「・・・!?」

 気が付いた時にはすでに遅し。蟲憑きは、憑りついている人体が動けなくなり、自身もまたその肉体に拘束される羽目となったのだ。

 蟲憑きが、一度憑りついた人間から離脱するのは、容易なことではない。一度人間の脳まで浸食してしまったがために、ほぼ融合に近い状態となり、まさに「一蓮托生」といってもいい形となるためだ。

 離脱する手段が全くないわけではないが、少なくとも、敵を目の前にしてすぐさま実行できるような、そんな生易しいものではない。一度憑りついた人間から離れるためには、複雑な神経系を持つ脳から完全に離れる必要があるため、相応の時間を要することになるのだ。

 尤も、蟲憑きが離脱したからといって、憑りつかれた人間が元に戻るわけではない。結局は死亡するー蟲憑きに脳を支配され、その神経系を冒された時点で、もはや助かる道は、残されてはいない。

「私の蝶や根っこは、それ自体が毒属性の魔法で作られているんだよ。だから、少しでも触れるとこのように身動きできなくなっちゃうんだ」

 相変わらずの間延びした口調ではあるが、それでもさらりと恐ろしいことを言い放つ早苗であった。

 さらに付け加えるなら、早苗よりも圧倒的に魔力の素質が低いものであれば、蝶にしろ根っこにしろ、視認することさえできない。つまりは、相手は知らぬ間に動きを封じられ、場合によってはその毒の量次第で死に至るということもあるのだった。

 さすがに、早苗も自身の能力の危険性は熟知しているので、操る毒の特性や致死量くらいは把握している。今回は、相手の動きを封じられる程度の神経毒を用いた。

「さすがは早苗・・・普段はおっとりしとるのに、本気になると怖いのう」

 モリガンが、以前の「毒舌ニャンドラゴラ」の一件を思い出しながら、恐る恐る早苗の様子を窺う。もちろん、早苗は、普段と何一つ変わらない様子に見えたが、逆にそれが怖かったりする。

「まあ、前にも言った通り、鏡香さんとこいつだけは怒らせるとろくなことがないからな・・・肝に銘じておくんだ、モリガン」

「・・・うむ・・・」

「うう・・・」

 晶とモリガンがひそひそとやり取りしている間に、既に蟲憑きはその場に倒れ伏し、もはやうめき声をあげることくらいしかできなくなっていた。おそらく、早苗の放った神経毒が全身に行き渡ったのだろう。こうなればもはや抵抗することさえできないだろう。

「さて・・・」

 そんな蟲憑きの様子を確認し、晶が倒れ伏している蟲憑きに近寄るー魔笛剣を片手に。

「とどめはオレが刺す」

 そう、最初に宣言したとおり、この蟲憑きにーそして憑りついている人間にとどめを刺すーそれは、自分の役目なのだ。

 晶は、蟲憑きの傍に立つと、剣の切っ先を蟲憑きー男の心臓付近に向けたー。
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