上 下
134 / 464

ゼクスとイリア(第5話)

しおりを挟む
 イリアの放った一撃は、少なくとも正確に敵を捉えていたはずだった。だがー。

「!」

「なんだと!」

 目の前の光景に、ゼクスは息を吞み、イリアは驚愕して叫んだ。

 魔物を貫いたはずの矢が、その前に消滅してしまったのだ。それだけではなく、まるで撃たれたことがきっかけであるかのタイミングで、魔物自身が2体に分裂したー。

「馬鹿な、聖十字魔法はきちんとかけたはず。魔物にかき消されることはないはずだろ」

 聖十字魔法は、魔物に対しては絶対的な弱点である。より高位の魔族であるならばともかく、それより格下の魔物に、防ぐ術はない。

「こいつは魔族ではないはずだ・・・しかも、こいつの放つ魔力波動のレベルを考えてみても、そこまで強力な個体でもない。一体、こいつは・・・」

 ゼクスが言う通り、この魔物自体はそんなに強いやつではない。少なくとも、この魔物から発せられる魔力の波動のレベルは、決して高いものではなかった。

「くそ、どうなってんだよ、ゼクス!」

 イリアが、再び魔物に狙いを定めるーとはいっても、相手はすでに2体になっているので、一度に狙えるのは1体だけではあるがー。

「イリア、今は退いた方がいい」

「はあ!逃げるっていうのかよ、ゼクス」

 イリアが激昂して相棒を振り返った。

「冗談じゃねえよ!なんでこんな奴相手に逃げなきゃいけねえんだ」

 納得できないイリアが食って掛かるが、ゼクスは冷静に応じた。

「逃げる・・・というよりも、今ここで攻撃を続けても、多分さっきと同じになる。おそらくだが、こいつ自身は「強くはない」と思うんだけど、他に何らかの要因が働いているから、こちらからの攻撃が効かないんだ」

 そう、この魔物自体は強くはない。だとしたら、問題は他にあるはずだ・・・。

「例えば、こいつは囮で、他に誰かが操っている可能性もある。この魔物自体に、聖十字魔法を無効化したり、分身したりする能力はないはずだし」

 以前にも、ゼクスとイリアはこのタイプと似たような魔物とやり合ったことがある。だからこそ、この手の連中の性質はある程度わかっているつもりだ。より高位の魔族ならともかく、このレベル帯の魔物にここまでの芸当ができるわけがない。

「さっき、こいつが分身した際、林の中に、魔力の波動の歪みが生じた。わかりにくいように偽装しているみたいだったけどね。それである程度位置は掴めたよ」

「つまり、そいつが本当の獲物ってことになるのか」

「そうだろうね、こいつは単なる囮さ。倒すのは後回し・・・ていうか、今の段階ではいくら相手にしても、いたずらに消耗させられるだけだよ」

 ゼクスの説明を受けて、イリアもとりあえずは納得したようだ。ボウガンを下ろし、2体の魔物をにらみながら、

「なら、そいつのところにさっさと行こうぜ。そいつさえぶちのめせば終わるんだろ」

「確かに、そうだけど・・・」

 ただ、問題なのはイリアの聖十字魔法を無効化できるだけの能力を持つ相手だということだ。果たして、真正面から立ち向かっても勝てる見込みはあるのかー。
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 ---    『才能』が無ければ魔法が使えない世界で類まれなる回復魔法の『才能』を持って生まれた少年アスフィ。 喜んだのも束の間、彼は″回復魔法以外が全く使えない″。 冒険者を目指し、両親からも応援されていたアスフィ。 何事も無く平和な日々が続くかと思われていたが事態は一変する。母親であるアリアが生涯眠り続けるという『呪い』にかかってしまう。アスフィは『呪い』を解呪する為、剣術に自信のある幼馴染みの少女レイラと共に旅に出る。 そして、彼は世界の真実を知る――  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

処理中です...