テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

ミケとポン太

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ゼクスとイリア(第5話)

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 イリアの放った一撃は、少なくとも正確に敵を捉えていたはずだった。だがー。

「!」

「なんだと!」

 目の前の光景に、ゼクスは息を吞み、イリアは驚愕して叫んだ。

 魔物を貫いたはずの矢が、その前に消滅してしまったのだ。それだけではなく、まるで撃たれたことがきっかけであるかのタイミングで、魔物自身が2体に分裂したー。

「馬鹿な、聖十字魔法はきちんとかけたはず。魔物にかき消されることはないはずだろ」

 聖十字魔法は、魔物に対しては絶対的な弱点である。より高位の魔族であるならばともかく、それより格下の魔物に、防ぐ術はない。

「こいつは魔族ではないはずだ・・・しかも、こいつの放つ魔力波動のレベルを考えてみても、そこまで強力な個体でもない。一体、こいつは・・・」

 ゼクスが言う通り、この魔物自体はそんなに強いやつではない。少なくとも、この魔物から発せられる魔力の波動のレベルは、決して高いものではなかった。

「くそ、どうなってんだよ、ゼクス!」

 イリアが、再び魔物に狙いを定めるーとはいっても、相手はすでに2体になっているので、一度に狙えるのは1体だけではあるがー。

「イリア、今は退いた方がいい」

「はあ!逃げるっていうのかよ、ゼクス」

 イリアが激昂して相棒を振り返った。

「冗談じゃねえよ!なんでこんな奴相手に逃げなきゃいけねえんだ」

 納得できないイリアが食って掛かるが、ゼクスは冷静に応じた。

「逃げる・・・というよりも、今ここで攻撃を続けても、多分さっきと同じになる。おそらくだが、こいつ自身は「強くはない」と思うんだけど、他に何らかの要因が働いているから、こちらからの攻撃が効かないんだ」

 そう、この魔物自体は強くはない。だとしたら、問題は他にあるはずだ・・・。

「例えば、こいつは囮で、他に誰かが操っている可能性もある。この魔物自体に、聖十字魔法を無効化したり、分身したりする能力はないはずだし」

 以前にも、ゼクスとイリアはこのタイプと似たような魔物とやり合ったことがある。だからこそ、この手の連中の性質はある程度わかっているつもりだ。より高位の魔族ならともかく、このレベル帯の魔物にここまでの芸当ができるわけがない。

「さっき、こいつが分身した際、林の中に、魔力の波動の歪みが生じた。わかりにくいように偽装しているみたいだったけどね。それである程度位置は掴めたよ」

「つまり、そいつが本当の獲物ってことになるのか」

「そうだろうね、こいつは単なる囮さ。倒すのは後回し・・・ていうか、今の段階ではいくら相手にしても、いたずらに消耗させられるだけだよ」

 ゼクスの説明を受けて、イリアもとりあえずは納得したようだ。ボウガンを下ろし、2体の魔物をにらみながら、

「なら、そいつのところにさっさと行こうぜ。そいつさえぶちのめせば終わるんだろ」

「確かに、そうだけど・・・」

 ただ、問題なのはイリアの聖十字魔法を無効化できるだけの能力を持つ相手だということだ。果たして、真正面から立ち向かっても勝てる見込みはあるのかー。
 

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