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吾妻晶と清野早苗(第15話)

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ーー晶視点ーー

 この「ブサニャンコもどき」が、少なくとも害をなす存在ではないことが分かった・・・といっても、たいして世の中の役に立ちそうもないやつではあるが・・・。


「しっかし、お前よくそんなので今まで生きてこれたよなぁ」

 ものすごーく、素朴な感想を漏らしてしまった。

 いざという時に酒とおつまみしか出せず、さらにはその短い四つ足で逃げ回るしか能がないとは。

「ふふふ」

 またも、意味不明なタイミングで不敵に笑うミケさんであった・・・もうこいつのことはほっといてもよさそうな気がするが・・・清野はまだこいつに興味があるようだし、仕方がない、一応最後まで付き合うことにするか・・・。

「我輩ニョ見事な野良ニョら変化に恐れをニャして、何者ニャにもニョも我輩に手出しできニャかったニョですニャー」

 ・・・まあ、要するにこの「ブサニャンコもどき」は、周りからろくに相手にされてこなかったというわけだな。確かに一種の「処世術」と言えるのかもしれないが、なんというか、色々な意味で哀れではあるような。

 まあ本人がそのことに気が付いていないのであれば、それはそれで幸せなのかもしれないので、敢えて気づかせる必要もないだろう・・・。

「さらには、我輩は、こニョ「召喚魔法」によって飢える心配もニャかったですニャー」

「その代わり、アル中にはなってそうだけどな」

 毎食、食事の代わりに缶ビールと柿ピーと枝豆では、かなり健康に不安があるような気がするのだが・・・そのうち高血圧症に悩まされる日も来るのではなかろうか・・・最も、害蟲駆除をやっているオレだが、蟲に高血圧症があるのかまでは知らん。

「ただ、そんニャ我輩にも困ったことがあるニャ」

「ほ~」

 もはや、こいつ相手にまともな話は期待できないので、オレは完全にやる気のない声で適当に相槌を打った。

「ミケさんの困ったことって何?」

 どうやら、清野の方は興味津々のようである・・・まあ、彼女にとっては可愛ければ(オレは可愛いとは認めないがな!)全てOKということなのだろう。元々すぐに誰とでも仲良くなれるのが清野の特技でもある。もはや、ミケさんは完全にお友達となっているようだ。

「我輩は野良ニョらという立場ニャ」

「まあ、そうだろな」

「うんうん」

 野良猫・・・というか、野良蟲というべきか。要するに野生の存在である。

「したがって、ホームレスにゃ!!」

「!」

「可哀そう!!」

 ・・・清野は同情しているようだが、敢えて言わせてもらうか・・・。

「あのな、ミケさんよ」

「ニャ?」

 オレは、盛大にため息をつきながら、

「野良というのは、本来根なし宿なしで、ホームレスなのは当たり前だ」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ガーンという感じの表情で(というか、こいつの表情は本当にわかりにくいのだが、ある程度話をしているうちに少しはわかってきた気がする)、ミケさんが固まった。

「野良に家なんてあるわけねえだろ」

 家があるなら、それはペットとして飼われている猫だろう。普通、それは野良とは言わん。

「ウニャーン」

 駄目だ、こいつは。一般常識から完全にずれてしまっている。

「我輩、ホームレス確定ニャ!」

 今までどうやって生きて来たんだ、おのれはー。
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