43 / 464
吾妻晶と清野早苗(第6話)
しおりを挟む
二人の「野外公演」は、大絶賛の末に無事閉幕した。
春奈や多くの蟲達に見送られつつ、神社を後にする。いつか「春の領域」まで来る機会があれば、また寄ってみることにした。
気のいい連中に見送られながら、再び枝内部を散策することにする。枝の中では、巨大な天窓があるエリアに差し掛かった。
葉の場所にもよるが、葉の上の居住エリアで暮らしている晶たちにとって、空が見えるというのは普通のことであり、別段珍しいわけではない。ただ、枝の住民たちにしてみれば、空を見上げることができる場所が限られており、この場所のように枝の上部側をくりぬいて特殊強化ガラスがはめ込まれた天窓地帯しか太陽や月を見る機会はない。
この特殊強化ガラスはちょっとやそっとのことでは破ることはできない。物理強度だけの問題ではなく、魔法耐性もある素材が使われている。ゆえに、簡単には外部の害蟲も入ってくることができないのだ。
普段から見慣れている空だが、ここから見上げれば、また違った風情も楽しめるのだろうかー。
などと、晶が物思いにふけっていると、
「あれ、ここに学校があるよ」
早苗の指さした方向には、確かに旧文明時代を彷彿とさせる作りの学校と呼ばれている建物があった。
「そういえば、清野は学校に通っているんだったな」
前文明時代とは異なり、現在の社会において、集団教育は一部の例外を除いて行われてはいない。しかも、前文明時代において通学は半ば強制的なものだったらしいが、今は完全に個人の選択制だ。要するに、希望者だけが学校に通っているというわけだ。
一応、前文明時代に倣ったカリキュラムなどもあるらしく、義務教育というよりは「前文明時代の生活体験」をしたい生徒達が通う形となっている。
早苗は、生まれつき環境適応力が高く、どんな環境であってもすぐに適応し、周囲の人間とも馴染むことができた。その彼女からしてみれば、学校という施設は面白いらしい。
まあ、どんな場所にでも馴染んでしまうからな、清野はー。
晶は、早苗から学校での様子をしばしば聞かされていたが、はっきり言って彼には何がいいのかさっぱり理解できなかった。いいというか、自分にはそういう生活が耐えられないと思ったものだ。
わざわざ時間を浪費して、やることと言ったら座学と運動・・・何かの強制収容所かと思ったくらいである。しかも、前文明時代の人間はこの施設で十数年を過ごすというのだ。
さらにわからないのが、年齢によって通う場所が変わるということだ。具体的には小学校、中学校、高校、大学・・・といった具合に。このうち、高校、大学に関しては一応「本人の希望」ということにはなっているが、「進路」なるものにより半強制的に通うことになるらしく、自分の「希望」の高校や大学に入るために、ひたすら勉強をさせられるというのだ。しかも、ほとんどの場合座学の良しあしで「偏差値」なるものが決められ、それによりどこを目指すのかというのが決まってくるらしい。
つくづく自分には合わない制度だと思った。前文明時代に生まれなくてよかったーと心底感じた晶であった。
「晶君・・・」
「パス」
「まだ何も言ってない!」
早苗が「何か」を言いかける前に、その話題を「パス」することにする。早苗が少し膨れるが、関係ない。
「学校行こうよ、楽しいよ晶君」
・・・思った通りの内容だった。以前から、早苗に体験入学を勧められているのだ。もちろん、毎回断っているが・・・。
「オレには合わない、ああいう雑多な人間が集まるような場所は」
溜息交じりに晶は答えた。実際、彼は雑多な人間が集まるような場所はあまり好きではない。ましてやそこで共同作業や競争などは向いていない。
「うう~、楽しいと思うんだけどな~」
納得いかない感じの早苗だが、行く気がまるでわかないので仕方がない。
「それより早く「春の領域」へ行くぞ。さっきの神社で、けっこう時間を食ったしな」
これ以上この話を続けられてはかなわんと、さりげなく「春の領域」を持ち出して話題を変更する。
「それもそうだね」
早苗も渋々従う。
ーー
そんな2人の姿を、はるか後方から見つめる存在があった。神社の辺りからあとをつけてきたようだ。変わった追跡者の存在に、まだ2人は気が付いていなかった。
「ふふふ・・・」
何者かが不敵に笑う。
果たして2人の後を追うこの存在は何者なのかー。
それはこれから明らかとなるだろう。
春奈や多くの蟲達に見送られつつ、神社を後にする。いつか「春の領域」まで来る機会があれば、また寄ってみることにした。
気のいい連中に見送られながら、再び枝内部を散策することにする。枝の中では、巨大な天窓があるエリアに差し掛かった。
葉の場所にもよるが、葉の上の居住エリアで暮らしている晶たちにとって、空が見えるというのは普通のことであり、別段珍しいわけではない。ただ、枝の住民たちにしてみれば、空を見上げることができる場所が限られており、この場所のように枝の上部側をくりぬいて特殊強化ガラスがはめ込まれた天窓地帯しか太陽や月を見る機会はない。
この特殊強化ガラスはちょっとやそっとのことでは破ることはできない。物理強度だけの問題ではなく、魔法耐性もある素材が使われている。ゆえに、簡単には外部の害蟲も入ってくることができないのだ。
普段から見慣れている空だが、ここから見上げれば、また違った風情も楽しめるのだろうかー。
などと、晶が物思いにふけっていると、
「あれ、ここに学校があるよ」
早苗の指さした方向には、確かに旧文明時代を彷彿とさせる作りの学校と呼ばれている建物があった。
「そういえば、清野は学校に通っているんだったな」
前文明時代とは異なり、現在の社会において、集団教育は一部の例外を除いて行われてはいない。しかも、前文明時代において通学は半ば強制的なものだったらしいが、今は完全に個人の選択制だ。要するに、希望者だけが学校に通っているというわけだ。
一応、前文明時代に倣ったカリキュラムなどもあるらしく、義務教育というよりは「前文明時代の生活体験」をしたい生徒達が通う形となっている。
早苗は、生まれつき環境適応力が高く、どんな環境であってもすぐに適応し、周囲の人間とも馴染むことができた。その彼女からしてみれば、学校という施設は面白いらしい。
まあ、どんな場所にでも馴染んでしまうからな、清野はー。
晶は、早苗から学校での様子をしばしば聞かされていたが、はっきり言って彼には何がいいのかさっぱり理解できなかった。いいというか、自分にはそういう生活が耐えられないと思ったものだ。
わざわざ時間を浪費して、やることと言ったら座学と運動・・・何かの強制収容所かと思ったくらいである。しかも、前文明時代の人間はこの施設で十数年を過ごすというのだ。
さらにわからないのが、年齢によって通う場所が変わるということだ。具体的には小学校、中学校、高校、大学・・・といった具合に。このうち、高校、大学に関しては一応「本人の希望」ということにはなっているが、「進路」なるものにより半強制的に通うことになるらしく、自分の「希望」の高校や大学に入るために、ひたすら勉強をさせられるというのだ。しかも、ほとんどの場合座学の良しあしで「偏差値」なるものが決められ、それによりどこを目指すのかというのが決まってくるらしい。
つくづく自分には合わない制度だと思った。前文明時代に生まれなくてよかったーと心底感じた晶であった。
「晶君・・・」
「パス」
「まだ何も言ってない!」
早苗が「何か」を言いかける前に、その話題を「パス」することにする。早苗が少し膨れるが、関係ない。
「学校行こうよ、楽しいよ晶君」
・・・思った通りの内容だった。以前から、早苗に体験入学を勧められているのだ。もちろん、毎回断っているが・・・。
「オレには合わない、ああいう雑多な人間が集まるような場所は」
溜息交じりに晶は答えた。実際、彼は雑多な人間が集まるような場所はあまり好きではない。ましてやそこで共同作業や競争などは向いていない。
「うう~、楽しいと思うんだけどな~」
納得いかない感じの早苗だが、行く気がまるでわかないので仕方がない。
「それより早く「春の領域」へ行くぞ。さっきの神社で、けっこう時間を食ったしな」
これ以上この話を続けられてはかなわんと、さりげなく「春の領域」を持ち出して話題を変更する。
「それもそうだね」
早苗も渋々従う。
ーー
そんな2人の姿を、はるか後方から見つめる存在があった。神社の辺りからあとをつけてきたようだ。変わった追跡者の存在に、まだ2人は気が付いていなかった。
「ふふふ・・・」
何者かが不敵に笑う。
果たして2人の後を追うこの存在は何者なのかー。
それはこれから明らかとなるだろう。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる