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吾妻晶と清野早苗(第5話)

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 晶と早苗、2人の「野外公演」が始まったー。

 晶が笛を、早苗が舞を踊る。2人とも、特に前文明時代の伝統芸能に詳しいわけではない。笛による曲や扇の舞も、2人のオリジナルのものだ。だが、その腕前はなかなかに見事なものだった。

 今まで騒がしかった蟲達も、「野外公演」が始まると、しーんと静まり返り見入っていた。

 晶の笛の音に合わせて早苗が華麗に舞う。特に事前の練習などなく、即興で行ったものだが、それを感じさせないほどに2人の連携はとれていた。普段は、扇を武器に害蟲と戦う早苗だったが、こうしてみるとその姿は、害蟲駆除の戦士というよりは舞姫に近い。2枚の扇を巧みに操り、見る者の目をくぎ付けにする。それは、春奈だろうが蟲達だろうが同じことだった。

 軽やかさの中にしなやかさが混じる扇の舞に、繊細さを伴う笛の音が加わり、この場にいる誰もが魅了され、その場を動けなくなる。

 春奈も、実は前文明時代の伝統芸能に関する知識はない。蟲に至ってはなおさらのことだろう。だが、2人の「野外公演」がどれだけ秀逸なものかは、十分感じ取れたはずだ。

 やがて・・・「野外公演」の披露が終わると、最初に春奈が拍手を行い、それに続いて蟲達が一斉に拍手を送ってくれた。まずまず上々といった感じだった。

 今回の「野外公演」は即興のものだが、2人はこれまでにも何度か大勢の前で自分たちの舞を披露したことがある。もちろん、これから訪れる「春の領域」でも、2人は舞を披露するつもりだ。

「見事だったわ、二人とも。すごいお上手なのね」

 春奈が静かな笑みを浮かべて2人を絶賛した。

「おうおう、お二人さん。お似合いだぜ」

「どうじゃ、ここで一緒にわしらと暮らさんか」

「もう1曲頼むぞい」

 などなど、春奈だけでなく、蟲達からも数々の声援が送られてきた。ここまで好評だったのは初めてのような気がする。今まではせいぜい「おひねりポイント」がいくらか生体端末に送られておしまいというパターンが多かった。

 前文明時代において、大道芸で生計を立てる者は、しばしば路上でパフォーマンスを行い、代わりにおひねりをもらっていたらしい。このおひねりは、言うまでもなくお金だが、この時代においては貨幣は全て「ポイント」に置き換わっており、また、お金の価値や重要度は前文明時代とはだいぶ異なるものとなっている。

 早い話が、「お金はあっても無くても生活には左右されない」状態になっているのだ。よって、経済という言葉の
意味合いも前文明時代とはだいぶ異なっていた。

 前文明時代のような硬貨や紙幣などは、もはや流通してはいなかった。あくまでも歴史的資料として、前文明時代の遺産を扱った博物館にのみ展示されている。

 舞は終わったが、蟲達に熱烈なアンコールをされてしまった。ここで終わらせるのも何となく気が弾けるものがあった。

 今回の目的地である「春の領域」まではまだまだ道のりがあるが、ここで少々道草を食ったとしても、十分間に合う時間帯である。もう少しの間は、春奈や彼らに付き合ってみてもいいだろう。

 晶と早苗は再び「野外公演」を披露することにしたー。
 

 
 
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