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吾妻晶と清野早苗(第1話)
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チーム《ユグドラシル》の面々は、害蟲駆除以外の時は悠々自適である。各々が自分の趣味のために一日を費やしているというのがほとんどだった。
そんなわけで、《ユグドラシル》の一員である吾妻晶も、その例にもれず自室にこもり読書中である。彼の場合は、たいていが笛の練習か読書かいずれかで一日を過ごす。今日は読書の気分だった・・・騒がしい住民が押し掛ける前までは。
「晶君、お花見行こう!」
やたらとハイな少女の声とともに、部屋の入口が勢いよく開かれる。このチームに入って以来、ほとんど毎週のように繰り返される光景だった。《ユグドラシル》に入りたての頃こそこの突然の闖入者に驚かされたが、今となってはもはや慣れっこである。
「いつもながら元気だねえ、清野は」
軽く肩をすくめて晶が愚痴をこぼす。部屋に突然入られるのはもう慣れてしまったので、それについては何も言うまい。
声の主は清野早苗。晶とは2つ年下の14歳で、《ユグドラシル》の一員である。清野江紀の妹でもあった。まだあどけなさが残る年齢ではあるが、さすがにこのチームの一員なだけあって害蟲駆除の腕前はそれなりに確かである。
「花見って、「春の領域」まで繰り出すのか、今から?」
まあ、今から向かえば十分昼前には着くだろうが・・・今、わざわざ花見に行く必要があるのか・・・?
などと早苗に尋ねたところで、なんだかんだとはぐらかされて結局最後まで付き合わされることになるのはもはや目に見えている。
可愛らしい顔をして、意外と我を曲げないところがあるのだ、この清野早苗は。
そこら辺は兄である清野江紀には似なかったらしい。
「まあ、ここ最近部屋にこもりっきりだったし、たまには外で体でも動かそうかね」
軽く肩を回して立ち上がる。今の晶は、和式の部屋にふさわしく着物姿だった。前文明時代の日本の書生さんによく似た恰好ともいえる。
「清野、お前も着物姿か」
対する早苗も着物姿だった。花見に行くのに必ずしも着物でなくてもいいのだが、多分晶の恰好に合わせたのだろうか。
「うん、私、こういうの好きだよ」
早苗は着物を見せつけるかのごとく、くるりと回ってから笑顔を見せた。その姿に一瞬ドキッとしてしまう晶であった。
早苗は小奇麗な娘だった。まだあどけなさが残るものの、将来は間違いなく美人にはなるだろう。意外と薬師寺咲那や和泉鏡香といい勝負になるかもしれない。
・・・もっとも、本人はまだそういったことには疎いようだが。
「花見の席で皆さんに舞を披露します!」
何の脈絡もなく、いきなり早苗が宣言する。まあ、これもいつものことだった。彼女の言うことはいつも突然であり、結果的には最後まで振り回されることになる。
「舞ねえ、ってことは、オレは笛担当?」
わかってはいるのだが、敢えて訊いてみることにした。
「うんうん」
なんとも晴れ晴れとした表情であっさりと返答された・・・。
「私にはこれがあるしぃ」
そういってどこから取り出したのか、2枚の扇を広げて見せた。一瞬の早業といったところは見事である。
鉄扇士・清野早苗ーそれが彼女の通り名だ。彼女の扇は、本来は害蟲と戦うためにあるのだ。薬師寺咲那のエクセリオンと同じく魔力を宿すことで害蟲を切り裂く鉄の扇と化す。
「蟲退治に使う道具で舞を披露か・・・まあ、オレの笛も似たようなもんだが」
晶の笛もまた、魔力を宿すことで害蟲と戦う際の武器となるものだ。
「まあいいや、んじゃまさっそく「春の領域」に向かうとするか」
「うん!」
早苗が目を輝かせながら、早く早くと促す。全く・・・と毒づきながらも、どこか楽しそうな表情の晶が後を追ったー。
そんなわけで、《ユグドラシル》の一員である吾妻晶も、その例にもれず自室にこもり読書中である。彼の場合は、たいていが笛の練習か読書かいずれかで一日を過ごす。今日は読書の気分だった・・・騒がしい住民が押し掛ける前までは。
「晶君、お花見行こう!」
やたらとハイな少女の声とともに、部屋の入口が勢いよく開かれる。このチームに入って以来、ほとんど毎週のように繰り返される光景だった。《ユグドラシル》に入りたての頃こそこの突然の闖入者に驚かされたが、今となってはもはや慣れっこである。
「いつもながら元気だねえ、清野は」
軽く肩をすくめて晶が愚痴をこぼす。部屋に突然入られるのはもう慣れてしまったので、それについては何も言うまい。
声の主は清野早苗。晶とは2つ年下の14歳で、《ユグドラシル》の一員である。清野江紀の妹でもあった。まだあどけなさが残る年齢ではあるが、さすがにこのチームの一員なだけあって害蟲駆除の腕前はそれなりに確かである。
「花見って、「春の領域」まで繰り出すのか、今から?」
まあ、今から向かえば十分昼前には着くだろうが・・・今、わざわざ花見に行く必要があるのか・・・?
などと早苗に尋ねたところで、なんだかんだとはぐらかされて結局最後まで付き合わされることになるのはもはや目に見えている。
可愛らしい顔をして、意外と我を曲げないところがあるのだ、この清野早苗は。
そこら辺は兄である清野江紀には似なかったらしい。
「まあ、ここ最近部屋にこもりっきりだったし、たまには外で体でも動かそうかね」
軽く肩を回して立ち上がる。今の晶は、和式の部屋にふさわしく着物姿だった。前文明時代の日本の書生さんによく似た恰好ともいえる。
「清野、お前も着物姿か」
対する早苗も着物姿だった。花見に行くのに必ずしも着物でなくてもいいのだが、多分晶の恰好に合わせたのだろうか。
「うん、私、こういうの好きだよ」
早苗は着物を見せつけるかのごとく、くるりと回ってから笑顔を見せた。その姿に一瞬ドキッとしてしまう晶であった。
早苗は小奇麗な娘だった。まだあどけなさが残るものの、将来は間違いなく美人にはなるだろう。意外と薬師寺咲那や和泉鏡香といい勝負になるかもしれない。
・・・もっとも、本人はまだそういったことには疎いようだが。
「花見の席で皆さんに舞を披露します!」
何の脈絡もなく、いきなり早苗が宣言する。まあ、これもいつものことだった。彼女の言うことはいつも突然であり、結果的には最後まで振り回されることになる。
「舞ねえ、ってことは、オレは笛担当?」
わかってはいるのだが、敢えて訊いてみることにした。
「うんうん」
なんとも晴れ晴れとした表情であっさりと返答された・・・。
「私にはこれがあるしぃ」
そういってどこから取り出したのか、2枚の扇を広げて見せた。一瞬の早業といったところは見事である。
鉄扇士・清野早苗ーそれが彼女の通り名だ。彼女の扇は、本来は害蟲と戦うためにあるのだ。薬師寺咲那のエクセリオンと同じく魔力を宿すことで害蟲を切り裂く鉄の扇と化す。
「蟲退治に使う道具で舞を披露か・・・まあ、オレの笛も似たようなもんだが」
晶の笛もまた、魔力を宿すことで害蟲と戦う際の武器となるものだ。
「まあいいや、んじゃまさっそく「春の領域」に向かうとするか」
「うん!」
早苗が目を輝かせながら、早く早くと促す。全く・・・と毒づきながらも、どこか楽しそうな表情の晶が後を追ったー。
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