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清野江紀と薬師寺咲那(第13話)

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ーー咲那視点ーー

「そろそろ引導を渡してやるよ、蟲けら」

 あたしは亜人種型デミヒューマンタイプに向かって剣を突きつけ、宣言した。準備は整った。あとはこいつを倒すだけだ。

 あたしは、剣術と刀術の両方を会得した「刀剣士」だが、侍でもなければ騎士でもない。したがって、「武士道」や「騎士道」にも興味はない。ただ勝つ手があるのならいくらでもやる。

 今回の方法は、実はあまり好きなやり方ではないが、こいつの場合、いつまでも戦いを長引かせるよりも一気に決めた方が安全だ。

 確かにあまり褒められた方法ではないが、卑怯な手段というわけでもない。

 武士道、騎士道関係なしのあたしだったが、さすがに卑怯な手は使わない。あくまでも「嫌いな戦術」を行うだけだ。

 しかし、それでなければこいつは倒せないだろう。

 魔法剣を扱う者は、大抵が補助魔法を得意としている。派手な攻撃魔法や防御系の治癒魔法等は使えない代わりに、魔法耐性強化や攻撃力強化、場合によっては魔法反射すら行うことも可能だ。

 そして、もう一つ使える魔法がある。特に、相手が無尽蔵の魔力を有している場合には有効となる。

 それは、「魔力吸収系魔法」だ。

 相手から魔力を奪い、自分のものとする魔法ー確かに、相手の魔力に頼っているため、自分の力だけで戦っているとは言い難い。ゆえに、あたしもこの魔法はあまり使いたくはない。

 しかし、相手の能力を活用するというのも、好き嫌いはあっても「作戦」の一つとはいえる。少なくとも、この魔法を使えば卑怯者だと、みんなから後ろ指をさされるというわけではない。限りなく邪道には近い面もあるが、許容範囲ではあるだろう。

 この魔力吸収がこいつにうってつけなのは、この亜人種型デミヒューマンタイプのように、魔力を無尽蔵に持つやつというのは、意外と自身の魔力の消耗に無頓着であるからだ。こいつらの魔力の容量は、おそらくあたしら人間の数十倍・・・つまりは、多少の魔力の「漏出」くらいであれば、こいつらは気にしない、あるいは気が付かない傾向がある。

 もちろん、こいつが「一度に解放できる魔力の量」に関しては、限度があるだろう。それは、魔法球や移動地雷を維持し続けている間、鏡幕を再展開できなかった点からも推測できる。その瞬間で、おそらく出せる魔力量にリミッターが設けられている。これは、そうしなければこいつら自身の体が魔力の解放に耐えきれないからだ。

 したがって、いくら漏出を気にかけないとはいえ、一度に大量の魔力を吸収してしまえばさすがに感づかれてしまう。どのみち、亜人種型デミヒューマンタイプの魔力は膨大過ぎるので、まともに大容量の魔力を奪ってもあたしの体では吸収しきれない。最後、一発で仕留められる程度にエクセリオンを強化できればそれで問題はない。

 何度か斬り合い、大体相手を倒すのに必要な強度は計算できた。あとは魔力を奪いつつ、最後にぶちかます!

 そこで、こいつから、「チマチマ」と魔力吸収を行う。そのために、あたしはこいつに斬りかかり、細かな傷をつけていたのだ。わずかな傷から魔力を少しずつ拝借する。こいつが気が付かない程度には抑えつつ、しかし、人間であるあたしにとっては最後の一撃を繰り出すのに十分なほどの魔力供給を受ける。これがこいつらに対して有効な手だ。

 亜人種型デミヒューマンタイプが気が付かないように、あたしも自身が使う魔力に関しては抑えているように見せかける。そう見せかけた上で、やつから吸収した魔力を体内に蓄積する。相手に最後の一撃をくわえるその時にのみエクセリオンの刀身に魔力を送るのだ。

 もうそろそろ頃合いといったところかー。

 あたしは叫んだ。

「これで最後だ、行くぜ蟲けら!」
 
「それはこっちのセリフだよ、お嬢さん」

 亜人種型デミヒューマンタイプも勝負に出るつもりのようだ。これで決まる。

 あたしと亜人種型デミヒューマンタイプが、お互いの最後の一撃を繰り出したー。 
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