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清野江紀と薬師寺咲那(第6話)

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ーー江紀視点ーー

 さっさと片付けるー

 ローパータイプの蟲は、無数の目でオレの動きを捉えながら複数の触手を振り回してきた。まともに食らえば、人間など軽く吹き飛ばされるだろうが、戦い慣れているオレにとって、こいつの攻撃の軌道が手に取るようにわかる。かわすことなど朝飯前だった。

 蟲は、自身の攻撃が当たらないことに焦りを覚えたのか、咆哮しながらさらに触手を激しく振り回してきた。しかし、いくら振り回してもその軌道を読むのはたやすい。これが亜人種型デミヒューマンタイプなら、こうはいかない。戦いの中にも様々な駆け引きや相手の行動の裏を読む必要性が出てくるからだ。

 オレは2本の剣に魔力を込め始めた。

付与エンチャント!」

 自分の武器ほか装備しているものに魔力を込めることを付与エンチャントという。オレは2本の剣に、薬師寺は片手剣に対して付与エンチャントを行うことが可能だ。

 込める魔力の属性は、相手の弱点を推測して合わせることになる。もし推測できない場合は無属性の魔力を込める。もし相手が好む属性だと、こちらからの攻撃を吸収されてしまう恐れがあるからだ。それでは敵に塩を送る結果とになってしまう。

 とりあえず、過去に遭遇したローパータイプの蟲の属性を考慮して、炎属性で攻めてみることにする。双剣は赤みを帯び、やがて刀身部分が炎に覆われた。

 この手の連中の特徴の一つに、自分の触手を斬られても再生できるという性質がある。つまり、切り口を炎で焼かなければ何度も再生されてしまう恐れがあるのだ。

 オレは、迫りくる触手を相手に炎の双剣で片っ端から斬り払った。

「は!」

 斬られた触手は痙攣しながらも炎に包まれて激しく燃え上がり、瞬く間に灰と化していく。また、胴体部分に連結した残りの触手の部分も、切り口が燃えて再生できないでいるようだ。

 ここまでは順調・・・だが、ローパータイプにはもう一つの特徴がある。それは、無数の目玉から放つ魔力の光線だ。触手を封じられ、すぐには再生できなくなった場合の防衛本能みたいなものらしく、目玉から放つ怪光線で敵を攻撃する。また、この無数にある目玉の中には、しばしば相手に幻惑を見せるものも含まれており、触手さえ何とかできれば・・・と油断したところをやられたという者はかなりの数に上る。幻惑の効果は位置ずらしー敵の視覚をコントロールして、自分との距離感を狂わせる作用がある。ここに光線を食らってそのままやられるーというケースが後を絶たないのだ。

 とは言え、こいつ以上の蟲と今まで何度も戦ってきたオレにとっては、幻惑にさえかからなければ相手の光線など避けるのはたやすいことだ。いや、避けるどころかー

「はあ!」

 相手の光線を剣で弾き返すことも可能だ。この場合、双剣は無属性モードに切り替える必要があるが、そのチェンジもオレにとっては朝飯前の話である。

 あとは幻惑だが、これに関しては可能な限り相手の目玉を見ないことーまあ、無数にあるので、要は「集中してみないという意味」だーがポイントとなる。なるべく目を合わせないように心がけるべきだが、これは何も蟲に限らず「邪眼使い」と呼ばれる悪意ある特異能力者たちとの戦いでも重要なことだ。

 触手をもやされ、光線も回避されるか弾き返され、さらには幻惑も使えないーこれではローパーにできることはもはや何もないだろう。

「これでしまいだ」

 残った本体を両断する。けたたましい断末魔の叫びとともに、蟲の体を構成していた黒い霧のようなものが霧散霧消していくー。蟲は本来「怪異」なのだが、この苦悶に満ちた雄叫びを聞くに、ほとんど生物といっても差し支えないだろう。

 まあ、こいつらよりも上位の亜人種型デミヒューマンタイプは、明らかに生物そのものまで進化した姿と言えるが・・・。

「こちらは片付いたか」

 相手の魔力の波動が消滅したことを確認し、オレは他に何か潜んでいないか一応周囲を見回した。

 ーーこちらはもう大丈夫のようだ。

「さて、薬師寺の様子を確認しないとな」

 相手は亜人種型デミヒューマンタイプだ。今の薬師寺に果たして倒せるだろうか。

 もちろん、薬師寺が危うくなった時には加勢するつもりだ。彼女は怒るだろうが、仲間として生命の危機を見逃すわけにもいくまい。

 ちょうど、屋上から中庭を見下ろすことができた。薬師寺と亜人種型デミヒューマンタイプが激しくぶつかり合っている様子が窺がえる。

 この屋上からなら、オレならこのまま飛び降りて加勢することもできるがー。

「もうしばらく、様子を見るか・・・」

 実際のところ、オレも薬師寺がどれだけ腕を上げたか、直に確認したいと思っていたところだ。確かに、今回の亜人種型デミヒューマンタイプはその格好の相手ともいえるだろう。

「どれだけ成長したか、見させてもらうぞ、薬師寺」

 オレはしばらくの間戦いの行方を見守ることにしたー。
 
 

 
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